非核化を巡る米朝の激しい駆け引きが表面化した。

 韓国では、北朝鮮の反発を「柔らかな抗議」(北朝鮮専門家)とした分析が大勢で、16日に行われるはずだった南北高官級会談のドタキャンについても報道のトーンは控えめだ。

 それもそのはず。

 韓国は南北、米朝首脳会談のブラックホールに吸い込まれたかのような雰囲気で、文在寅大統領も就任1年(5月10日)を迎えた支持率が83%とこれまでで最高の支持率を記録した。60代以降の75%を除き、10~50代からは80%以上の絶大な支持を得ていて、いずれもその理由に南北首脳会談(4月27日)とそれに伴う南北関係の改善をあげている。

「運にも見放されている」

 米朝首脳会談の日程も発表され、韓国では連日、その話題で持ちきりだが、苦虫を噛みつぶしているのが韓国内の保守派勢力だ。

 なんとかブラックホールに吸い込まれまいと声をからしているが、与党「共に民主党」とは国会の議席では大差はないものの、支持率では大きく水をあけられている(5月14日時点で55%vs18%)。しかも、よりによって米朝首脳会談は保守派の死活をかけた統一地方選挙前日に行われる。

「運にも見放されているというか」

 こう、中道系の韓国全国紙の記者は苦笑する。

「南北や米朝首脳会談がなかったとしても、人材も、ビジョンも、イシューもない今の保守派が“じり貧状態”なのには変わりがありません。野党第一党の『自由韓国党』が保っている支持率は何があっても揺るがない保守の基盤支持層の数字で、もし統一選でこの数字が割れるようなことがあれば、存亡の危機に陥ってしまう。統一選前日の米朝首脳会談開催は、まさに弱り目に祟り目というしかないでしょう。

 だいたい、4月には文大統領の腹心にスキャンダルが飛び出して、保守派には起死回生となる絶好のチャンスがめぐってきたにもかかわらず巻き返せない。その弱小化は深刻です」

第二の崔順実事件かとマスコミも色めき立った

 スキャンダルとは、文大統領の側近中の側近で、慶尚南道知事の与党候補となっている金慶洙氏をめぐるネット世論での操作疑惑だ。すわ、第二の崔順実事件かとマスコミも色めき立ったこの事件、発端は平昌冬季オリンピック開催前にさかのぼる。

 流れを簡単に追うと、年明けに北朝鮮が平昌冬季オリンピック参加を表明すると、文政権はすぐさま女子アイスホッケーチームを南北合同チームにすると発表した。しかし、これに若い世代が猛反発。長い間オリンピックを目指して懸命に練習してきたのに代表チームから外された韓国のメンバーと、努力しても就職もままならない不遇な自分たちの身の上を重ね合わせたのだ。

 ネットにはこうした反発を煽るような書き込みが乱舞し、合同チームを批判する記事の「いいね」の数字が膨らんだ。与党「共に民主党」は「これは不正操作されている」と1月末、警察庁に不正操作を告発し、捜査が始まった。ところが、ふたを開けてみると、逮捕されたのはなんと「共に民主党」党員だった。

支持率は逆に上がっている

 ハンドルネーム「ドルキング」で呼ばれた金ドンウォン氏は有名な時事ブロガーで、ちょうど崔順実事件が本格的に始まった2016年10月頃からインターネット上で「いいね」や書き込みなどを不正に操作し、世論を現政権に有利に誘導しようとしたといわれている。この金氏と金慶洙候補がつながっているという疑惑が4月中旬に浮上し、現在も捜査が進行中だ。ちなみに「ドルキング」は人気のオンラインゲーム「ワールドオブウォークラフト」で自然の保護者といわれるクラスの名で、目的によって自在に変身できる「ドルイド」の王=キングの意味からつけられたそうだ。

 保守派にとっては文政権を追い込める格好のチャンスだったはずで、マスコミも影響は必至と踏んだが、渦中の金慶洙候補の支持率は今のところ調査によっては逆に上がっているところもあり、保守派「自由韓国党」の候補者を大きく引き離したまま。

 野党は、「政権の影響を受けない独立した検事」といわれる特別検事を立ち上げることを国会に求め、「自由韓国党」の金聖泰院内代表は国会前でハンガーストライキ(断食)を決行し、結局、与野党は特別検事法を作ることで合意した。しかし、その過程で、金院内代表は与党の支持者から暴行されヨレヨレになるわ、途中で倒れて病院に搬送されて断食を止めるわと散々な姿を晒すことに。

 こんな姿を見て、「見ていて痛々しいだけ。だいたい、今時、断食するというのも理解できないし、寄ってきた人物を警戒もせずに自ら握手を求めて殴られてぼろぼろになるなんて……。一体、この人たちの危機管理はどうなっているのか。情けなさばかりが目立って、こんな党を支持する人たちのことがますます理解不能になった」(20代会社員)という声も聞かれるなど、世論の憐憫はかっても人気は遠ざかるばかりだ。

 今後、特別検事が立ち上がり、ドルキングこと金ドンウォン氏と金慶洙候補の関係が明らかになったとしても、「野党に力がなく対抗勢力が不在な中、金候補はトカゲの尻尾切りのように切られるだけで文政権は盤石」(前出記者)というのが大方の見方だ。

ソウル市長選でも現職の与党候補が独走

 そして、もうひとつ保守派の死活がかかっているのが、統一選の象徴ともいえるソウル市長選挙の行方だ。

 こちらも今のところ現職で与党「共に民主党」所属の朴元淳市長が53%(14日、韓国日報)と圧倒的な強さを見せて独走しているが、問題は誰が2位になるか、だ。

 現在2位は、保守派の新党「正しい未来党」所属で先の大統領選挙で文大統領の対抗馬だった安哲秀氏(15.2%)で、その後を5ポイント差で「自由韓国党」の候補者、金文洙氏(10.5%)が追っている。

「野党が統一候補を出したとしても、朴市長とはダブルスコアで追いつけない。それにどちらが保守本流かで競っている『自由韓国党』と旧保守派とは一線を画した新しい保守を標榜する『正しい未来党』にしても統一候補は避けたいところ。『自由韓国党』はソウル市長選で2位にもつけなければ自滅の道でしょうし、『正しい未来党』はここで安候補が2位につければ存在感をアピールできる。ただ、与党圧勝となれば保守派の存在自体がますます希薄になることは必至です」(別の全国紙記者)

 保守派層では、次世代の若いリーダーを育成する動きもあるというが、新しい人物が芽を出すまでには時間がかかる。

「ドルキング」事件の行方もあるが、米朝首脳会談後は、日米、米韓首脳会談などのイベントが目白押しで韓国社会のブラックホール状態はしばらく続くとみられる。韓国の保守派の運命はさてどうなるのか!? なお、統一選は6月13日に行われる。

 それにしても、どこかで見たような与・野党の構図。野党勢力の脆弱さは、日本も同じ、ですね――。

(菅野 朋子)

南北首脳会談によって、文在寅大統領の支持率は過去最高になったが ©getty