今、沈没船ハンターといったらポール・アレンさんが有名です。しかし、我が日本にもすごいチームがあります。

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 それが「ラ・プロンジェ深海工学会」(以下、ラ・プロンジェ)。ラ・プロンジェは海中で行動できる自律型ロボットの研究開発を目的として設立した一般社団法人で、海底地形の調査や深海の観測に使えるROV(Remotely Operated Vehicle)の実証実験を実施しています。このROVによる海底地形調査と深海観測の一環として、「沈没潜水艦の探索プロジェクト」を2017年から行っています。

 太平洋戦争が終わり、残存していた日本海軍の艦船は賠償艦として連合国に渡されます。しかし、戦艦「長門」や潜水艦「伊400型」などの調査価値や利用価値があると判断された一部の艦船を除いて、その多くは接収した現地で海没処分となりました。

 ラ・プロンジェは2017年5月と8月に、複数の潜水艦が海没処分された長崎県の五島列島沖でサイドスキャンソナーによる海底地形調査とROVによる船体撮影を実施。海底に沈んでいる潜水艦を発見し、またそれぞれの艦名を特定しました。このときに「ニコニコ生放送」でROVによる海中探査中の映像をリアルタイムで配信、そして海底地形探査で見つかった、艦首を真上に、直立して海底に刺さった伊十六型潜水艦の「伊四十七」(以下、伊47)の衝撃的な姿が大いに話題となり、多くの人がラ・プロンジェの存在と潜水艦探査活動を広く知ることになりました。

 そしてラ・プロンジェは、2018年6月18日から北陸の「若狭湾」で新たな沈没潜水艦に関する調査に挑みます。探索対象は終戦後の1946年4月30日に若狭湾舞鶴港外で海没処分となった「呂号五百」(以下、呂500)に「伊号百二十一」(以下、伊121)、「呂号六十八」(以下、呂68)です。中でも、呂500は、ドイツ海軍から日本が譲り受けた潜水艦「U-511」(IXC型)であるという逸話で有名です。

 そんな歴史をひもとく呂500を探し当てようというのが今回の大探索プロジェクトです。

 なぜ、ラ・プロンジェの活動として沈没した潜水艦の調査を始めたのか。どんな設備で調査に挑んでいるのか。そして、今回の探索プロジェクトにかける意気込みは。ラ・プロンジェの代表理事で今回の活動のキーパーソンである浦環(うら たまき)氏に話を聞きました。

●「海洋国家としての基盤を確固たるものにする」「海を好きになってほしい」

── ラ・プロンジェが「沈没した潜水艦を探索する意義」をお聞かせください

浦環氏(以下、浦氏) 最新の技術を使って、海底に見捨てられた艦船に光を当て、海中技術の理解を増進して日本における海洋国家としての基盤を確固たるものにすることです。

 併せて海洋科学の推進にも役立てたいと考えています。ラ・プロンジェでは法人約款に設立目的を次のように掲げています。

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第3条 当法人(一般社団法人ラ・プロンジェ深海工学会を指す)は、深海に関する学術技芸を考究し、海中観測・作業や機器開発など、深海を含む海中活動に関する普及と振興に関する活動を行い、もって国民の海洋理解の増進に寄与することを目的として、次の事業を行う。

(1)海中観測・作業の企画と実施および助成

(2)海中工学・技術に関する情報の提供と資料の刊行

(3)海中情報の収集と提供

(4)海中工学イベントの企画と実施

(5)その他、当法人の目的を達成するために必要な事業

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── 2017年に実施した潜水艦探索(伊58呂50特定プロジェクト)の反響はいかがでしたか

浦氏 2017年の5月と8月に実施した調査結果は、多くのメディアにも取り上げられるなど、広く報道されました。特に8月のROV調査はニコニコ生放送で93時間連続で生放送され、50万件を超える閲覧がありました。

── 今回、なぜ呂500を探索しようと思ったのですか

浦氏 今も太平洋戦争で沈んだ多くの艦船がそのまま海底に眠っています。しかし、全部を調査することはできません。次にどれを調査するかは、私が判断して仲間から賛同を得て決めています。

 戦後海没処分された潜水艦の多くは五島列島沖合にあり、既に調査を終えました。次に重要だと判断したのが、若狭湾に沈んでいる3隻の潜水艦です。その中でも呂500はドイツ海軍から譲渡されたUボートという意味で貴重な存在です。加えて伊58呂50特定プロジェクトの実施時に「(今度は)呂500を探してほしい」という要望がたくさん寄せられました。そこで若狭湾の海底データを調べてみると呂500をなんとか探せそうだという結論に至りました。

── クラウドファンディングが予定よりも早く目標金額に達しました。その理由はどこにあると思いますか

浦氏 潜水艦に関心を持つ方が多くいて、その方々が応援してくださることです。以前の伊58呂50特定プロジェクトの成果から、この活動の正当性も理解していただいたためだと思います。

●ドイツ海軍から日本が譲り受け、若狭湾に海没処分となった潜水艦「呂500」

 呂500は1943年8月、ドイツから約90日の航海を無事に終えて日本に到着します。戦闘に加わることはなく、技術調査を終えたのちに訓練の目標潜水艦として第五十一戦隊に配属されます。呂500の技術調査によって日本海軍は大量生産のために必要な電気溶接やブロック工法の技術を得ます。後に水中を高速で航行できる次世代の潜水艦ともいえる「伊号二百一型」(潜高大型)と「波号二百一型」(潜高小型)の開発につながりました。

 ちなみに呂500が配属された第五十一戦隊には、同じく今回の探索対象である伊121と呂68も配属されていました。どちらも大正時代に就役した古い潜水艦です。伊121は機雷を敷設できる珍しい潜水艦。第一次世界大戦当時のドイツの潜水艦「U-125」(UEII型)のほぼそのままコピーです。

 こんなドイツ由来の潜水艦が、時を同じくして日本の同じ海域に沈んでいるというのがなんとも奇遇なことです。蛇足ですが、この3隻は最終的に「第三十三潜水戦隊」に所属して終戦を迎えます。この“33”という数字、潜水艦乗りには「めっちゃ不吉な番号」として忌み嫌われていました。「伊号三十三潜水艦」をググってもらうと、より一層ゾゾゾとなることうけあいです。

●ニコ生で生中継する意義、探索に掛ける思い

── 今回の支援者から特に印象的なコメント、期待の声がありましたらお聞かせください

浦氏 伊58呂50特定プロジェクトで実施したニコニコ生放送を視聴した方から「海中調査の中継は本当に楽しかった」と言っていただきました。実はこれが重要なのです。どんなに大変なことでも、関心を持って中継を視聴している皆さんを「楽しませる」ことが大切であると思います。

── 調査で使用しているROVはどんなものか、どんな機能があるのか、詳細を教えてください

浦氏 調査で使うROVは、メーカーの環境調査会社「いであ」が所有する「SeaROVER」というTELEDYNE BENTHOSが開発製造したモデルです。

 SeaROVERは75(全長)×60(幅)×57(高さ)センチ、重量約75キロ。ビデオカメラを船首に2基(うち1基はモノクロ)、船尾に1基、そして全周囲二次元ソナーと全周囲三次元スキャナー(計測距離最大30メートル)を搭載して、水深300メートルまでの海中を最大3ノットで行動できます。

── 今回の潜水調査の具体的な手順とは?

浦氏 今回の若狭湾調査では、候補地としている海域が4カ所あります。

1. シンヤマと呼ばれる沈没船付近

2. 連合軍が発表した海没処分位置

3. 冠島西方海域

4. 地元で沈没船と言われている浦島礁

 この候補地でマルチビームソナーを使って海底地形を詳細に調べます。艦影を発見したらROVを降ろして、撮影した画像から「艦が何であるか」を確かめます。

── 発見した潜水艦の艦名特定はどのように行うのですか?

浦氏 船体に艦名は書いていないので、艦の形から艦名を特定します。船の形から識別するときに特に重要なのは、艦橋、艦首、艦尾の形状です。

── 今回も潜航調査をライブ中継をしますが、その意義についてお聞かせください

浦氏 多くの人にとって、海中作業や調査をリアルタイムで見る機会はほとんどないと思います。このように日本でも海は遠い存在です。本来ならば、調査船に多くの方々を招待して調査の現場を見てほしいのですが、それはかないません。

 そこでインターネットで配信し、まず映像の臨場感から海を好きになってほしいと思いました。作業が整然と進む編集済みの番組もいいのですが、現場で発生するトラブルや長い待ち時間も含めた海上活動、生活の全てを見ていただきたいのです。

 また、私たちの潜水艦に関する知識にも限りがあります。番組を見た多くの方々からリアルタイムでコメントをもらえれば、艦名特定の判断材料や行動決定材料が増えます。視聴者の皆さんの力も借り、一緒に探すことで、より充実した調査になると考えています。

── 最後に、この探索に注目している皆さんにメッセージをお願いします

浦氏 今回の探索でもラ・プロンジェの実力をお見せすることができると思います。ご期待ください。

 なおこの探索プロジェクトでは、調査用の船を借りたりする資金を寄付でまかなっています。クラウドファンディングは6月18日まで継続して実施しています。当初の目標額には到達いたしましたが、ゴールを越えて、さらに多くの皆さんのご協力をお願いいたします。

(長浜和也)

若狭湾に眠る旧日本海軍の潜水艦「呂500」