●開発のしやすさに優れているスクリプト型を選択
今、ロボットを利用して業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)が注目されている。日立ソリューションズはRPA「Automation Anywhere」の代理店だが、自社でも2016年よりRPA導入に向けた検討に入り、全社展開を始めている。同社はITベンダーとはいえ、RPAの先行導入を開始したのは人事部ということで、一般企業にとっても参考になる話がありそうだ。今回、同社の担当者に、RPA導入にあたっての課題、導入によって得られた効果などについて聞いた。
○スクリプト型RPAを選んだ理由

日立ソリューションズがRPAを導入した背景には、業務の効率化、働き方改革がある。同社は日立ソフトウェアエンジニアリングと日立システムアンドサービスが合併して2010年に立ち上がったシステムインテグレーターだが、2015年の組織再編により社名はそのままに組織が新しくなった。さらに、日立の標準システムを導入することになったが、自社に合わせたシステムのエンハンスができず、手計算・手動での連携が必要となった。そのため、社員から「『手作業を軽減したい』という声があった」と人事総務本部 労政部の小山真一氏は説明する。

かくしてRPA導入のための検討が開始されたのは2016年7月。まだ導入事例や情報が少なかった中、ベンダー選定を行った小山善直氏(RPAビジネス部 部長)は、「ビジネスとして自社が提供する、自社に導入する、と2つのポイントがあった」と述べる。

その上で、「開発のしやすさ」「対応システムの種類が豊富かどうか」「管理機能」の大きく3つの分野にフォーカスして、ベンダーを絞り込むことになった。最終的には、2017年2月に入手した海外レポートで、ロボット開発性・機能、RPA分析、業務適用範囲など多くの項目でトップの評価を得ていたAutomation Anywhereに目をつけた。同製品はまだ日本では展開されていなかったため、米国本社にコンタクトを取った。

例えば、開発のしやすさでは、ロボット開発の生産性とメンテナンス性の2つをみた。RPAソリューションはフローチャート型とスクリプト型に二分でき、Automation Anywhereは後者のスクリプト型となる。実際に試したところ、フローチャート型RPAでは、ロボットの作業ステップが200個も必要になることがわかったそうだ。「実際の業務になると、500個になるものもある」と小山善直氏。ちなみに、同社において最も大きなロボットとなる査定調書作成の場合は2950ステップに及ぶ。

フローチャートの難点は、担当者が変わった後で前担当者が作成したロボットを調べる際、変更の前と後を比較する際などに1つずつハコを開いていかなければならないというメンテナンス性の低さにあった。いうまでもなく、ハコが増えるほどメンテナンス作業は困難になる。

ちなみに、同社において最も大きなロボットとなる査定調書作成の場合は2950ステップに及ぶが、これをフローチャート型でメンテナンスするとなると、かなり作業が煩雑になる。

一方、Automation Anywhereの場合、プログラミングのような開発環境ではあるが、実際のところ「業務のロボット化はプログラム的な表現でなければ無理」と小山善直氏は言う。かといって、Automation Anywhereの開発環境の扱いが難しすぎるというわけではなさそうだ。

画面は変更、削除、挿入と3色に色分けされており、新旧の差分比較をビジュアルに把握できる。このほか、ロボットの再利用、画面変更時の自動修正、システムの操作レコーディングなど、メンテナンスを容易にする機能を多く備えるという。
○専門のRPAセンタを立ち上げて全社に認知普及

Automation Anywhereの導入は、「社内ルールの設定」「対象業務の抽出」「ロボット開発・運用」と3ステップで行っているが、ステップ確立に至るまでには壁もあったそうだ。

営業部門で2つの業務に適用してみて、効果があることはわかった。だが、全社導入となると作業は急に増える――誰がRPAを各部署に説明するのか、説明会の資料は誰が作るのか、FAQがあるといいが誰がまとめるのかなど、負担が大きいことに気がついた。

そこで立ち上げたのがRPAセンタだ。運用、開発、サポートの3つのチームを持ち、専任・兼任合わせて10数名の組織だ。同センタで、ルールの設定と標準化、開発のガイドラインなどを作成した。「RPAセンタは、RPAの考え方を全社に浸透させるために必要」と小山善直氏はいう。

RPAセンタの重要な業務に、ロボット開発がある。ロボットを作成できる人がいない部門では、RPAエンジニアが業務のヒアリングを行ってロボットを開発するという流れになるが、RPAエンジニアは必ずしも業務の知識があるわけではない。一方、部門から見ると、説明に割いている時間もない。このように、双方がヒアリングに大きな手間を取られることになった。

そこで、仕様書を作ってもらう、操作を全てビデオで撮影するなどを試したがどれも解決策にはならなかった。そこでAutomation Anywhereが内蔵する「Process inVision」という機能を試すことにした。

Process inVisionは操作中に「Record」(記録)ボタンを押すとスクリーンショットを撮って記録してくれるというもので、終了後、ストーリーボードで各スクリーンショットに対してプロセスプロパティに簡単な説明を入れる。これをPowerPoint形式でエクスポートすればドキュメントを作成でき、これをもとにRPAエンジニアがロボットを開発できる。

●全社で月間434時間の労働時間の削減効果
回数をこなすごとに、不明点があれば質問票を作って再度ヒアリングするなどすることで、業務担当とRPAエンジニア両方の負担が軽減した。また、ロボット化の可否を判断できるようにもなった。副産物として小山善直氏が挙げたのが、「あとで作らなければならない仕様書が同時にできる」点だ。

ロボット開発は、RPAセンタが行うほか、自部門で行う形態もある。

RPAを先行導入した人事総務部では、RPA化の対象として65の業務を抽出した。賞与査定のデータ作成、健康管理・長時間残業のデータ作成、出金伝票システムへの転記などだ。当初、ロボットの開発はRPAセンタに依頼していたが、業務上、個人情報を取り扱うため、自分たちで行うようになった。ロボットの作り方は勉強会で学ぶ。小山真一氏自身も約40のロボットを作成したが、ロボット開発については、思ったほど困らなかったという声が上がっているそうだ。「業務を知っている人がロボットを作るのが最善の方法」と小山氏は語る。
○月434.7時間の削減 - 最大の効果はモチベーションのアップ

では、RPAの導入効果はどんなものだろうか?

査定調書作成は、これまで担当者が約2週間かけて作成していたが、RPAを導入したことで、担当者はチェックのみで約4日間で作業が終わるようになった。この結果、毎年この時期に残業していた担当者の作業時間を30時間が削減できたという。

一方で、学びもあった。社内ルールでパスワードが定期的に更新されるシステムがあったり、同じようなロボットを作ってしまったり、開発を依頼していた担当者が途中で退職になったりしたことで、運用や開発においてルールを作る必要があることがわかった。

しかしながら、前述したように効果はすぐに出ている。全社展開を始めた初年で、適用業務の数は人事総務本部の26を含む45件。月間434.7時間の削減に相当するという。

作業が効率化されたことで、労働時間の時短に加え、別な効果も出ているようだ。担当者は 毎月月初に必ず出社して、データの集計作業をしなければいけなかったが、RPAで業務を自動化することで、年休が取得できるなど、精神的にゆとりを持って、より柔軟に勤務できるようになった。「働き方が少しずつ変わっているようだ」と小山真一氏は語る。

加えて、「モチベーションの向上」も見られている。「誰しも自分じゃなくてもできる仕事をやっている時は、モチベーションが下がる。RPAを導入することで、そうした無駄なことをやらなくてもよくなり、自分がやるべき仕事に集中できる」(小山善直氏)
○社内のノウハウの共有は専用ポータルサイトで

日立ソリューションズのRPA導入は、ロボット開発にとどまらない。社内に
もっとRPAの良さを周知するため、「RPAスクエア」としてRPAに関連した情報を集めたポータルサイトを作成している。

RPAとは何かの説明に始まり、FAQ、ロボット開発の依頼、仕様書のテンプレートなどがある中、ロボットの一覧、部品ロボットの検索など共有の機能も備える。RPAはロボットを作れば作るほどメリットを得られるだけに、同社では、全社に浸透させる仕組みとしてこのようなポータルは重要と見ている。実際、同社がAutomation Anywhereを提供した顧客からこのようなポータルが欲しいという声も多く聞かれており、事業化も検討しているという。

同社は現在、システム開発におけるAIの取り組みである人間関係の分析において、半年分のメールデータを追跡している。データの抽出だけで半年がかかる作業だが、RPAは24時間働いてくれるので2~3週間でデータの抽出ができたという。「これまで、時間の制約などから諦めていたことが、RPAによってできるようになった」と小山善直氏はいう。

小山真一氏も、人事でもAI分析においてRPAの力を借りてやってみたいことがあるという。人間を補いながら、業務の効率を上げ、コストを下げてくれるRPAのユースケースは、今後、さらに増えていきそうだ。
(末岡洋子)

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