作業着に対して、どのようなイメージを持っているだろうか。「カッコ悪い」「汚そう」「身だしなみがちょっと……」といったネガティブなイメージを持つ人が多いかもしれない。そうした考えをひっくり返す作業着が登場して、話題になっていることをご存じだろうか。

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 スーツのようなデザインの「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」(上下セット:税別1万9800円~)を発売したところ、直後1カ月の売り上げは単月目標の5倍以上に。その後も売れに売れ、いまも品薄状態が続いている。

 ありそうでなかった服はどこがつくっているのか。スーツブランドでもなく、作業着メーカーでもない。マンションや水道工事メンテナンスを行うオアシスソリューションのグループ会社「オアシススタイルウェア」である。現場で培ったノウハウを生かして完成させたというが、スーツも作業着もつくったことがない会社が、どのようにして商品を開発したのか。

 もうひとつ避けて通れない話がある。スーツ型作業着を発売したところ、ネット上ではさまざまな声が飛び交った。「面白い。欲しい」「現場で着たい」といった好意的な意見があった一方で、「スーツに見せる必要があるのか」「絶妙にダサい」といった否定的なコメントも広がった。

 SNSを中心に火がついたわけだが、そのときオアシススタイルウェアはどのようなことを考えていたのか。同社の中村有沙社長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●スーツ型作業着を開発したきっかけ

土肥: 2018年3月、スーツみたいな作業着「ワークウェアスーツ」を発売したところ、売れに売れているそうですね。作業着なのにスーツに見える服ってありそうでなくて、自社で調べたところ「世界初」だそうで。マンションやビルの水道工事を行う会社なのに、なぜこのような商品を開発することになったのでしょうか?

中村: 会社の創立10周年を記念して、「職人のユニフォームをリニューアルしようよ」となりました。当時の作業着はブルゾンタイプで色はネイビー。ザ・作業着といった感じでどこにでもあるようなモノを着用していたのですが、オシャレでカッコイイ制服をつくることで、「働く意識を向上させることはできないか」「若者の採用につなげることはできないか」と考えました。

 ただ、当社は作業着をつくったことはありません。なにから手をつけていったらいいのかよく分からかったので、とりあえず作業着のカタログを見ることに。何冊か見たものの、オシャレなモノはなかったんですよね。これまで着ていたザ・作業着ばかりで、既存のモノから選ぶことができませんでした。既製品でいいモノがなければ、「じゃあ、いっそのこと自分たちでつくろうか」となりました。

土肥: ふむふむ。

中村: 次に、アイデアを出していきました。ハーフパンツがいいのではないか、ストリート系のつなぎがいいのではないかなど。ああでもない、こうでもないと言いながら議論を重ねていったのですが、理想とするカッコイイ作業着にはたどり着けませんでした。このままではいけないということで、女性開発チームを立ち上げて、彼女たちが考えることに。そこでもさまざまなアイデアが出てきて、そのなかで「仕事が終わって、そのままの服装でデートに行ける。一緒に歩きたくなるようなモノはどうか」という意見がでました。

 仕事が終わって、作業着のままでデートに行けるようなモノとは何か。デートをしている男性の服装を見ると、スーツやジャケットを着ている人が多い。「じゃあ、スーツはどうか」という話になって、つくってみることになりました。

●職人の声を聞いて、何度も改良

土肥: 繰り返しになりますが、会社は水道工事やメンテナンスなどを行っているんですよね。実際につくるとなると、いろいろな苦労があったのではないでしょうか?

中村: 職人は水回りの作業を行うので、防水、速乾、伸び縮みなどができる素材でなければいけません。また、毎日家庭の洗濯機で洗えるようなモノでなければいけません。生地サンプルは100種類以上取り寄せて、どれがいいのか吟味しました。結果、採用したのはスポーツウェア向けのモノにしたんですよね。

土肥: 一般的な作業着はゴワゴワしていて硬いといったイメージがありますが、スーツ型作業着はしなやかな感じですよね。

中村: 生地が決まったので、試作品をつくりました。ただ、改良する点がたくさんあったんですよね。例えば、職人はポケットに工具などを入れて、その状態で作業をする。ポケットに強度がなければいけないのに、試作品では弱かった。ということで、底が破れないように補強することに。

 このほかにも、さまざまな点を改良しました。しゃがんだときにストレスを感じることがないようにしたり、腕をまくりやすいそでにしたり。「スーツ型にしたことで、作業がしにくくなった」となってしまっては意味がないので、職人の声を何度も何度も聞いて、何度も何度も改良を重ねて、完成させることができました。

土肥: 職人からはどんな声がありましたか?

中村: スーツを着ているような感じになるので、「意識が変わった」といった声がたくさんありました。以前の作業着を着用していたころは、多少の寝グセが付いていても、気にせずにそのままで作業をする人がいましたが、いまは違う。ジャケットを着ているので、「身だしなみはきちんとしなければいけない」といった声が出てきました。

 研修で身だしなみを学ぶよりも、服を変えるほうが効果あるかもといった話をしていたなかで、驚くことがありました。スーツ型作業着を着ている職人の姿を見て、「なにあれは?」「どこで売っているの?」「自分たちも着たい」といった声をたくさんいただくようになりました。当初は社内用だったのですが、他社からの問い合わせがあったので、じゃあ販売してみるかとなりました。

 驚くことは、まだありました。作業着を着るのは仕事をするときなので、法人向けに販売していればいいよねと考えていたのですが、個人からの問い合わせもいただくことに。「欲しいので売ってください」「どこで買えるのですか」といった声をたくさんいただいたので、2018年3月にECサイトで発売しました。

●好意的な声がある一方で、否定的な意見も

土肥: まず法人向けに販売したということですが、どのような仕事をしている人が着ているのでしょうか?

中村: さまざまな業界で着ていただいているのですが、例えば、マンションの管理人。管理人の仕事は清掃などのほかに、住民とのコミュニケーションもとらなければいけません。作業と接客の仕事があるので、スーツ型作業着は使い勝手がいいのかもしれません。

 このほかに、建築現場の責任者が着用しているケースも多いですね。現場での作業だけでなく、取引先などとのコミュニケーションをとらなければいけないので、見た目がスーツに見える作業着は適しているのかもしれません。

土肥: 法人だけでなく、個人向けにも販売したわけですが、この話はどうしても聞かなければいけません。ECサイトで販売したところ、さまざまな声がありましたよね。

中村: 「こういうモノを待っていました」「買います。ありがとうございます」といった好意的な声がある一方で、「中途半端でカッコ悪い」「作業着をバカにしているのか」といった批判的な声もたくさんありました。

土肥: スーツ型の作業着を販売するだけで、なぜ文句が出てくるのか。ワタシもちょっと理解できなかったのですが、会社としてこういう声が出てくるのは想定していたのでしょうか?

中村: いえ、全く考えてもいませんでした。当社としては、新しい選択肢として「こういうモノをつくりました。いかがでしょうか?」といった気持ちで販売していたのですが、いろいろな声をいただきまして。

土肥: メディアで記事を書いていると、批判されることは頻繁にあるんですよね。「ドイめ、またしょーもない記事を書きやがって」といった感じで。オアシススタイルウェアは作業着を製造・販売しているわけですが、メイン事業は水回りですよね。いわゆる“炎上”には慣れていなかったのではないでしょうか?

中村: 全く経験したことがなかったので、ものすごく不安を感じました。ただ、誤解してほしくないのは、スーツ型作業着がすべての現場に適しているわけではないということ。例えば、ビルを建てるために足場を組んで……といった作業強度の高いところでは向いていないかもしれません。一方、作業強度が低くて、接客することもあるといったところでは、向いているかもしれません。

●海外ブランドとコラボできるかも

土肥: スーツ型の作業着は世界初ということですが、ちょっと意外に感じたんですよね。どこかのアパレルメーカーか作業着メーカーがすでにつくっているのかと思っていました。

中村: 現場で作業する人は作業着、事務や営業をする人はスーツといった“固定観念”があったからではないでしょうか。そこを融合させるような考えがなかったかもしれませんし、そもそも作業着をカッコよくしようという人が少なかったのかもしれません。

土肥: 失礼な話になりますが、ここまで売れるとは想像していなかったのでは?

中村: 全く想像していませんでした。繰り返しになりますが、そもそもは社内用につくりました。スーツ型作業着を着ている職人の姿を見て、「自分も着たい」「欲しい」といった声が増え、法人に、そして個人に広がったといった流れです。

土肥: ということは、次は海外? ま、さすがにそれはないですよね。

中村: いえ、実はそういった話がありまして。まだ具体的なことは言えないのですが、ニューヨークのファッションブランドとコラボするかもしれません。

土肥: えーっ!

中村: 私たちも「えーっ!」といった感じだったのですが、ファッション界の歴史を見ると、作業着発のブランドってたくさんあるんですよね。ジーンズもそもそもは作業着だったわけですし。当社の機能性と、ファッションブランドのデザイン性をうまく掛け合わせることで、これまでになかったモノを提供できればなあと。3年後にはパリコレ(パリ・コレクション)に出ることができれば!!(笑)。

土肥: ちょ、話が広がりすぎのような気もしますが、この勢いだと実現できるのではという気もする(不思議)。

 最後の質問です。スーツ型作業着のコンセプトは「デートにそのまま着て行ける」ということですが、実際に着て行って「彼女ができた」といった成功事例はあるのでしょうか?

中村: はっ、い、いまのところ、そういった話は聞いていません(汗)。

(終わり)

スーツ型作業着が売れに売れている