お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。『酒器も肴のうち』第52献。

 青森県の弘前公園といえば、日本三大桜、日本三大夜桜に数えられる桜の名所。どんな三大にも諸説あるが、桜のトンネル、花筏など写真映えする見どころが多いことでも知られる。

 毎年多くの花見客が訪れる弘前公園のほど近くに「齋藤酒造」はある。津軽富士「岩木山」を望み、すぐそばを岩木川がたおやかに流れる。地元では「松緑」の銘柄で知られる老舗蔵元だが、ところ変われば「六根」を醸す蔵と言ったほうがピンとくるだろうか。

 今春まで齋藤酒造で酒造りに携わっていたマックス・モンソンさんは元英語教師。経歴を聞いて一番驚いたのは、教鞭をとっていた中学校が筆者の母校だったということだ。世の中狭いを通り越して、なんと言っていいのやら。

 初来日は大学4年の時。短期留学で福岡へ。以前から興味のあった日本の歴史や文化を身近に感じ、ますます日本への思いを募らせる。英語教師として本格的に日本での生活をスタートさせたのは今から5年ほど前。最初の赴任先が日本海に面した青森県のとある町だったのだ。

「初めて青森に来たときはとても寒かった。そのときに初めて飲んだ熱燗がすごく美味しかったのを今でもはっきり覚えています。身体が温まって美味しさがどんどん増してきて、改めて日本の酒文化や食文化に触れたと実感しました」

 初来日の福岡で焼酎に出会い、長らく住むことになった青森で日本酒に出会う。「焼酎も美味しかったけれど、しばれる冬の津軽の地で飲んだ熱燗は焼酎のそれをはるかに超えていた」という。

「日本酒の飲み方、楽しみ方を教えてくれる友人がいましたし、青森のお酒とも相性がよかったです」と言いながらマグカップが登場するわけだが……。

「はい、これで燗酒を飲んでいます。ぐい呑やお猪口も持っていますが、この津軽焼のマグは素朴な風合いも好きで愛着があります」とマックスさん。

 大は小を兼ねるとはこのことか? 取っ手いる? と、呆気にとられる。湯のみ茶碗でもなくマグカップを酒器代わりにしただけのことだが、とにかくコーヒーではなく燗酒を注いでいるシーンを少々強引に想像する。マックスさんが手にすればそれは正真正銘、愛用の酒器になるのだ。

「実は日本酒というと大吟醸などといった特別なときに飲む高級なイメージが強かった。造りや飲むシチュエーションによって違いますが、日常的に楽しめる美味しいお酒があると知ったのは熱燗との出会いが大きいです。
 酒蔵がフル稼働する冬場は酒造りの現場を肌で感じることができ、とても貴重な経験でした」

 時折、津軽弁を交え、日本酒への思いを熱く語る。日本酒業界に身を置く外国人の方に共通しているのは勉強熱心で日本酒愛が深いということだ。

 日本酒と料理のペアリングも興味深い。「和食はもちろん、シチューやミネストローネと一緒に日本酒を飲んだりしますよ。基本は魚介類と野菜が多いですが、焼鳥もいいですね。日本酒は相性のいい料理が多いですよ。ただ、焼肉にはやっぱりビールかな(笑)」

 シチューは正直ピンとこなかったが、野菜たっぷりのミネストローネはぜひ試してみたい。そして、焼肉にはビール。これはme too! です。

●取材協力

齋藤酒造

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。

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