自殺を思いとどまるイラク帰還兵の心の変化を7分の短編映画「1マスの前進」に凝縮させた米国のジャド・アンダリ監督(31)が来日し「座って話せば人は分かり合える」と訴えている。レバノン生まれで米国育ち。2008年のリーマン・ショックで大卒後の就職先がなく、米軍に入隊し、イラクに派遣された異色の経歴を持つ。

 4~24日の日程で開催中の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」のため滞在中の13日夜、取材に応じた。

 米軍入隊時、アラビア語が話せるため情報部隊に配属されかけた。しかし、両親が既にレバノンに帰国しており誘拐の危険があるため、爆発物処理部隊に落ち着いた。

 軍内には「アラブ系に対する差別もあった」と振り返る。10年にイラク入り。約1年の派遣中、街ではイラク人との交流に努めたが「私のアラビア語は勉強して学んだものではなく、習慣も含め自然と分かり合える一方『なぜ米軍の服を着ているのか』と詰め寄られた」と板挟みになった。

 イラクから帰国後、うつ病に悩まされた。13年に除隊し、ニューヨークで大学院へ通った。入隊時の条件で学費は国の負担だ。ただ「軍は機会を与えてはくれるが、そこから続けていくのが難しい」と語る。挫折した仲間は多い。イラク帰還兵は、全米で1日20人が自殺しているという退役軍人省の推計もある。

 監督の映画では、ニューヨークのチェス愛好家が集まる店に入り込んだイラク帰還兵が、イラク出身の店主と出会いチェスと向き合う。原題は「ポーン」。チェスの駒で、将棋では「歩」だ。「『一番弱い駒』という意味だ」と監督は語る。映画は21日、東京都世田谷区の二子玉川ライズで上映される。入場無料。