【元記事をASCII.jpで読む】

 パナソニックと言えば、もはや説明する必要のない日本有数のエレクトロニクス企業だ。そんな同社が今、渋谷の片隅で意欲ある若者達を巻き込んだプロジェクトを進めている。

 100BANCH(ヒャクバンチ)いうこのプロジェクトは、2018年に100周年を迎えたパナソニックが「次の100年をつくる実験区」に位置づける共創空間だ。カフェ・カンパニーやロフトワークと組んだ共同プロジェクトとして、2017年の7月にスタート。2018年7月1日~8日にかけて、この1周年を記念したイベント「ナナナナ祭」を開催した。期間中は連日セッションと、各プロジェクトの成果が展示された。ここでは注目のセッション「AIは優しくなれるか」をお届けする。

AIは優しくなれるか

 ナナナナ祭の3日目、トークセッション「AIは優しくなれるか」のテーマは、100BANCHが目指す「温かくて柔らかいテクノロジー」につながるものだ。

 登壇者はAI企業エクサウィザーズの取締役の粟生万琴氏、ロフトワーク代表の林千晶氏、ロボット開発Yoki代表の東出風馬氏。東出氏は現在、前述したアクセラレーションプログラムを利用して100BANCHを拠点に活動している。モデレーターはパナソニックのテクノロジーイノベーション本部副主幹研究長の森川幸治氏。

 まず、モデレーターの森川氏が「AIを使っているか?」と問うと、粟生氏は「スマートスピーカーは息子の友達のような存在」と話し、8歳の子どもはAIネイティブだと語った。パソコンでキーボード入力することについて「音声認識できるのに面倒くさい」と言うそうだ。

 林氏は日常的に使っている中で、AIとプログラミングの境界線がない点を指摘。自身のエピソードとして、Google Mapで経路検索し、ありえないような細い道を進むよう指示されたことを紹介。

 「人工知能になって従うことになれると考えなくなる。自分の考えを超えたもの、間違えるわけがないと思ってしまう。どのアルゴリズムで何を出したかわからないということは、信じるか信じないかしかない」と述べた。

 学生社長である東出氏は「最近のニュースは全部AIとついているが、はたしてAIなのか。あれをAIというなら僕らはAI漬けの日々を送っている」とコメント。身の回りにスマートスピーカーやチャットボット、AppleのSiriといったようにコンピューターとコミュニケーションできるものが数多くあるとした。

 これを受け、話題は音声操作に向かった。粟生氏は諸外国と比較して日本はスマホで音声操作していない点を指摘。これに林氏は日本語は認識精度に問題がある一方、子どもは「バカだね」と言いながら会話を続けていると述べた。

優しいAIの見た目

 次いでパナソニックの森川氏は、PepperとAIBO2つのロボットを例に「優しいAI」の外観について話題をふった。

 「AIBOの方がいい。PepperはSiriの頭しかないのに見た目があれでは期待してしまう。犬型のAIBOならうまくいかなくても許せる」

 そう語ったのは東出氏。自身が手がける木製ロボット「HACO」でも、饒舌に話さない方がいいと考えているという。それは外観から予想される発話レベルに関係があるようだ。

 林氏はAIBOを手がけるソニー担当者の話として、AIで犬型ロボットはつくれても、猫型はまだつくれないと紹介した。そっけなく次の行動が想像しにくい猫よりも、犬の方がつくりやすいという。

 粟生氏は「人が想像できる近しいものが優しくなるんじゃないか。Pepperは何かすごいことができそうな気がする」と話した。

AI同士がメールの返事

 このほか林氏は、何かしら形はあるにせよ、それはロボットのようなものではないのではないか、と疑問を投げかけた。

 「AIは人の気持ちに対して寄り添う。形より声や内容が重要で、形は勝手に想像させてくれるようなものがいいのかもしれない。LINEの電話で話す仲良しと、普通の電話で話すと何かが違った。使うツールにより声の伝わり方とか慣れ親しんだ間合いが違うなら、AIもプライベートで話す近さ、オフィシャルなものの距離とか、声のチューニングが変わってくるのではないか」(林氏)

 実際にロボットを開発している東出氏も「今は仮説としてロボットをつくっているが、そもそもロボットは必要なくなると考えている」と意見した。

 現状は会話するためのよりしろとして擬人化する向きもあるが、こうした支えはいずれ不用になるというわけだ。東出氏はチャットボットとのやりとりについても「文字に変換されるので向こう側に人がいるかコンピューターかは関係ないんじゃないか」と話していた。

 これに林氏は、現在Gmailアプリで返信メッセージが選択できる点について「メールによってやりとりが手紙の100倍くらいになったかもしれない。今は短文だけどAIが入ってきて、すぐにちゃんと返事ができるようになるはず。そうなるとメールの返信をAIがして、さらにその返事をAIが書くようなことになって、結局用事ってなんだったの? と電話で聞くことになるかもしれない」と述べた。

優しいってなんだ?

 最後の議題は「優しいAI」は人に何をしてくれるのか?

 林氏が「利便性のためのAIなのか、感情のためのAIなのかでずいぶん違ってきそう」と切り出した。ようするに、人が苦手な領域をAIで支援するものと、人の主観的な判断をAIがするかという話だ。

 たとえば利便性のためのAIについて。人事評価や自己評価など、バイアスをかけずに判断するのは難しい面がある。粟生氏のエクサウィザーズではHRテックにAIを導入しており、過去の採用傾向を勉強し、AIが求人エントリーの中から傾向を示すという。

 人の感情を伴う部分については、会場の参加者を巻き込んだ形で熱を帯びた議論が戦わされた。

 「そもそも、優しいってなんだろう?」

 「人は基本的に邪悪な存在で、AIが人に近づけば優しくない」

 「人はまだ、理想の人間を定義できていない」

 「主観的なことをAIに決められる怖さがある」

 「AIの優しさはペンが持ちやすい、持ちにくいのようなUIやUXの話ではないか」

 「お腹に優しいバファリン。胃が荒れやすい薬であって、優しくないからそうなる。AIもそもそも優しくないのでは」

 粟生氏はAIをつくる側として「実はAIは大したことがまだできない。知らない技術は怖いけど、日常の中にやがて溶け込んでいくんじゃないか。知って使ってつくってほしい」と意見した。

 このほか、会場から「四次元ポケットのないドラえもんがいたら、優しいAIなのかも」といった意見が出た。東出氏はこれに「そう考えるとドラえもんすごい! 四次元ポケットで解決して、存在そのものが優しい」と述べた。

 また林氏は「四次元ポケットのあるドラえもんとないドラえもん。どちらか持って帰ってよいとなれば、みんなポケットのある方を選ぶ。これが人間。一般論なら性善説でいられるけど、個人となれば別の意見があるはず」とコメント。どういうルールがいいのか議論を重ねる必要性を説いた。

ナナナナ祭の各種展示

アクセラレーションプログラム

 100BANCHでは35歳未満を対象としたアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を実施している。GARAGE Programの審査に通れば、最大3ヵ月間、100BANCHを活動拠点として利用できる。

 メンターに各分野の多彩な顔ぶれが並んでいるのも特徴だろう。たとえば、メディアアーティストの落合陽一氏や、渋谷区長の長谷部健氏、ハードウェアスタートアップの岩佐琢磨氏、モノづくりカフェ「FabCafe」などを手がけるロフトワークの林千晶氏、ベンチャーキャピタルのGCP高宮慎一氏らもその1人。

 なお7月25日まで新たなプロジェクトを募集中。現在、未来をつくる実験として、6つのキーテーマ「温故創新のコトづくり、モノづくり」「食の原点と未来」「温かくて柔らかいテクノロジー」「Diversity & Inclusion」「サスティナブル・ソサエティ」「人生100年時代の働き方、生き方」を展開している。

AIで犬型ロボットはつくれても、猫型はまだつくれない