●ジャニー喜多川社長も素晴らしい人
『半沢直樹』『下町ロケット』『民王』『陸王』など、次々とドラマ化されヒットを飛ばす小説家・池井戸潤の作品が、初めて映画化される。長瀬智也を主演に迎えた『空飛ぶタイヤ』(6月15日公開)は、大企業のリコール隠しと闘う運送会社の赤松社長(長瀬)を軸に、大手自動車メーカー、銀行など様々な立場で働く人たちの姿を描いた群像劇だ。

隠蔽やパワハラなど、社会に巣食う病理が連日報道されている中、まるでリンクするようなこの作品に、主演の長瀬は熱い思いで挑んだという。自身も「闘っている人でいたい」と語る長瀬に、同作についてインタビューした。

○仕事だけになってしまうのはいけない

――今回作中では、赤松社長がかなり厳しい状況に置かれますが、長瀬さん個人が八方塞がりの状況になった時は、どんなふうに考えて乗り越えますか?

もう「死んでも良い」と思ってるくらい極限の状況ですもんね。でも僕は「死ぬんだったら、やるか」となるだけの話なので、意外とシンプルです。赤松も高速道路でハンドルを切ろうとするシーンがありますが、きっと疲れたり、壊れそうになったりして、誰しも思い描いた事はあると思うんですよ。その気持ちもすごく分かるけど、だったら最後にやれることはやった方がいいじゃない、と思うしかないんじゃないかな。

――諦めないためには、どんな風にモチベーションを保って行ったらいいと思いますか。

モチベーションを保てたら、みんな諦めずにすむし、苦労することもないですよね。でもそこでやっぱり助けてくれるのは、家族や仲間なのだと思います。実は仕事に関係ないバイク仲間とかが、逆に救いだったりするのかもしれない。だから、仕事だけになってしまって友達とかけ離れてしまうのは、実は自殺行為で、いざ何かなったとき周りに誰もいなくなってしまうんじゃないか、と思います。赤松にとっては、支えになるのは家族との時間でした。

――赤松はとにかく踏ん張って闘い続けますが、見切りをつけて諦めた人達もいっぱい出てきますよね。

きっとこうやって、反撃できることなんて奇跡だと思うんです。でもやっぱり、一人の人間が思い描いた綺麗な気持ちを社会がかき消すのは、すごく残酷だなと思います。世間を見ても、ビジネスのために自粛することがあったり、しょうがないことだと思うんですけど、見えない力が子供みたいな純粋な気持ちを壊してしまうのは、すごく残念だなと思うこともあります。

僕も一応、社会で仕事をしている人間として分かる部分もあります。でも、いつかこの世界が、社会が、気付くと思っていて。「そんな時代があったんだね」と言われるようになると思うんですよ。いつかみんな絶対に気付く、という確固たる思いもあるので、今はそっと見ている感覚です。

――会社が立ち行かなくなりそうな場面にも直面していましたが、長瀬さんが思う、組織のリーダーとして魅力的なのはどういう人ですか?

すごい人って、すごくない人ともちゃんと目線合わせてしゃべれるんですよね。例えば、僕みたいなアホな奴と目線を合わせてしゃべってくれる先輩には、ついていこうと思います。この人がこれから成功しようが失敗しようが、一生一緒にいたいと思います。ジャニー(喜多川)さんも素晴らしいですよ。かっこいい男です。

●身を削って苦しみ、お金のためにできる仕事ではない
○芝居も歌も表現としてやっている

――今回『空飛ぶタイヤ』で見た長瀬さんが、役者としてすごく魅力的だったんですが、役者にもっともっと腰を入れたいという思いはありますか?

全くないです。そもそも役者という仕事のジャンルを考えていないですね。僕の中ではお芝居も歌も一緒なんです。

――全て「表現」という事でしょうか?

表現です。芝居も歌も、言葉じゃないけど感じるものだから、自分の中に根拠のない自信みたいなものもありますが、「受け入れてもらえないだろうな」と思うこともたくさんあります。でも、「それでもやるぞ!」という闘いなんでしょうね。傷つくことなんてたくさんあります。分かりやすく言ったら、視聴率なんて、残酷ですよね。でも、僕らはそれに負けちゃいけない。それでもう、身を削って時間を削って、やるわけです。本当は、それで苦しむくらいだったら、お金をもらわない方がいいかなと思ってしまうくらいです。

僕はジャニーズ事務所のTOKIOというバンドに属してやっているので、そこもちゃんとやっていきたい。役者活動をしていても一生「役者」とは名乗れないような気もするし、自分では肩書きはあまり作りたくないんです。

ただ、僕の人生で自分なりに培ったものもあるし、自分なりに思うこともあるし、先輩たちを見て感じることもある。だから僕なりに考えたことをやるのが、今の自分にとっては一番正しいんじゃないかなと思って、やらせてもらっています。そして、それは応援してくださったり、観てくださったりする方達のためだけにやっているので、自分のためだけだったら絶対にやらないです。お金を稼ぐためにやらなきゃなんて、さらさら思わないです。それ以上に身体や心を削ることも多いですから。
○闘っている人の歌の方が胸にくる

――すごく思いが伝わってきます。今までの長瀬さんがされていた役って、アウトロー的なイメージが多かったり……

下品だったり、うるさかったりもね(笑)。

――(笑)。でも、今回は社長という役どころで社会派な物語ですが、そこに対して思うことはありますか?

僕の年になると、もう結婚して子どもがいる人も多いし、それこそ社長やってるやつもいるし、自分もそういう年になったんだなというところはもちろんあります。

でも、このままでいいのかなと思う部分もあります。だからこそ、この作品をいただいた時に、僕は純粋に、この作品のメッセージは自分のいる世界にも繋がるもので、自分が伝えたいことだと思いました。『空飛ぶタイヤ』という世界で、赤松というキャラクターを通してメッセージを描くことが任務だ、という気持ちでやらせてもらいました。

きっとこういう人がいるだろうとか、こうであって欲しいとか。自分が世界で抱えたストレスとか、そういうものが全部ぶつかっている作品のような気がします。逆境の中をとにかく這いつくばって、その風に流されないように前に突き進んでいく姿というか。もう風が強くて目も開かないし、前も見えないけど、それでも前に進む想いが詰まっている。

僕は何でも、闘っている人間に凄く魅力を感じるんです。だから、どんな人にでも闘っていて欲しい。「もう、これに逆らってもしょうがねえな」とはなって欲しくないです。自分もいつまでも闘っていないと、やることに深みが出ないですよね。言われたことを純粋にやることも良いですけど、僕はそういうやり方じゃないんだなとつくづく思うし、それは、みんなバラバラで良いと思います。

この作品には、観た人の人生も変わるんじゃないか、という位の責任も感じています。だからこそ社会で、本当は綺麗なものを汚そうということがあったら、許せないですね。この世界にいる以上は、お金よりも観た人の人生を考えることの方が大事なんです。そこがなくなったら、残念だなと思ってしまう。綺麗事だと言われても構わないし、僕みたいにそういうやり方しか出来ない人間も、一人くらいいても良いんじゃないかな。

やっぱり、闘っている人の歌と、諦めた人の歌だったら、絶対に闘っている人の歌の方が胸にくるはずで。僕は別にお芝居が上手い人、歌が上手い人になりたいわけじゃなくて、人の心が動いたらいいなと思っています。自分にしか出来ないものを描いてやる。赤松も、そういうことだと思います。

――拝見した後に、仕事をちゃんとがんばろうとすごく思えた作品でした。

そう言っていただけるとありがたいですね。4月から新社会人になった人もいるでしょうし、ぜひとも、観て元気になってもらいたいです。今後の社会は若い人達にかかっているし、期待しています。僕も下の世代のクリエイターの方達とよく仕事をしますけど、彼らからすごく刺激をもらいますし、リスペクトもするし、わくわくするんです。だから、思うようにやってもらいたいです。……がんばって。

■長瀬智也
1978年11月7日生まれ、神奈川県出身。94年にTOKIOのメンバーとして「LOVE YOU ONLY」でCDデビューを飾る。14年にはジャニーズ史上初となる夏フェス「SUMMER SONIC 2014」に出演するなど、精力的に音楽活動する一方、95年に放送されたドラマ『カケオチのススメ』で初主演を果たして以降数々のドラマ・映画に出演。主な出演作に、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(00)、『ムコ殿』(01)、『タイガー&ドラゴン』(05)、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(06)、『泣くな、はらちゃん』(13)、『フラジャイル」(16)、『ごめん、愛してる」(17)、映画『ソウル』(02)、『真夜中の弥次さん喜多さん』(05)、『ヘブンズ・ドア』(09)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(16)など。
(佐々木なつみ)

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