「淵に立つ」で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞し、世界からも注目を集めた深田晃司監督。最新作「海を駆ける」(5月26日公開)は、インドネシアのバンダ・アチェを舞台にしたファンタジー作品。撮影の舞台裏から作品意図まで、深田監督に話を伺った。

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映画「海を駆ける」は、インドネシア・スマトラ島のバンダ・アチェで撮影された深田監督の脚本によるオリジナル作品。NPO法人で災害復興を行う貴子と息子・タカシは、海で発見された謎の男と出会い、インドネシア語で海を意味する「ラウ」と名付ける。親戚のサチコも加わりラウの身元を探すが、周囲では不思議な現象が起こり始めていく。ディーン・フジオカが謎の男・ラウを好演。貴子役を鶴田真由、タカシ役を太賀、サチコ役を阿部純子が演じる。

ーーインドネシアに訪れたことがきっかけとなり、本作が誕生したそうですね。

東日本大震災の記憶がまだ色濃い2011年11月に、京都大学と現地の大学の共同で開催された津波と防災のシンポジウムがあって、初めてインドネシアに訪れました。記録係として撮影していたんですが、津波の傷跡を見て回ることがあったんです。アチェは2004年のスマトラ島沖地震の津波で17万人以上が亡くなっているんですが、津波の向き合い方や死生観が全く違って。東日本大震災を経験した日本人とインドネシア人が出会う映画を作りたいと思ったんです。

ーー日本なら津波の話題はナイーブに扱われますが、インドネシアはどうですか?

例えば津波に運ばれた釣り船が屋根の上に乗り上がってしまった場所があるんですけど、それを保存しているんです。日本の場合、復興の意味も込めて撤去すると思いますが、インドネシアでは津波のことを忘れないように残してて。あと、その場所が観光地化して、屋台や売店が出てきて津波まんじゅうとか売っているんですよね。日本では炎上しそうですが、そういうところはたくましいなと思いました。

ーー死生観はどのような違いがありましたか?

約17万人も亡くなっていると、生きてる人のほとんどが家族や友達を亡くしています。でも、津波で亡くなった人のことを聞くと「神様が望んだことだから仕方ない」とあっけらかんとしていて。

ーー日本とは全く違いますね。

冒頭に出てくる現地の人も津波で奥さんと娘を亡くされていて、彼女らが「鍵」になったって言うんです。鍵って何のことかと聞いたら「2人が亡くなった後、自分はよりよく生きないといけないと思った。それによって自分は天国に近づいた。私が天国に行ける鍵になってくれた」って言うんです。

ーー本作はインドネシアで撮影されたそうですね。スタッフの中に雨を止ませることができるレインストッパーがいたと伺いました。

クランクイン直前まで毎日土砂降りのような日が続いていたんですが、撮影初日の前にレインストッパーが合流して、それから3週間は雨なしでした。僕は基本スピリチュアルやオカルトは信じないようにしているんですけど(笑)

ーーそんな不思議な現象が、ラウの存在と呼応するのではないかと思います。日本人はラウの存在や目的を考えがちですが、インドネシアの人はそこまで考えずに素直に受け止めるような気がします。

先ほどの話に出てきた現地の人も夢の中で奥さんが出てきて再婚を許してくれたとか、日本人から見たらスピリチュアルとしか思えないような話が当たり前です。日本人の方が考えすぎかもしれないですね。

ーー謎の男・ラウを演じたディーン・フジオカさんの何か見透かされているような目が印象的でした。

顔合わせのときから、ラウのキャラクターを掴んでくれていました。ラウは自然が人間のかたちをして気まぐれに散歩しているような存在なので、目的があって動いているような感じにはしたくなくて。感情は排除して、穏やかな笑顔を浮かべた植物のように演じてもらいました。

ーー本当に雑念がなく、本能のまま動いている感じでした。

蝶を追いかけているシーンが特に好きで、少年のように無邪気に蝶を追いかけることができる30代男性っているのかなって思うぐらい(笑)僕、ディーンさんと同い年なんですけど、一緒に並ぶと同じ生き物なのかなって思いますね(笑)

ーーラウと出会う貴子とタカシを演じた鶴田真由さんと太賀さんはインドネシア語をマスターされていますね。

この2人、実はミッションが違うんです。貴子は大人になってからインドネシアに移住した日本人なので、少し日本語訛りで。タカシは生まれたときからインドネシアにいる設定なので、流暢なインドネシア語。それぞれ異なった目標に向かってマスターしてもらいました。

ーー違和感が全くありませんね。

特に太賀君は、仕草や身振りがインドネシア人っぽいんです。現地のプロデューサーもこういう若者いるって言ってて。そこは彼の俳優としてのセンスですね。いい俳優は常に共演者や周りの状況からリアクションをとって演技ができる。彼は海外キャストのアディパティ・ドルケン君と親友のように仲良くなって、アディパティ君の演技に自然とリアクションして感覚を掴んだんだと思います。

ーーサチコを演じた阿部純子さんも完璧な英語で、若者のリアルな感じが出ていました。また、2人の海外キャストも魅力的でした。

阿部さんは留学経験があったので英語はマスターされていて、等身大の女の子をリアリティあふれるように演じてくれました。海外キャストは現地のプロデューサーが全面に入ってもらって、何人か候補をあげてもらった中から選びました。

ーー船で歌うシーンなど、4人が本当に親友のように感じます。

4人は知り合ってすぐ仲良くなってましたね。若者4人の仲の良さは見ていて羨ましいぐらいでした。

ーー4人の若者のキラキラした感じも素敵でした。

自分の中での構成のさじ加減としては、ベースにあるのは恋愛の群像劇であって、そこに植物のようにいるラウがだんだん大きな存在になって、最後にはその存在が立ち上がってきてファンタジーが交わってくるって感じなんです。

ーーそもそもの話になりますが、今回なぜファンタジーを撮ろうと思ったんですか?

何となくイメージしていたのが「トム・ソーヤーの冒険」のマーク・トウェインが晩年に書いた「不思議な少年第44号」という小説で。謎の少年が現れて人間の価値観を徹底的にひっくり返していく話で、それをイメージして書いていたのでファンタジー要素があったのかもしれません。インドネシアだったらこういう作品ができるんじゃないかなって(笑)

ーーラウの側面でいえばファンタジーでもあるし、4人の若者の青春群像劇でもある。ファンタジーと青春、2度おいしいような感じがします。

今の日本映画は、入口と出口が全く同じ高さの作品がすごく多くて。鑑賞中は楽しいけど、終わったあと物足りない気持ちにさせられます。この作品は、入口と出口がそもそも違います。青春恋愛映画を観ていたのに、最後は全く違う感じところに連れて行かれるような、入口と全く違う出口に放り出されてしまうっていう作品にしたかったんです。(関西ウォーカー・山根翼)

インタビューに応じてくれた深田晃司監督