のこった、のこった――。だが土俵上には、審判と力士がそれぞれ1人。力士は見えない相手と相撲を取り、劣勢に追い込まれ、土俵外に出た。

なにを書いているのか、と思われる読者もいるだろう。これは、大山祇(おおやまづみ)神社(愛媛県今治市)で旧暦の5月と9月に行われている神事、一人角力(ひとりずもう)だ。

どのような相撲なのか、いつから始まったのかなど、Jタウンネット編集部は神社や力士に聞いてみた。

「豊作を祈願しているのではないか」

一人角力は毎年旧暦5月5日の御田植(おたうえ)祭と、旧暦9月9日の抜穂(ぬきほ)祭で、神事として行われている。御田植祭は稲を植えて豊作を祈り、抜穂祭は稲を刈り豊作となったことを感謝する祭りだ。同神社によると、いずれもいつから行われているのか、はっきりとわかっていないとしながらも、「愛媛県の文化財の資料によると、1364年の記録には記述が残っています」と言う。

相撲は三番勝負。相手は姿の見えない稲の精霊で、力士は神社のある大三島(おおみしま)出身の1人の男性が毎年行っている。1999年からは、今治市職員の菅貞之(かん・さだゆき)さん(43)が力士を務める。

ルールは通常の相撲と同様に、土俵から出されると黒星がつく。例年、稲の精霊が2勝1敗で白星を収めている。その内訳は1回目と3回目に、菅さんがそれぞれ、突き出しと投げられて土俵を割り、2回目に土俵際で精霊を持ち上げて勝つという。

始まった経緯や理由について聞くと、「大昔から行われていたので、はっきりと理由は記録には残っていません」としながらも、「おそらく、勝つのが稲の精霊であることから、稲の方が強い、つまり豊作を祈願しているものだと思われます」と説明する。

「75歳までは頑張りたい」

25歳の時から一人角力を行っている菅さんにも話を聞いた。

菅さんは取り組む際に、「周りの人に『自分は相撲をやっている』ということをわかってもらうために、大げさに動くようにしています」と心がけている。また、「精霊への不敬にならないよう、手を抜かずに行う一方で、精霊様に喜んでもらえるよう、笑ってもらえるようにしています。神様は見えないので、お客さんに笑ってもらうようにしています」。

菅さんは「先代が75歳まで務めていたということなので、75歳までは頑張りたいと思います」と今後の番付に向けて意気込む。2018年の御田植祭は6月18日に行われる。

一人角力の様子(今治市役所と大山祇神社提供)