【シンガポール時事】トランプ米大統領が米韓軍事演習の凍結を表明し、日韓両国だけでなく米国内にも当惑が広がっている。米韓演習は北朝鮮に対する抑止と共に「最大限の圧力」戦略の一環を担ってきた。専門家らは「北朝鮮から具体的譲歩を得ないまま、一方的に演習凍結の交渉カードを切った」と批判。同盟国と相談せずに凍結を宣言したことで、日韓との連携に溝が生じる恐れもある。

 ◇無益な譲歩

 「不適切だ」。トランプ氏は12日の記者会見で「戦争ゲームは費用が掛かる上、挑発的だ」と述べ、北朝鮮と交渉が行われている間は、米韓の軍事演習を凍結すると宣言した。

 韓国には現在、約2万8000人の米軍部隊が駐留し、毎年数回にわたって韓国軍と軍事演習を実施する。北朝鮮はそのたびに「露骨な挑発行為だ」と反発してきた。

 米側はこれまで「軍事演習は防衛目的」との立場を堅持し、北朝鮮攻撃の意図を否定。マティス国防長官も、在韓米軍の処遇や米韓演習に関し「安保環境に応じて米軍規模を縮小する可能性はあるが、同盟国である韓国と協議して決めることであり、現時点で北朝鮮との交渉で議題になり得ない」と断言していた。

 トランプ氏の唐突な凍結宣言は、こうした主張をすべてひっくり返した。マイケル・グリーン元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は「かなり衝撃的だった」と振り返る。その上で、トランプ氏が初期の交渉で大きな譲歩を示したことで「今後の非核化交渉の上で、米側に何一つ利益にならない」と批判する。

 ◇重い「放言」

 日韓両国にとっても寝耳に水だった。シンガポールで情報収集に当たっていた外務省の金杉憲治アジア大洋州局長は「記者会見での発言で出てきた話だから、まずはよく説明を聞きたい」と慎重な姿勢を示した。韓国国防省当局者も「正確な意味や意図を把握する必要がある」と戸惑いをあらわにした。

 一方、アジアにおける米国の軍事プレゼンスを警戒する中国は「新たな歴史を創造している」と歓迎。ロシアも「前向きに評価する」と即座に支持を表明した。

 トランプ氏は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討戦が続くシリアからの米軍撤収を突如宣言した経緯もある。このため、演習凍結だけでなく、在韓米軍の将来的な撤収・規模縮小を示唆した今回の発言は、トランプ氏特有の「放言」だと見る向きもある。

 グリーン氏は、米国防総省が今後、米韓演習の継続に向けて軌道修正を図るとの見通しを示す。ただ、共同声明に明示されなかったものの、大統領の公式発言は重い。8月に米韓演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」が予定される中、米国は言質を取られた格好となった。今後の北朝鮮との交渉で苦しい立場に置かれるのは間違いない。 

〔写真説明〕米韓両軍の野外機動訓練「フォール・イーグル」に参加する韓国軍の車両=4月5日、浦項(AFP時事)

〔写真説明〕米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」に参加する韓国兵=2016年8月、ソウル(AFP時事)

米韓両軍の野外機動訓練「フォール・イーグル」に参加する韓国軍の車両=4月5日、浦項(AFP時事)