2019年で40周年を迎える、日本人なら誰もが知っている巨大コンテンツ『機動戦士ガンダム』
 そのコンテンツを支えている柱のひとつに、ガンダムのプラモデル、通称「ガンプラ」がある。

 そんなガンプラをつかった架空の競技「ガンプラバトル」をテーマにしたTVアニメ『ガンダムビルドファイターズ』が2013年に放送された。
 「プラフスキー粒子」というプラスチックを動かせる粒子が存在し、ガンプラで戦うことを世界中の人々が楽しんでいる──ガンダムだけど、人が死なないその世界感は、「ガンダムらしさ」と「ガンダムらしくなさ」が融合し、多くのファンの心を掴んだ。

『ガンダムビルドファイターズ』

 また、時を同じくして、バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)からゲームソフト『ガンダムブレイカー』も発売される。
 こちらは自由にパーツをカスタマイズしたガンプラを作り、ガンプラどうしで戦うというアクションゲームである。この年はそうしてゲームとアニメの両側から、ガンプラの広がりを加速させた。

『ガンダムビルドファイターズトライ』

 アニメはその後、2014年に続編『ガンダムビルドファイターズトライ』、2016年に特別編『ガンダムビルドファイターズトライ アイランド・ウォーズ』、2017年に『ガンダムビルドファイターズ GMの逆襲』『ガンダムビルドファイターズ バトローグ』が制作された。

※2017年5月に公開された「GUNDAM BUILD _EXTRA BATTLE PROJECT “READY”」のPV

 そして2018年──待望のTVシリーズ最新作『ガンダムビルドダイバーズ』がスタート。本作は今までのビルドシリーズとは世界観を一新し、ネットワークゲーム「ガンプラバトル・ネクサスオンライン」で、ガンプラをスキャンして戦うという設定だ。

『ガンダムビルドダイバーズ』キービジュアル

 このゲームでは自分のアバター(作中では「ダイバー」と呼称)でガンプラを操作し、選んだミッションで遊ぶこともできれば、メンバーを募ってフォースを作り、別のフォースと対戦することもできる。
 また、様々なサーバーがあるなど、実際にあるオンラインゲームと設定が似ているのが特徴だ。

 一方ゲームでは、6月21日にシリーズ最新作『Newガンダムブレイカー』が発売された。
 『ビルド』シリーズと『ブレイカー』シリーズはこれまで独立した作品であったが、本作では『ビルド』シリーズを思わせる世界観になっており、ここにきて両シリーズが交わりつつあることを感じさせる。

『Newガンダムブレイカー』キービジュアル

 アニメとゲーム、そして現実が近づきつつあることが見えてくるこの施策。
 そこには、ガンプラとガンダムを“eスポーツ”へ、という制作側の考えがあった。果たして彼らはガンダム × eスポーツへどんなビジョンを持っているのだろうか。

 『ガンダムビルドダイバーズ』をはじめ、近年のガンダムTVシリーズのプロデューサーを多く務める小川正和氏と、『ガンダムブレイカー』シリーズのプロデューサーである薄井宏太郎氏に話をうかがった。

取材・写真・文/タカロク
取材/クリモトコウダイ


小川正和氏(左)と薄井宏太郎氏(右)

「ガンプラバトル」でeスポーツを目指す

──『ビルド』シリーズも今回の『ビルドダイバーズ』で3作品目ですが、このシリーズが描いているものはガンプラとユーザーの未来像であり、作中で繰り広げられる「ガンプラバトル」ってeスポーツだと思うんですよ。作り手としてそこは意識されているんでしょうか。

小川氏:
 もちろん意識していますし、我々は『ビルド』シリーズの世界──「ガンプラバトル」【※】を実現させたいと思っています。

小川正和氏

 ガンプラに触れている方はわかると思いますが、ガンプラって約40年間ずっと商品としての精巧さや手軽さは進歩している一方、作ることのエンタメ性や作った後の楽しみ方は、昔から大きくは変わってない。良くも悪くも不変のものなんです。

※「ガンプラバトル」
『ビルド』シリーズに登場する架空の競技、またはバトルゲーム。『ビルドダイバーズ』においては、ガンプラをスキャンして戦うため、作り込みが機体の性能に反映され、操作性だけでなく出来栄えも戦いを左右する。

 それに比べて、今の子どもたちは遊ぶものの選択肢が山ほどあります。だからこそガンプラを作るだけでなく、「その後に続く何かを提示したい」と思ったんです。

──それで作ったガンプラで戦う「ガンプラバトル」が誕生したんですね。

『ガンダムビルドダイバーズ』のガンプラバトル

小川氏:
 『ビルド』シリーズを作り始めた段階では、『ガンダムブレイカー』さんの話もあったので、最終的に「アニメとガンプラとゲームが連携した新しいエンタメを作りたい」と思いました。

薄井宏太郎氏

薄井氏:
 実際にガンプラを使ったバトルができれば最強なんですけど、技術的に時代が追い付いていないです。

 だからすぐに実現させることは難しいんですが、ガンプラとユーザーの未来像を描き、ガンプラ×eスポーツの実現性を上げていくことはできる。これが我々の世代の役割だと思っています。

小川氏:
 最終的には『ビルドファイターズ』でやっていた世界大会【※】が現実になったらいいですよね。
 ガンプラの可能性がもっと広がり、子どもたちがプラモを買って喜び、世界中にプロの人がいる──そうなると、あの世界がフィクションじゃなくなるんです。

『ガンダムビルドファイターズ』キービジュアル

薄井氏:
 eスポーツの理想系ですよね。そのゲームが好きでプレイし続けた人がスター選手になって、お金貰って、ファンのみんながそれを見に行く。野球やサッカーと一緒です。

『ガンダムAGE』を経て『ビルドファイターズ』が生まれたわけ

──ここからはより詳しく紐解いていこうと思います。小川さんは『機動戦士ガンダムAGE』からプロデューサーをされていますが、いつから『ビルドファイターズ』の構想があったんでしょうか。

小川氏:
 時系列的にはまず『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』が終わったときに、用意していた企画があったんですが、レベルファイブの日野さんから『機動戦士ガンダムAGE』【※】の企画をいただきました。

※機動戦士ガンダムAGE……2011年から2012年にかけて放送されたガンダムのTVシリーズ。企画にレベルファイブが参加し、ゲーム展開が多彩に広がった作品。100年にわたって三世代の主人公が描かれる物語で、作中の年代が進むにつれガンダムも進化を遂げていった。画像はキービジュアル。

 その後バンダイ(現BANDAI SPIRITS)のホビー事業部(以下、ホビー部)さんから「ガンプラ30周年で制作されたようなガンプラのアニメを作ってほしい」というお声掛けがあったんです。

──『AGE』と言えば、レベルファイブの日野さんが関わられていることで有名ですよね。

小川氏:
 そうですね。日野さんの企画書を見たときは率直に「凄い」と思いました。その『AGE』はゲームも同時進行で作られていたこともあり、ゲームの要素が強いものになりました。
 ただゲームとしてはよく分かるんですが、アニメとして描いていく点において難しいところもありました。同時期には宇宙世紀が舞台の『機動戦士ガンダムUC』【※】 が劇場上映されていたことも含めて、改めてガンダムシリーズを作る難しさを実感しましたね。

※『機動戦士ガンダムUC』
宇宙世紀を舞台にした作品で、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の3年後の世界が描かれている。著者は『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』の福井晴敏氏で、2010年から全7章にわたりOVAとしてアニメ化された。

 しかし、ある意味で『AGE』の経験があったからこそ、『ビルドファイターズ』を作ることができた、とも言えます。

──それはどういうことでしょうか。

小川氏:
 『AGE』は本当に難しかった。この企画自体はとてもチャレンジをしていたんです。まずは子どもたちに『ガンダム』を見てもらおうという意図があったこと。
 そして先ほども言ったように、ゲーム的な考え方を取り入れ、メディアミックスの中核にゲームコンテンツを据えたこと。

──なるほど。そう言われれば『AGE』と『ビルド』シリーズって似ている部分がありますね。 

小川氏:
 『AGE』を作っている段階では『ビルドファイターズ』の構想はありませんでしたが、子ども達をターゲットにすることや、ゲーム的アイデアという意味では、『AGE』が大元にはなっていると言えます。
 また気持ち的にも、「『AGE』でできなかったことをもう一度やろう」という思いはありました。

──『AGE』のメディアミックスのひとつに、プラモデルや既存品にチップを入れてスキャンする『ゲイジングバトルベース』というゲームがありましたが、そこの経験も活かされているんでしょうか。

小川氏:
 『ゲイジングバトルベース』【※】はガンダムの商品としても新しいし、面白い試みでしたよね。
 『AGE』で、そういった過程を見ていたからこそ、『ビルドファイターズ』のバトルシステムを構築できたのかもしれません。

※ゲイジングバトルベース
『機動戦士ガンダムAGE』と同時に展開されたアーケードゲーム。ガンプラまたはフィギュアに搭載されたICチップをスキャンし、反映された機体や組み合わせた部隊でバトルを楽しむ事ができる。ゲームで使用する本体は有料だが、プレイ自体は無料で遊ぶことができた。

──そういった経験や背景があったわけですが、実際に企画が立ち上がったきっかけは、先ほど言っていたバンダイさんから声が掛ったところからなのでしょうか。

小川氏:
 『AGE』が終わったタイミングで、再びバンダイさんからお声掛け頂いたのがきっかけですね。

──再び声が掛ったということは、ガンダムコンテンツとしての期待値は高かったんじゃないでしょうか。

小川氏:
 いえ、実は最初はそこまで期待されてなくて……(苦笑)。でもその分、好き勝手に作れたところもありました。

 ホビー部さんからは『機動戦士ガンダムSEED』(以下、SEED)【※】から入った若いガンダム世代にも見てほしいから、主役機に「ストライクガンダム」を使ってほしいとリクエストはありましたね。

『ガンダムビルドファイターズ』の主役機ビルドストライクガンダム

※機動戦士ガンダムSEED……2002年から2003年にかけて放送された、21世紀に入って初めて作られたガンダムシリーズ作品。モビルスーツを含めて、『機動戦士ガンダム』へのオマージュがふんだんに入り、男女問わず高い人気を博した。その後、続編として『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』が放送され、外伝も制作されている。


 アニメのスタッフも『SEED』を経験している人が多かったんで、その辺りは逆に助かりました。

薄井氏:
 それでも今までのガンダムシリーズの小ネタをたくさん入れていましたよね。

小川氏:
 作っているスタッフ側も「ガンダム」好きな人が多いので(笑)。登場するガンプラもかなり自由度が高かったです。ジュブナイルになったきっかけは、「ホビーアニメとして単純にガンプラを出すだけじゃ面白くないよね」と長崎(健司)監督と話し合った結果ですね。

──色々なガンダムを登場させた結果、難しいところもあったんじゃないでしょうか。

小川氏:
 バランスには気を付けていました。ガンダムシリーズって、それぞれの作品に熱狂的なファンの方がいるので、描き方によっては無駄な対立を生んでしまう恐れがあるんです。
 最終的には作品や機体を好きな人たちが、楽しく遊べるってことを強調するようにしました。

──その結果、『ビルドファイターズ』がガンプラの新たな入口になりましたよね。「作品や機体を好きな人たちが、楽しく遊べる」だけに過去作を知らなくても楽しめるので。実際に『ビルド』シリーズが始まってから、子どもたちを含めてガンプラの層は広がったんですか?

小川氏:
 もちろん広がりました。『ビルドファイターズ』で普段ガンプラを手に取っていなかった方々が、ガンプラを買ってくださるようになりました。
 またガンプラ作りから離れていた層を掘り起こした感じもありますね。その層はお父さんになっていて、親子二世代で作り始めたとか。

 でも反応が一番大きかったのは海外なんですよ。日本だと宇宙世紀好きな方が多いんですが、ガンダムってそういう歴史がありすぎて逆に海外では広まりにくかったんです。
 でも『ビルドファイターズ』は歴史を知らずとも、単体で楽しめますし、ガンダムではなくガンプラをメインにしたことで、結果ガンプラが海外でも売れるようになったんです。

 アメリカで『ビルドファイターズ』のイベントをやった時は、自分のプラモデルを持ってきてくれている人もいましたし、そういう意味では向こうの人たちにとって、ガンダムやガンプラの入口になったんだなと嬉しく思いました。

薄井氏:
 たしかに海外に行くと、ファンの方から『ビルドファイターズ』が好きってよく聞きますね。
 それに『ビルド』シリーズがなかったら、「ジム」に「ザク」をくっつけたカスタマイズとかありえなかったですよね。今はそういう遊びも受け入れられているのがすごいなって思います。

小川氏:
 『ビルド』シリーズ以外のガンダム作品でやると全部設定を付けなきゃいけなくなりますし、それこそファンの方から批判もあったと思います。

『ガンダムビルドファイターズ』登場機体のガンダムフェリーチェリナーシタ(画像左)とベアッガイIII(画像右)

 でも『ビルド』シリーズのようにホビーものにしたことで、設定を無視できるっていうのは、そういった意味ではメリットですよね。

薄井氏:
 それも相まって思いもしないタイミングでガンプラが売れ出した感覚は私にもありますね。当時「ギャン」とかめっちゃ売れたじゃないですか。

小川氏:
 ただガンプラやサンライズ全体としては良かったんですけど、こういった取り組みは初めてだったので、「ギャン」がいくら売れても我々のスタジオには還元されない仕組みになっていたんです(苦笑)。
 そこはジレンマだったので、『ビルドファイターズトライ』のときはそうならないよう、少しでも作品に還元されるようにしました。

 まぁ、そういう大人な事情はありますが、スタッフもガンプラ好きが多いので、自分たちが描いたガンプラが商品化されて、それを子どもたちが買って喜んでいるのが、一番の報酬でしたね。

薄井氏:
 あと『ビルド』と『ブレイカー』はリリースされるペースが速すぎる問題がありますよね(笑)。

小川氏:
 そこが実は問題で、正直『ビルド』シリーズって普通の『ガンダム』シリーズを作る労力と変わらないんです。むしろメカ描写が多いので、現場的にはもの凄く大変でして。
 商品連動をするとなると、早めに設定がないといけなかったりするので、ぶっちゃけ今のペースのままだと死にます(笑)。

 メカ物を1年通してやるって、かなりの労力が必要なんですよ。『AGE』のときは49本を連続で作りましたけど、ここ最近のアニメーション業界の現状を考えると、いまロボットアニメをあの規模で作れる制作会社は、サンライズ含めてかなり限られるんじゃないか、と思います。

 『ビルドファイターズ』も当初は50本作ってほしい、と言われていたんですが、そういう背景もありましたし、そもそも視聴者の反応もわからなかったので、25本で終わるように作ったんです。
 『ビルドファイターズトライ』は、『ビルドファイターズ』放送中に反響を受けて立ち上げた、残りの25本なんですよ。

『ガンダムビルドファイターズトライ』キービジュアル

薄井氏:
 もうすごいペースですよね。実はゲームのほうも、異常なペースでして……。だって別のシリーズもののガンダムゲームが出る間に『ブレイカー』は3本発売していますからね……。

──ちょうど『ブレイカー』の話が出たので一旦ゲームの話題に移りたいんですが、『ビルドファイターズ』は2013年秋から放送されていましたが、『ガンダムブレイカー』は当時既に発売していましたよね。

薄井氏:
 そうですね。ただ仕込みはゲーム、アニメ、ホビーとほぼ同時だったと思います。

『Newガンダムブレイカー』ゲーム画面

──制作期間中におふたりで「アニメではこうして、ゲームはこうしよう」といったやりとりはあったんですか?

小川氏:
 企画が始まったのはほぼ同時期だったんですけど、別々のところから発生していたんですよ。
 ですので、薄井さんとは宣伝会議などで途中から会うようになって、本当は設定を合わせてやった方がいいよねって話はしていたんですが……。

薄井氏:
 ゲームとアニメとホビーが同時期に展開するなら、同じような世界観で進めていくのがある意味普通じゃないですか。ただそれをやってしまうと、TVシリーズで忙しいアニメスタッフの皆さんに、ゲームの仕事が発生してしまう

 またその逆も発生する。その上アニメとゲームは互いに作り方も製作期間も違うので、今回はまずコンセプトを合わせましょうってことにしたんです。結果、お互いの良いところが磨かれるようになりました。

小川氏:
 ゲームのほうでもガンプラバトル的な、それこそ『機動戦士ガンダム vs.』シリーズの体験文化【※】はあるんですけど、やはりアニメとゲームの設定の摺合せは難しかったですね。

※『機動戦士ガンダム vs.』シリーズの体験文化
1作目は2001年稼働のアーケードゲーム『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』。ガンダムゲームの中でも特にプレイヤー同士の対戦を重視しており、アーケードコミュニティーで発展していったシリーズ。2010年稼働の『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス』以降は『エクストリームバーサス』シリーズを展開し、大会も盛んに行われている。

薄井氏:
 だから小川さんのスタジオで初めて『ビルドファイターズ』を見せてもらったときは、「なんじゃこれ!」って驚きました(笑)

『ガンダムビルドファイターズ』

 TVシリーズで初のオールガンダムでパロディもあり、自由で楽しい。でも熱いバトル描写を出すには一対一になるので、「これをゲームにするのは難しかった!」と(笑)。

──確かに、一対一の対戦ゲームにすると難しいところが出てきますよね。

薄井氏:
 どうしてもプレイするにあたって、しんどくなってしまう所が出てきますね。

小川氏:
 こっちも逆に、ゲームを見ていると「あれはできない!」って思うことがよくあります。

『Newガンダムブレイカー』ゲーム画面。自由にパーツを組み替えたり塗装することができる。

 特にパーツを自由にカスタマイズするっていうのは、アニメでは設定的にどうやってもできない。そういうお互いに得意な分野がはっきりわかった点は良かったですよね。

薄井氏:
 そう言ってはいますが、ゲーム側から結構無理を言って、ユーザーが作った機体をアニメに出してもらったんですよ。
 バンダイナムコ側が作った機体を出してもらうならまだありえそうですが、お客さんが作ったものを出したという意味では、ゲームとアニメの連動として今までにないことができたかなと思います。こんなにUGC(ユーザー生成コンテンツ)なアニメは、なかなかないと思います。