連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第14週「羽ばたきたい!」第80回 7月3日(火)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

80話はこんな話
ピンチを秋風(豊川悦司)に救われた鈴愛(永野芽郁)は漫画家として生きることに限界を感じていた。
そして、岐阜のおじいちゃん・仙吉(中村雅俊)に電話をかける。

秋風「そう・・・なの?」
深夜ワールドカップで日本がベルギーに負けた朝、最後まで奮闘した選手たちのように鈴愛も脱力していた。
締め切り問題は、間に合わなかった鈴愛の代わりに、デビュー前に格闘していた「月が屋根に隠れる」を秋風が自分なりに描いて代原として提出してことなきを得た。

「先生は本物の刀で人の心を斬る。先生に斬られたら心から血が流れる。私は偽物の刀しかない」
「別れ際は刃物ですぱっと」の正人(中村倫也)を思い出したのは置いておき、ベッドに横たわり朦朧とする鈴愛をユーコ(清野菜名)が慰めペンだこにキスをする。

ボクテ(志尊淳)は秋風に、鈴愛がひとり残った秋風塾の塾生として無理をしている気がするので解放してやってほしいと頼む。秋風は「そう・・・なの?」ときょとん。菱本(井川遥)にもそう思っていたと言われ、
「そうなの」と音にならないくらいの小さい声でもう一度。
ここまで重いムードが続いたので、すこしホッとした。

「どうにでもなるぞ」 
結局、鈴愛は「いつか君に会える」を最後まで描き上げた。
以前出てきたプロットと80話に出てきた原稿を総合すると、こどもの頃「結婚しよう」と約束した幼馴染が成長して「結婚しよう」となる・・・ようだ。漫画はハッピーエンドそう。

その後、本放送は8時7分から鈴愛と仙吉の電話での会話が最後まで描かれる。
「思ったほど才能なかった」という鈴愛に、仙吉はあっさり受け止めて、「自慢の孫や」とあくまで優しい。
鈴愛は、「誰にも言わんといてな」と「私ま〜あかんかもしれん」と告白。
「しょうがないな」とやっぱりあっさり。「東京出て9年がんばって本も何冊か出して御の字や」と優しい。

「漫画辞めてどうやって生きていこう」と悩む鈴愛に、「このご時世、どうやったって生きてけるぞ」と自分の戦争体験を話し出す。
そのときカメラは中村雅俊の背中に回りしばし背中で語らせる。そのあと横顔になるがそこでも顔をあまり映さない。そこに演出家の思いを感じる。

仙吉は戦地で原地の人に匿ってもらっていたことがあり、穴蔵のようなところにいて、「一日のうち15分だけ日が差す」「15分光りが差すだけで人はそれを楽しみに生きていけるんやと思ったんや、そのとき」という体験をしたと話し、「要はな 鈴愛 どうにでもなるぞ 大丈夫やってことや。人間は強いぞ」と鈴愛を励ます。
「要はな 鈴愛 どうにでもなるぞ 大丈夫やってことや。人間は強いぞ」と“今”の仙吉の実感になるとカメラは中村雅俊の表情をしっかり映す。

そして仙吉は「あの素晴らしい愛をもう一度」を弾き語る。
鈴愛が農協に就職が決まったときの祝いの会のとき">4月28日放送24話 
に歌った歌だ。
あのときは律も歌っていた。そして、鈴愛と律はそっとみつめあっていたのだった。
「心と心がいまはもう通わない」
その歌詞が胸を突く。

中村雅俊にはじまり、中村雅俊に終わる
ちょうど1ヶ月前、6月1日、53話で中村雅俊は草太(上村海成)に戦争の記憶を語り、「真夏の果実」を弾き語っていた。
これで、孫ふたりに戦争の記憶を託したことになる。

53話のレビューで、中村雅俊が、朝ドラの絶対王者「おしん」(84年)の少女編で日露戦争の脱走兵・俊作として出演したことを紹介した。
俊作は隠れ住んでいた小屋で、奉公先から逃げてきたおしんを匿い教育をほどこす重要な役を担った。
面白いのは、「おしん」はバブル時代の日本の状況にそれでいいのかと問いかけたドラマで、「半分、青い。」はその問いかけられた時代を生きた者たちの物語であることだ。
俊作がおしんに語って聞かせたことと、仙吉が鈴愛や草太に聞かせたことは、時代の流れのなかでどこが違ってどこが同じだろうか。

当時「おしん」を楽しんでいたわたしの祖母や叔母はもうこの世にはいないが、当時「おしん」を見ていて、中村雅俊をいま懐かしく見ている高齢者もいるだろう。
中村雅俊がいつまでも若々しくかっこいいことできっと昔から彼のファンは元気をもらえると思う。

「15分光りが差すだけで人はそれを楽しみに生きていけるんやと思ったんや、そのとき」という台詞は、
朝ドラ15分にかけているのだろう。
とすれば視聴者は「半分、青い。」に毎日光を感じたいところだが、目下・主人公の鈴愛は真っ暗な穴蔵にいるような状態。彼女に「光」が差すことで私たちも「光」がもたらされるはずだ。
80話は、仙吉が「どうにでもなる。大丈夫やってことや。人間は強いぞ」と言ってくれて少しだけ「光」が見えた気がした。

穴蔵から光を見るというと、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の間宮中尉のエピソードが思い浮かぶ。奇しくも、今後「人生・怒涛編」に出演する間宮祥太朗と「間宮」つながりの登場人物は戦争中に井戸のなかで光を見る。だが彼の場合、この光はいわゆる救済とはちょっと違うもので・・・などと不穏なことを書いて今日は終わります。
(木俣冬)
『ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編』村上春樹/ 新潮文庫