中国が“エンジンのないクルマ”である「電気自動車(EV)化×自動運転化」を加速させています。エンジン車では日米欧には追いつけないため、次世代の自動車産業で「強国」になろうとしているのです。しかも中国は国際条約を批准していません。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「自動運転走行やその実証実験について、中国はフリーハンドで実施できる優位な立場にある」と分析します――。(第2回)

※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第6章 「『中国ブランド』が『自動車先進国』に輸出される日」(全73ページ)の一部を再編集したものです。

■「大国」から「強国」への躍進をもくろむ中国

中国では、すでにEVメーカーが60社以上も存在すると言われています。まさに、群雄割拠の状況です。

従来のガソリン車と比較すると、EVでは吸気系・排気系が不要となり、エンジン系統での技術力や実績の価値が低下していきます。モジュール化・電子化・水平分業化が進み、多くの完成車メーカーが乱立していること自体、自動車産業への参入障壁が崩れ、業界構造がすでに崩壊していることの証左でしょう。

自動車「大国」から自動車「強国」への躍進をもくろむ中国としては、自動車先進国への輸出という具体的な目標まで提示したなかで、日米欧の自動車メーカーを超えることが必要です。

中国政府は、エンジン車では日米欧の自動車先進国には勝てないと認めていることから、“エンジンのないクルマ”である「電気自動車(EV)化×自動運転化」を先行して進めることによって、次世代自動車産業の「強国」になろうとしているのです。

■EVの購入者に100万円以上の補助金

中国政府の「自動運転化」への取り組みは、「自動車産業の中長期発展計画」(2017年4月)・「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」(2017年11月)を通して、「AI×自動運転」の国策事業やバイドゥの自動運転プラットフォーム「アポロ」として具体化しています。

一方、「電気自動車(EV)化」について、中国政府は実に戦略的な取り組みをしています。推進策と“選択と集中”策をまじえながら、真に国際競争力を伴う中国自動車産業のEV化を成し遂げようとしているのです。

まず、EVの推進策です。北京・上海など大都市では、ガソリン車に対して発行するナンバープレートを抽選制として制約を設ける一方で、EVの購入者はナンバープレートの取得が容易になっています。また、EVの購入者に対して日本円で最大100万円余りもの補助金が支給されたり、購入後もEVは特定の環状道路での走行規制が免除されたりと、優遇措置が講じられています。

先に述べた「自動車産業の中長期発展計画」(2017年4月)が実行に移されるなかで、2017年9月に「乗用車企業平均燃費・新エネルギー車クレジット同時管理実施法」(通称“NEV法”)が公布されました。これは、簡単に言えば、中国の自動車メーカーは、2019年以降、販売台数の10%以上を新エネルギー車(NEV)にすることが義務付けられる法律です。中国政府のEVシフトを強力に加速する政策と言ってよいでしょう。

■中国政府は20社程度に絞り込む方針

一方、EVの“選択と集中”策です。中国政府は、2009年6月の「新エネルギー車生産企業および製品参入管理規則」によって、EVを含む新エネルギー車(NEV)の製造事業について、一定の参入規則を設けました。2015年6月の「電気乗用車企業の新規設立に関する管理規定」では、純電気乗用車メーカーについての追加的な参入要件も設定されています。

そして2017年1月、2009年参入規則を改定し、新エネルギー車(NEV)の定義と範囲が明確にされるとともに、安全面での参入要件の引き上げ・検査措置の整備・法的責任の強化などがほどこされました。要件に関わる審査を通過できないNEVメーカーは、助成金受給資格の失効などにより優遇措置を受けることができなくなっています

実際、NEVの適合違反によって行政処分を受けた自動車メーカーも出てきています。さらに、財政負担の軽減や保護主義への懸念などもあり、中央・地方政府によるNEVメーカーへの助成金が段階的に廃止される可能性もささやかれています。

中国でEVメーカーが乱立するなか、中国政府は同メーカーを20社程度に絞り込む方針を明らかにしました。独メーカーでもEVライセンス認可を取得するのに苦労しており、独政府とともに主要メーカーが水面下での工作を進めているとも伝えられています。中国政府は、中国資本の完成車メーカーを手厚く支援し、国際競争力を持つNEVメーカーを育成するとともに、次世代自動車産業での競争を優位に進めたいという意向もあるようです。

■外国資本でリスト登録を果たした企業はない

中国資本の自動車メーカーや電池メーカーへの手厚い優遇策も、あからさまと言わざるをえません。NEVメーカーが中国政府から助成金を受け取るためには、「新エネルギー車普及応用推薦車リスト」(2017年1月公布)に載らなければなりません。

同リストに載るには、「ホワイトリスト」登録企業(バッテリー模範基準認証の取得企業)から電池を調達することが条件とされています。しかし、現時点では、大連で車載用リチウムイオン電池の工場を稼働させたパナソニック、韓国のサムスン電子やLG化学をはじめ、外国資本で同リストに登録を果たした企業は存在しない状況です。

中国の自動車専門誌『汽車商業評論』が、興味をひく集計をしています。それは、中国での2017年上半期の販売実績を“NEV法”にあてはめて、各自動車メーカーの「新エネルギー車(NEV)ポイント」を計算したものです。

それによれば、基準値以上の「NEVポイント」を稼いで他社へ転売できる「黒字」を出したのは「アポロ」のパートナーであるBYD(比亜迪汽車)、NEV販売の伸びが最近著しい北京汽車、ボルボなどを傘下におさめ国際戦略に長(た)けた吉利汽車など数社のみ。一方で、フォルクスワーゲン、トヨタなどをはじめとする外国資本や、ガソリン車での市場シェアが大きい国営の自動車メーカーは、「NEVポイント」を他社から購入しなければならない「赤字」に陥っています。

■自動車産業は国際政治と表裏一体

NEV法は、中国政府の「電気自動車(EV)化」(NEV化)への確固とした姿勢が見える一方で、既存自動車メーカーや外資メーカーにとっては相当厳しい義務が課された格好になっています。自動車メーカーのなかには、次世代自動車産業でのNEVの重要性を認識し、ガソリン車販売を数年後には廃止するなどの野心的な経営計画を掲げている企業もあります。

しかし、NEV法の基準をクリアすることさえも困難な状況で、その実現可能性は疑問視もされています。一方、新興自動車メーカーは、中国EVブームの流れにのって多額の出資が集まる傾向にはあるものの、健全な収支計画が見通せないなど、まだまだ不透明と言わざるをえないでしょう。

そうしたなか、引き続き、中国政府の政策展開やそれに合わせたNEVメーカーの動きには注視する必要があります。自動車産業は国際政治と表裏一体です。中国のEVシフトが次世代自動車産業の変革・再編、ひいては日本の自動車メーカーにも大きな影響を及ぼすことは間違いないでしょう。

■ライドシェアを完全に合法化したワケ

先に述べた「自動車産業の中長期発展計画」(2017年4月)・「乗用車企業平均燃費・新エネルギー車クレジット同時管理実施法」(通称“NEV法”、2017年9月)・「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」(2017年11月)は、中国政府の自動車産業政策を特徴づける三つの重要な政策コンテンツです。

さらに、もう一つ、触れておかなければならない重要な政策があります。それは、2016年7月公布・同年11月施行の「インターネット予約タクシーの経営サービス管理暫定法」です。ひと言でいえば、ライドシェアを認める法律です。定義によっては、白タク行為とも捉えられかねないのがライドシェアです。世界では軋轢を生みながらもそのサービスが拡大するなか、中国は、法律を制定することによって、ライドシェアを完全に合法化したのです。

同法律のなかでは、ライドシェア会社は「網約車プラットフォーム企業」と呼ばれています。“網約車”とはインターネットで予約するタクシーのことです。「網約車プラットフォーム企業」は、政府当局から経営許可を取得すること、インターネット情報サービス企業としても届出をすることが定められています。料金などは政府が決定すること、中国国内にサーバーを置くこと、顧客情報と自動車の走行データは2年間保存すること、採算割れとなる営業を禁止すること、といった条件も付けられています。

以上のように、中国の自動車産業政策は、電気自動車(EV)を含む新エネルギー車(NEV)、人工知能(AI)、自動運転、さらにはライドシェアのようなサービスもカバーしながら展開されています。

■自動車の運転を規制する国際条約は2つ

自動車を購入する消費者のレベルで言えば、政府は、NEVへの買い替えを促すような補助金などの政策によっても、脱ガソリン車を推し進めています。中国は、まさに、CASE(コネクティビティ・自動運転化・シェアリング&サービス化・EV化)をいち早く政策に取り込むことで、次世代自動車産業への影響力を確保しようとしているのです。

ここで、自動運転に関する国際的な法整備について、説明を加えておきます。自動車の運転を規制する道路交通に関する条約は二つ存在します。一つは1949年に署名されたジュネーブ道路交通条約。日・米・英・仏・蘭などが署名・批准しています。

もう一つは1968年に署名されたウィーン道路交通条約です。主に欧州の国家が署名・批准し、日米は含まれていません。これら条約には、共通して、“自動車の運転にはドライバーがいなければならない”“自動車の運転はドライバーによるコントロールがなされなければならない”と規定されています。この規定が、自動運転が国際法上認められていなかった法的な根拠です。

■中国は2つとも「署名・批准」をしていない

自動運転社会の機運が高まるなか、条件付きながら自動運転が法的に可能となるような、これら条約の改正作業が行われました。ウィーン条約は改正が採択・批准され、2016年に施行に至っています。

しかし、ジュネーブ条約については、同様の改正が採択されたものの、批准国が多数に至らず施行されないままとなっています。日米が加盟するジュネーブ条約の改正作業が滞ると同時に、国際法上のズレも発生している状況です。

中国は、両方の条約ともに署名・批准をしていません。つまり、少なくとも国際法上は、中国は自動運転に関する規制を強制されることはないのです。

見方によれば、自動車先進国の日米欧が法整備で時間を費やし、また国内法でなんとか工夫をしながら自動運転の準備を進めるあいだに、中国は、ある意味フリーハンドで、自動運転走行やその実証実験を“国を挙げて”実施できるのです。このことも、中国の自動車産業政策にとってプラスとなる側面はあるはずです。

■中国の最大手3社が合併し、世界最大級のメーカーに?

中国では、EVメーカーが乱立しているのとは裏腹に、自動車メーカー“ビッグ5”のうち第一汽車・東風汽車・長安汽車の最大手3社が合併し、中国政府をオーナーとする世界最大級の自動車メーカーが誕生するという可能性もささやかれています。もし実現すれば、国内事業者同士の競争による資源の浪費を避けることができ、中国自動車産業の国際化を加速できるというわけです。

実は、このような国家競争戦略には先例があります。2015年、中国の二大鉄道車両メーカーであった中国南車と中国北車の合併によって、「中国中車(CRRC)」が設立されました。これは、欧米鉄道ビッグ3を上回る超巨大鉄道車両メーカーの誕生を意味しました。合併の効果によって、中国中車の価格競争力が高まるとともに、“オールチャイナ”を前面に出した営業攻勢もされ、鉄道車両製造分野での中国の国際的なプレゼンスが格段に向上したのです。実際に、合併による中国中車の誕生後は、“オールチャイナ”として東南アジアや南米などで日米欧大手との受注競争に挑んでいます。

■中国国内で消耗戦をしている場合ではない

中国は、「規模の経済による競争力強化で世界進出」というのは、鉄道車両業界で経験済みなのです。EV化・自動運転化・スマート化などへの対応によって、次世代自動車産業の開発コストはこれまでとは桁違いなものになってきています。特に、車載OSから、ハードとしてのクルマ、ソフトとしてのサービスまで一気通貫で覇権を握ろうとするなら、中国国内で消耗戦をしている場合でないのは明白でしょう。

すでに戦略提携に至っている第一汽車・東風汽車・長安汽車の合併構想には、中国中車(CRRC)の設立に際して中国が採用した戦略が垣間見えます。「アポロ」パートナーでもあるこれら3社の世界の自動車生産台数は、年間1000万台を超えると言われ、現時点で世界第3位のシェアを持つことにもなります。これら3社は、「ナショナルチーム」として、EV・AI・自動運転といった最先端分野の研究・開発力を高めると同時に、海外展開を加速し、「中国ブランド」の国際化を推進するとしています。

自動車産業の戦いは、フォルクスワーゲン、トヨタ、GM、ルノー・日産・三菱連合が販売台数で「1000万台クラブ」のメンバーとなる一方、それら以外の自動車メーカーは離されてきている状況です。

■中国の巨大自動車メーカーの誕生が業界再編の起爆剤に

中国政府が「中国ブランド」の自動車先進国への輸出を目標に掲げるなかで、それぞれ合弁を組んだり提携をしたりしている外国資本の自動車メーカー等との利害調整さえできれば、「最大手3社の合併」は現実的なシナリオとして想定しておくのが妥当ではないでしょうか。速度の経済とともに規模の経済もさらに向上させて、メガコンペティションに備えておこうという中国の大戦略です。

鉄道車両製造業界では、中国中車の誕生に伴う再編も起こっています。2017年9月、もともと競合関係にあったドイツのシーメンスとフランスのアルストムの鉄道部門が経営統合される合意がなされました。これは、中国中車の国際攻勢に対抗するための策にほかなりません。次世代自動車産業においても、中国の巨大自動車メーカーの誕生が起爆剤になって、提携関係の再構築や業界再編が起こる可能性があると考えることは合理的だと思われます。

筆者は、本章の冒頭で、「『中国車は品質に劣る』、日本や欧米の消費者にそのような見方があるのは確実なことである」と述べました。しかし、自動車産業が次世代へ向かい、そして中国が自動車「強国」になろうとするなか、「中国ブランド」に対する市場評価はおのずと変わっていくのではないでしょうか。インドネシア・タイ・マレーシアなどASEAN市場での中国車の躍進がすでに顕在化する一方で、日米欧という自動車先進国市場への「中国ブランド」の浸透も現実味を帯びてくるでしょう。

■オールジャパンでの大戦略が求められている

自動車産業、IT・電機・電子産業などに従事する多くの人たちと話をしてきたなかで、実は中国をどのように見ているかで、その人の問題意識や危機感の水準、そしてその人が所属する企業の変化のスピードを判断できることに気がつきました。本書でさまざまな市場データも掲載したように、今や中国市場は次世代自動車産業、AI、IoT、ロボットなど、すべての主要産業における競争の主戦場なのです。

歴史を大局的に見ると、これからさらに成長していく国家は自由貿易主義を唱え、成長に不安を抱える国家は保護主義を唱えてきたことがわかります。また10年単位でグローバル市場での国家間の戦いを振り返ってみると、国力以上の為替レートの評価の下で戦わざるを得なかった日本と、したたかに人民元安を継続してきた中国という構図も見逃せません。そして主要産業における競争の主戦場である中国においては、実際には熾烈な戦いが繰り広げられており、その勝者がグローバル展開した場合の脅威を過小評価すべきでないことは明らかです。

かつて米国は、日本が急成長を遂げていた時代に、過激な「ジャパン・バッシング」を行った一方で、冷静に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として日本を研究し、競争力を取り戻したという経験を持っています。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授の書いた同名の書籍は、米国の企業のみならず政府にも大きな影響を与えたと言われています。

本章の冒頭でも述べた通り、日本においては、中国を侮ったり、目を背けたりするのではなく、また過大評価するのでもなく、その動向を注視し、学ぶべきところは学ぶという姿勢を持つことが、競争力を強化していく大きなポイントになるはずです。中国が国際的には禁じ手のような手法も駆使して“オールチャイナ”で戦おうとしているなかで、第10章や最終章で述べるように、日本においても早急に国家・自動車メーカー・部品メーカー・IT企業などを含めた“オールジャパン”での大戦略の策定と実行が求められていると言えるのです。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティングおよびリーダーシップ&ミッションマネジメント。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』など。

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2018年1月、アメリカの家電見本市で、中国の新興自動車メーカー、フューチャー・モビリティーが世界初公開した電気自動車(EV)ブランド「BYTON(バイトン)」のコンセプト車。(写真=時事通信フォト)