国際色あふれた外資系の企業で働いているというだけで、かっこいいイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。でもその反面、英語力はもちろん高いビジネススキルを要求されることが多いようです。今回は、輸入車を扱う外資系企業で広報活動を行っている黒岩真治さんに、仕事の魅力や大変な部分を伺いました。

少数精鋭の外資系企業の広報スタッフ。企業のトップとの距離が近い

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。

イタリアとアメリカに本社があるFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の日本法人であるFCAジャパン株式会社で広報部の責任者をしています。FCAは、外国の自動車ブランドであるアルファロメオ、フィアット、ジープ、アバルトの4つのブランドを擁する国際的な自動車メーカーです。

広報の仕事は本国イタリアとアメリカで発表、生産された新型車を日本のマスコミ関係者に紹介し、好意的な記事を書いてもらうことです。私たち広報が発表したことなどを中心にして、中立な立場で信頼性が高い内容をベースに書いてもらいます。

しかし時には企業が発表していないことが記事になることもあります。そのような記事を見たマスコミ関係者からの問い合わせに対応することも広報の仕事です。

外資系の広報の部署はほとんどの会社で人数が少ないですね。少数精鋭で仕事をしているので、企業のトップと直接やりとりする業務が多いです。そのため、企業のメッセージを発表する代理機能も重要です。

<一日のスケジュール>
07:30 出社
08:00 アメリカ・デトロイトのジープ部門との電話会議
09:00 広報スタッフ同士で当日の予定確認、広報車両の管理
09:30 報道関係者向けプレス試乗会の企画策定
10:00 経営会議への参加
12:00 ランチ
13:00 社長インタビューの立ち会い
15:00 プレス試乗会運営会社との打ち合わせ
16:00 イタリア本社が業務を始める時間を待ってメールの準備など
16:30 事務的な仕事、メール返信、翌日の仕事の準備など
17:30 退社


Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

会社で取材を受ける唯一の窓口であり、メディアにさまざまな情報を発表して記事を作り出すことは大事な仕事です。発表会や取材を通して自分が関わったことが記事になることもうれしいですが、自動車雑誌の表紙となると別格です。主要自動車雑誌に発売されたばかりの「アルファロメオ ジュリア」が一斉に掲載された時は感動しました。

組織に貢献できた時にも大きな喜びがあります。国内企業で働いていた時は組織があまりにも大きすぎて、その喜びが感じられませんでした。多くのスタッフで仕事を分担していたので、自分の貢献がダイレクトに感じられなかったのです。商品(車)までの距離が遠すぎて、実際に触ることもなかったほどです。
外資系企業にいると、自分で慣らし運転までして、自分の足で編集部を回って車の魅力を売り込んだりしているので、すごく貢献していると感じます。


Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?

実は、大変なことやつらいことがないんです。少ない人数で仕事を回しているので、限界を決めてしまうと、そこまでになってしまいます。そのため、2つのNG ワードを決めています。「忙しい」「疲れた」です。仕事においても私生活においても、この2つは言わないようにしています。

ただ、入社1年目や転職直後の時期に、会議で自分の意見を発言できなかったつらさはありました。また、自分の判断ミスで間違った方向性の記事が世の中に出てしまったり、商品をアピールする機会を逃してしまったりといった失敗をした経験もあります。

広報の仕事は、「私がどう言ったか」ではなく「相手にどう伝わったか」が大事なんです。失敗とはつまり、伝え方が悪かった、伝えるタイミングが悪かった、伝える言葉の選び方が悪かったということなので、そのようなことを大変だと思う人もいるかもしれません。ただ、その失敗を突き詰めて全てが学びだと思って仕事に取り組めば、落ち込んでる時間はないですし、つらい、大変とも思いません。そこからの学びで成長できる喜びの方が大きいです。

広報のエキスパートとしてヘッドハンティングを受けた

黒岩さんが広報として担当するアルファロメオの最新モデル、ジュリア・クアドリフォリオ
黒岩さんが広報として担当するアルファロメオの最新モデル、ジュリア・クアドリフォリオ

Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?

大学は理工系の学部で機械工学を学びました。就職の際は、転勤がなさそうな都心にある会社にこだわり、ある外資系自動車メーカーの技術部に就職しました。

入社してから社内に広報の仕事があることを知り、そこで、マスメディアは脅威でもある反面、正しく伝えることで自社製品をうまく売り込むことも可能だと実感しました。学生時代を含め理系・技術系といった今まで住んでいた世界とは違ったので知的好奇心を覚えましたね。

広報部が社内に対して発信する様子を見ていて魅力を感じていたので、入社して5年目に社内公募のチャンスが訪れた時、広報部への異動を希望してそれが認められました。

その後外資系企業を中心に複数社の広報を担当した後、FCAジャパンに入社しました。弊社に入社したのは、外資系企業ではよくあるヘッドハンティングです。

広報のエキスパートとして声がかかり、いろいろな会社に在籍してきました。最初は、ヘッドハンターから電話があっただけで心が躍りましたね。コンタクトを取ってくるのはだいたい外国人で、報酬を提示され、英語で数回の面談をして転職といった流れです。


Q5. 大学では何を学びましたか?

理工学部の機械工学科で学び、材料力学の研究室でエンジンのクランクシャフト(*)の焼き入れに関する論文を書きました。通常、このような勉強をした人間が選ぶ仕事はエンジニアや研究者です。研究室を出た後は電機メーカーや自動車会社に就職する人が多く、そこに人材を輩出するような学校でした。


*クランクシャフト:自動車エンジンを構成する部品の一つ。


Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?

大学は理系に進みましたが、小学生の頃から都心で国際色のあるビジネスパーソンになる夢を持っていたので、今につながっている部分はあります。都会志向でしたし、洗練された暮らしや国際的な空気に憧れがありました。でも、高校生の頃は車は好きではありましたが、自動車産業で仕事をすることは想定していませんでした。

高校生よりも社会人になってから学ぶことの方が多い

日本の名だたる自動車雑誌に広報する車が掲載される
日本の名だたる自動車雑誌に広報する車が掲載される

Q7. どういう人が外資系スタッフに向いていると思いますか?

日本にある外資系企業は、一部を除いてほとんどが少人数の部署になっています。そのため、仕事上でのチームワークが必要です。そして一番重要なのは、一緒に議論しながら、楽しく働ける人です。英語力も必要ですが、まずは母国語である日本語力の方が重要だと思います。


Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。

高校生の皆さんの中には、今、一所懸命に受験勉強をしている人がいるかもしれませんが、社会人になってから本気で取り組む勉強にはかないません。仕事や生きていくために必要なことは、社会に出てから勉強することになると思った方がいいです。つまり、自分の興味がある分野に進学して憧れの仕事に就くために現在の勉強はもちろん重要ですが、社会人になってからも勉強が続くのです。

広報に入ったばかりの頃は、大勢のメディアの方々の前で行うプレゼンテーションは声が震えるくらい苦手でしたが、8年間自費でボイストレーニングに通って鍛えました。相手に伝わる話し方や声の出し方など、いろいろと勉強しましたね。会社がお金を出してくれるわけではなく、自分で本当に必要だと思ったのでしっかり学べました。自分磨きは一生続いていきます。それは、やらされる勉強と違って自ら学ぶ勉強で、とても楽しい学びですよ。

それと、私は今47歳でたくさんの知り合い、友人知人がいますが、高校時代の友達は1%にも満たないです。大人になって働くようになれば、人のつながりが爆発的に増えていきます。そのため、狭い領域、特に人間関係で悩まないでください。高校生活における人間関係や勉強の悩みは一時的なものです。大学や社会では、人のつながりや学びの可能性がたくさん待っていますよ!


能力主義が特徴の外資系企業では、国内企業よりも一人ひとりの役割や責任、成果が大切になってきます。英語力は当然ですが、それ以外の能力も求められることが多いようです。チームや人々の前で伝える力は大切です。外資系企業で働きたい人は、英語に加えてプレゼンテーションやコミュニケーションスキルを向上させるための勉強をしてみてはいかがでしょうか。


【profile】FCAジャパン株式会社 広報部長 黒岩真治

FCAジャパン株式会社 http://www.fcagroup.jp/

※内容は全て取材時点(2017年12月)のものです。