【動画】英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18『マクベス』予告編


英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2017/18の、今シーズンのオペラ最後の上映演目はヴェルディ『マクベス』だ。魔女の予言を信じ、権力に目がくらんで国王殺害をはじめ暴虐を尽くし最後は滅んでいく将軍マクベスとその夫人の悲劇を描いた、シェイクスピアの有名な戯曲をオペラ化したものだ。

演出は映画『マンマ・ミーア!』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』の監督でもある英国人舞台演出家のフィリダ・ロイド。主演マクベスのジェリコ・ルチッチ、マクベス夫人のアンナ・ネトレプコらが「シェイクスピアとヴェルディ、失敗は許されない」と臨んだ渾身の舞台は、その表情共々大スクリーンだからこその迫力満点。舞台の国・英国の誇りが集結した、「映画館という特等席」を心底実感できる作品だ。

(C) ROH. PHOTO BY Bill Cooper

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■大胆にして緻密。ネトレプコのマクベス夫人

ジュゼッペ・ヴェルディ『マクベス』は1847年初演。イタリアにシェイクスピアの戯曲を知らしめたきっかけとなったとも言われている。1865年のパリ公演を機に大幅な改定がなされ、現在上演されているのはこの「パリ版」と呼ばれる改訂版が主。英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)もパリ版を採用している。

『マクベス』は『ハムレット』、『オセロー』、『リア王』とともにシェイクスピアの四大悲劇と言われる作品。スコットランド王に仕えるマクベス将軍(ルチッチ)は魔女の「お前は王になる」という予言を信じ、また野心的なマクベス夫人(ネトレプコ)にもけしかけられ王を暗殺。王位を手にしたマクベスは、しかし不安と疑心に駆られ同胞バンクォー(イルデブランド・ダルカンジェロ)を殺害し、虐殺、暴政に走る。耐えかねた貴族マクダフ(ユシフ・エイヴァゾフ)は亡命し、打倒マクベスの機をうかがう。一方マクベス夫人は心の奥に潜む血の恐怖にさいなまれ狂死。そこへマグダフが蜂起し、マクベスは最後の戦いに挑む。

(C) ROH. PHOTO BY Bill Cooper

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マクベスを演じるジェリコ・ルチッチはMET『トスカ』で悪役スカルピアを演じたバリトン。そしてマクベス夫人はもはや説明の必要もない名ソプラノ、アンナ・ネトレプコだ。ときには「マクベス以上にその夫人が重要」といわれるこの役を、ネトレプコは圧倒的な存在感をもって演じる。小心な夫をけしかけ自ら血に染まる野心、女王としての威厳、狂気には彼女の大胆さと緻密さがいかんなく発揮され融和し、実にはまり役だと唸らされる。これを映画館で見られるのは、実に幸運というよりほかない。

(C) ROH. PHOTO BY Bill Cooper

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■舞台照明が描く表情と眼力は映画ならでは

舞台は総じて暗い。魔術も策謀も暗殺も暗闇の中で行われるからだろう。魔女たちの赤(そして全員がフリーダ・カーロ顔!)マクベスや夫人などの登場人物は黒やグレー、純粋無垢な子供たちは白の衣装で、王の鎧や玉座など王権の象徴は金。照明のなかで浮かび上がる限られた色彩は絶妙だ。暗がりに目を凝らし、照り返しとともに一層まばゆく輝く黄金色に圧倒され、「曲の8割が弱音」という音楽に耳をそばだて……と、いつの間にか舞台の世界にのめり込んでいる。

(C) ROH. PHOTO BY Bill Cooper

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もうひとつ注目したいのは、大スクリーンに映し出される歌手の表情だ。暗闇のなか、懐中電灯で顔を照らすかのような照明が、登場人物の狂気や不気味さを湛えた表情を一層際立たせ効果絶大。マクベスや夫人の不敵な笑いや狂気の眼差し、血走った目、バンクォーの不気味さと存在感など、もし現地でこの舞台を見ていたとしても改めて観たくなる、映画ならではの迫力に満ちている。

オペラであり、同時にスリリングな映画としての魅力を持ち合わせたROH『マクベス』。さらには難民問題という現代世界のアクチュアリティをも描き出す。オペラやネトレプコをはじめ、シェイクスピア、ヴェルディ、戯曲に興味があるならぜひ、おすすめする。