衝撃的な本と出会ってしまった。『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(著、西谷格/小学館新書)だ。

【その他の画像】

 中国での働き方のリアルが描かれていて、そこはブラックでもホワイトでもなく、“レッドな職場”だった。仕事のルールが日本人の常識を超えている。しかし、人々は実にゆるく、テキトーに働いていた。ここから学ぶべき点があるのではないだろうか。

 著者の西谷氏は、新聞記者として働いたあと、フリーライターに。その後、2009年から14年にかけて上海に滞在。その間、現地にて体当たりでアルバイト、婚活などに取り組んだという珍しい経験の持ち主である。

 その果敢なチャレンジの様子は、まるでYouTuber(ユーチューバー)のようだ。寿司職人に応募する、反日ドラマに出演する、遊園地でパクリ小人役になってみる、高級ホストクラブで働く、婚活イベントに参加する。「そこまでやるか!?」と思いつつも、ついついのぞき見してしまう。そこには、テキトーに、ゆるく生きる、中国人の姿があったのだった。

 本を読んで衝撃を受けたわけだが、それだけでは終わらない。その後、著者の西谷さんと対談を行うことになったのだが、正直、私は本の中身に疑問を感じていた。具体的に書かれてはいるが、「本当なのか?」と思うほどの内容だったからだ。しかし、彼と会ってそれがすべて事実だったことを確認した。彼の実感のこもった話だけでなく、寿司職人風の姿や、遊園地でパクリ小人たちと踊っている姿などを見て、本当だったのだと確信したのだ。

 彼は手元のMacBookを広げ、上海時代の写真を見せてくれた。書籍には掲載されなかったモノも含めて、お宝画像がたくさんあった。「ほら、これは私が反日ドラマで日本兵役を演じていたころの写真です。時代考証がめちゃくちゃでしょ?」などとひょうひょうとした説明がいちいち面白かった。西谷さんが扮していた日本兵役は、昔の中国兵とベトナム戦争での兵士が混じったような服装だったのだ。

●衝撃的なエピソードがたくさん

 本を読んでいて、最も衝撃を受けたのが寿司職人のエピソードである。日本で寿司職人の経験がないのにもかかわらず、それをごまかして採用されたという話も驚きだったが、現場で展開されている衛生観念そっちのけの調理方法に仰天してしまった。大きな魚をさばくときには厨房の床にまな板を敷いて行う。このほうが血しぶきを洗い流しやすいので、合理的なのだという。生魚も台所に放置している。その理由は「どうせ加熱するから」だそうだ。

 パクリ遊園地にも絶句してしまった。諸事情により使えなくなったパクリミッキー、ミニーのぬいぐるみを見せてもらったところ、危ないクスリを服用しているかのようなぶっ飛んだ顔だった。さらには映画『白雪姫』に登場する「7人のこびと」をパクっているのにもかかわらず、「これは普通の小人だ」と言い張る様子などにも絶句してしまった。

 なんだろう、このテキトーさは。反日ドラマを撮影している監督に日本の焼酎をプレゼントすると大喜びされるなど、スタッフが純粋に映像をつくるのを楽しんでいて反日感情がなかったというエピソードも引き込まれてしまった。

 話を聞いていて、こう感じた。意識高い系の経営者はよく「中国の若者は優秀だ。負けるな、日本人」といったことを言う。このようなことを話す人に言いたい。「中国の若者が優秀」なのではなくて、「中国には優秀な若者もいる」というのが正しいのではないかと。中国の現場では「とりあえず雇ってみる」という慣行が定着していて、雇う側も働く側もなんとなくテキトーなようだ。

 西谷さんの話は、いかにも中国をからかう嫌中ネタのように感じる人もいるかもしれない。中国での出来事が日本人の常識を大きく超えているので、日本で同じようなことをSNSに投稿するだけで大炎上しそうである。ただ、中国ではそこに合理性のようなものがあって、だんだんそちらのほうが正しいのではないかと感じてしまう。

●ときにはサボることも大切

 このように書くと、「極端な例を取り上げているだけでしょ」と思われたかもしれないが、西谷さんが経験したことに働き方改革のヒントがあると感じている。一言で言えば「自分の常識を疑え」である。特に「サービスレベルなどを疑え」だ。日本人はいつの間にか、何もかも背負い込んで、辛いことになっていないだろうか。実際、西谷さんも「どちらが正しいのか、分からなくなってきた」と語っていた。

 いや、何もかもテキトーにしろと言っているわけではない。ただ、過剰なサービスに疲弊しているのではないか、簡単にできることを否定しているのではないか。ラクにやるのは、楽しいことである。困難を乗り越えたところに楽しさがあるという言説は否定しないが、ときにはサボることも大事ではないか。

 私が会社員だったころ、営業車の中で寝る、トイレで寝る、サウナに行く、映画館に行く、百貨店で買い物をするといったサボリーマンをたくさん目撃した。ただ、彼ら・彼女らは自分に期待されている仕事を理解していて、提供するサービスレベルも決めていたので、疲弊することがなかったのである。

 念のために申し上げるが、私は「中国人のようになれ」「中国人を目指せ」などと言っているわけではない。やれることとやらないことをきちんと決めること、客として過剰なサービスレベルを期待しないこと。この2つを実践するだけで、「働き方が大きく変わる」ことを申し上げたいのだ。

 さて、君たちはどうサボるのか? (筆者注:この原稿は手を抜いているわけではない)

(常見陽平)

ときにはサボることも大切