このコラムを書くにあたり、私はぬぐいがたい後ろめたさを感じていることをまず告白したい。なぜなら、私はプロ野球死亡遊戯監督から代打指名を受けたが、現役の巨人ファンではなく、「元・巨人ファン」だからだ。

 1990年代中盤以降、圧倒的な資金力で選手を買い漁るような巨人の体質についていけなくなった。1999年の西東京大会ベスト32という絵に描いたような中堅校の高校球児だったこともあり、王道を地で行く球団を応援することにも抵抗があった。

 かといってアンチ化したわけではない。巨人ファンではなくなっても、巨人の試合結果はチェックしている。それは昔付き合っていた恋人がFacebookをやっていないか検索してしまう心境に似ていなくもない。

 1年前には東京ドームのライトスタンドで巨人戦を見たこともある。しかし、私がその試合で覚えているのは、中日・京田陽太のスピード感あふれるプレー姿くらいで、巨人の選手についてはあまり印象がない。ちょうど13連敗を喫した直後ということもあってか、スタンドの熱を感じることもなかった。

 あれから1年。今年も東京ドームに行ってみて驚いた。巨人の野球に去年までにはない、ときめきを覚えたからだ。まるで白熱電球のくすんだ景色から、LEDライトに照らされ鮮やかな色彩に変わったくらい、印象が違っていた。

開幕からフル出場を続ける2人の若手選手の存在

 昨年との大きな違いは、2人の選手が出ていたことだ。岡本和真と吉川尚輝。いずれも近年のドラフト1位で入団した、20代前半の若い選手。この2人がスタメンで出ているだけで、こうも受ける印象が変わるものかと驚いた。

 私は普段、ドラフト会議関連を中心に取材しているライターである。2人のことはアマチュア時代から見ていた。

 岡本は奈良・智辯学園時代からスラッガーとして鳴らしていた。高校通算73本塁打。3年春のセンバツ甲子園初戦の第1打席、まだ肌寒い朝の冷気を切り裂くように、甲子園のバックスクリーンに叩き込んだ弾道は強烈だった。

 当時、野球雑誌の編集者をしていた私は「岡本和真はプロで30本塁打を打てる打者なのか?」という企画を立てた。和製大砲として成功できる選手などほんのひと握り。それでも、岡本もそんな打者を目指してほしい……という願望を込めての企画だった。

 あいにく岡本へのインタビュー取材には同行できなかったのだが、ライターから届いた原稿を読んで意外な印象を受けた。岡本は「プロで3割20本を打てる打者になりたい」とコメントしていたのだ。

 もちろん、プロで3割20本打てたら、十分に大打者である。それでも、怖いもの知らずの高校生なら「40本打ちたい」と高らかに宣言しても笑われることはない。長打力だけでなく、対応力にも自信があるからこその「3割20本」発言だったわけだが、やや肩透かし感があったのは確かだ。

 ただ、今にして思えば岡本は「メディアの口車に乗せられたくない」という思いがあったのかもしれない。それは最近、岡本をインタビューした際にこんなエピソードを聞いたからだ。

「中学時代に、高校の監督なんかが練習を見に来たら、みんな張り切ってやるじゃないですか。でも僕は誰かに見られているからやるのは、なんかちゃうなと思っていて……。誰かが見に来た日は、フリーバッティングでわざとセカンドゴロばかり打っていました」

 常人にはとうてい理解できない感覚だろう。岡本にはそんな「あまのじゃく」な気質がある。プロ1年目には「奈良からきたジョニー・デップです」と自己紹介をしていたが、それは入団当初にメディアから「口下手」とレッテルを貼られた岡本の、「やろうと思えば笑いだってとれるんですよ」という一種の反抗にも見えた。岡本がこれからプロで活躍すればするほど、そんな一筋縄ではいかない一面が見られる予感がする。

球場で驚愕した岡本和真のフルスイング

 私が東京ドームを訪れた今年の4月13日、岡本の豪快な空振りにスタンドから「おおっ!」とどよめきが起きた。

 このひと振り、ひと振りが明日の巨人の血肉になっていく――。そんな予感を抱かせる、夢のある光景だった。「お前の空振りを見に来たんだ!」。そんなファンの声が聞こえてきそうな寛容な光景だった。

 勝手に雰囲気に浸っていると、岡本が高いフライを打ち上げた。レフトフライか……と思いながら打球を追う。しかし、フライは一向にフィールドに落ちてこず、そのまま左中間スタンドに飛び込んでしまった。

 私はその瞬間、岡本和真は打球まであまのじゃくということを知った。

入場料を払う価値のある吉川尚輝のスピード

 一方、吉川尚を初めて見たのは、中京学院大4年時の大学選手権でのことだった。

 プロのスカウトのなかには、こんなことを言う人がいる。

「いい選手はわざわざ探さなくても、自分から視界に飛び込んでくるものなんだよ」

 吉川尚はまさにそんな選手だった。シートノックが始まる直前、一塁側ベンチの前でキャッチボールをしている選手に何気なく目が止まる。背番号を見ると「7」。その後も、ことあるごとに背番号7の姿が視界に飛び込んでくる。その選手こそ、吉川尚だった。

 目に止まるのはたまたまではないと私は思っている。吉川尚は公称177センチと野球選手としては決して大きくない体ながら、ユニフォーム姿がとにかく映える。とくにベースランニング姿やゴロをさばく姿は見惚れてしまう。カメラを持っていれば撮りたくなる、そんなフォトジェニックな選手なのだ。

 後に意外なことを知ったのだが、当時の吉川尚は送球面に不安を抱えていたという。リーグ戦で送球エラーを犯し、それ以来、スローイングがしっくりきていなかったのだ。

 だが、大学選手権という晴れ舞台、それも初出場にもかかわらず、吉川尚はその試合中に本来のスローイングを取り戻したという。その天真爛漫なプレー姿は、多くの大学野球ファンを虜にした。この大会で、中京学院大は初出場初優勝を飾ることになる。

 東京ドームで見た吉川尚も、大学時代のように強烈な光を放っていた。ゲレーロが三塁線を抜く強烈な打球を放つと、一塁ランナーだった吉川尚は肉眼で追うのが難しいほどのスピードでダイヤモンドを駆け抜け、一気にホームまで戻ってきてしまった。

 私はしばらく余韻のような動悸がおさまらなかった。このワンプレーだけで、入場料を払う価値があると思った。

 大学時代の取材対応は伏し目がちで口数も多くはなかった吉川尚だが、最近インタビューした際もその印象は変わらなかった。プレーは派手なのに、言動は地味。そのコントラストが巨人ファンから愛されることを願ってやまない。

 テレビ地上波での生中継が年間数えるほどになり、一昔前より巨人ファンの数は明らかに減っている。東京ドームは連日満員が続いているが、「巨人」が世間の公用語だった時代はもうはるか彼方へと去ってしまった。

 「時代が変わった」といえばそれまでだ。しかし、今の巨人に悲観している巨人ファンはあまりいないのではないか。元・巨人ファンですら強く惹かれるような魅力あふれる若者、それも一挙2人のプレーを存分に享受できるのだから。

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(菊地選手)

2015年にドラフト1位で巨人に入団した岡本和真