『週刊プレイボーイ』本誌で連載中の「ライクの森」――。

人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は、中東を訪れた彼女が現地のストリートアートの面白さについて語ってくれた。

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先日、テレビ番組のロケで中東の都市・エルサレムとその周辺を訪れました。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教のそれぞれの聖地や、新しいアメリカ大使館など、感慨深い場所にたくさん行きましたが、特に印象に残ったのは「分離壁」に描かれたストリートアートです。

分離壁とは、イスラエルがパレスチナ自治区との境界線上(正確にはパレスチナ自治区内)に建設中の長大な壁で、パレスチナの人々の生活を脅かしていると国際的な批判を浴びています。この分離壁が通っている都市のひとつ、ベツレヘムに多数のストリートアートが存在するんです。

最初にベツレヘムの分離壁や建物にストリートアートを描いたのは、イギリスのアーティスト、バンクシーとベン・アインでした。イスラエルの政策や戦争への批判を込めた彼らの作品によって壁の注目度が増し、以後、さまざまなアーティストが作品を描き残すようになりました。

実際に見たらクスッと笑えるような作品が多くて、元ネタを考えるのに夢中になりました。今まで見てきた都市のストリートアートより政治的メッセージがはるかに強く、最近描かれたものだとトランプ大統領やマーク・ザッカーバーグを皮肉った作品が目立ちます。現在も作品は増えたり描き換えられたりしていて、これだけで2時間特番ができそうなくらいの熱量を感じました。

私もベツレヘムでバンクシーの作品を見ることを楽しみにしていたんですが、有名な作品のいくつかは、もうそこにはありませんでした。アートディーラーが「作品を保護するため」と称して勝手に壁ごと持ち去り、マイアミのオークションにかけてしまったんです。

そこにあるからこそ風刺や批判が力を持つストリートアートを、金持ちが買って家に置くなんて、鹿の頭の剥製を壁に飾るように不自然ですよね。いつか上書きされてしまうはかなさもストリートアートの面白さなので、永久に保存されることにも違和感があります。

もともと、ストリートアートは70~80年代のグラフィティ文化から発展したものです。建物の壁や電車に違法に描かれたグラフィティは、街の景観を乱す落書きとして取り締まられました。

しかし、欧米では今や公共美術として認められるようにもなり、自由にペイントしていい場所を自治体が提供したり、建物の所有者がアーティストにペイントを発注することもあります。サンフランシスコは自由なストリートアートの魅力と集客力を認めて落書きに対する法律を緩和しましたし、作品を巡るツアーを企画している都市もたくさんあります。

見慣れた風景の中に突然現れるストリートアートを見て、「どういう意味なんだろう?」と議論したり、その地域で起こっている問題を知る。そうした意味で、ストリートアートは元祖ソーシャルメディアだといえます。

でも、メッセージ性は関係なく、ただただカッコいいものや圧倒されるスケール感のものなど、見ほれてしまう作品が多いので、海外旅行の際はぜひ注目してみてください。いつ描き換えられるのかわからないアートなので、そのときだけの出会いを楽しみましょう。

●市川紗椰(いちかわ・さや)










1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21:00~)、MBSラジオ『市川紗椰のKYOTO NOTE』(毎週日曜17:10~)などにレギュラー出演中。今回の取材では、個人的にグルメを開拓する時間がまったくなかったことが残念

ベツレヘムを訪れた市川紗椰「ストリートアートは元祖ソーシャルメディアです」