2013年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は25年までに65歳以下の従業員の雇用を段階的に確保することが義務付けられた。だが、厚生労働省が17年に公開した「就労条件総合調査」によると、65歳以上を定年年齢としている企業は全体の17.8%にとどまっている。

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 定年を60歳とする企業がいまだに79.3%と多いビジネス界において、14年にいち早く定年を65歳に延長する「65歳定年制度」を取り入れたのがリース大手のオリックスだ。

●週5でフルタイム勤務ができる

 定年の延長は強制ではないが、この制度を選んだ社員は、週5日のフルタイムで過去の経験を生かした仕事ができる。仕事には一定の責任が伴い、全国転勤の可能性もある。ただ、退職金は60歳の時点では支払われず、65歳まで積み増しされる。役職は与えられず、給与も59歳までの50~60%に減るほか、兼業も禁止だ。

 同社はこのほか、60歳の時点でいったん退職金を支払い、嘱託などの形で再雇用する「定年再雇用制度」や、早期退職制度「ライフスタイル支援制度」も設ける。

 前者の利用者はフルタイムで働く必要はなく、兼業も許可されている。会社と合意すれば、オフィス以外の場所で働くことも可能という。後者は、自己申告した勤続10年以上の45~60歳の社員に退職金を追加支給するものだ。

 この3つの制度がそろってから4年がたったいま、オリックスの“シニア社員”の働き方はどう変わったのか。

●妻に怒られて定年延ばす人も

 人事労務関係の展示会「HR EXPO」(7月11~13日、東京ビッグサイト)で講演した同社の直井厚郎 グループ人事・総務本部副本部長によると、18年現在のオリックスでは、定年を65歳まで延ばす人が7~8割を占めており、再雇用制度と早期退職制度を使用する人はそれぞれ1割程度にとどまっているという。

 「この結果は想定外。選択肢を増やしたことで、進路はもう少しばらけると思っていた」と直井氏は驚く。

 オリックスで定年を延ばす人が増えた一因は意外なところにあったという。「60歳以降は再雇用制度で週に3回ほど働き、残りの日は趣味を楽しみたい」などと余生の過ごし方を考えていた58~59歳の男性社員の大半が、妻などの家族から叱られたためというのだ。

 「『退職金をもらった上で働く日を減らし、空いた時間はゴルフをしたい』などと笑顔で語っていた社員が、次の面談では『やっぱり定年を伸ばしてほしい』と神妙な顔で頼んでくる。経緯を聞くと『家にいてどうするの。お昼ご飯は誰が作るの。会社に行きなさいと嫁に怒られた』と口をそろえる」(直井氏、以下同)

●定年を延ばした人が活躍 “遅咲き”のケースも

 まさかの事情で定年を延ばす社員が増え、直井氏は「そもそもこの制度は、当時70代半ばだった宮内義彦元社長(現シニア・チェアマン)に『60代は若い。もっと活躍させる制度を作ってくれ』と頼まれたことを機にスタートしたのだが、主体的に選んでもらうのは難しいようだ」と嘆く。

 だが、定年の延長を決めた経緯はどうあれ、現場では、この制度の利用者が成果を出すケースが増えているという。

 「待遇を抑えたことで、定年を延ばした社員のパフォーマンスは落ちるかと想定していたが、実際は多くの人が以前と変わらない仕事ぶりを発揮してくれている」

 直井氏によると、特に活躍しやすい人材は「ITリテラシーを含めた実務能力が高い人」。59歳までは「言われたことはコツコツやるけど、物足りない」と評価されていた人が、地道な努力が実を結び、周囲から「立派な仕事ぶりだ」と称賛されるようになった“遅咲き”のケースもあるという。

 60歳以上の社員を対象としたアンケートでは、「経験や能力を生かせる」「やりがいを感じる」「職場の活力があふれている」「仕事と家庭生活のバランスがうまく取れている」「誇りを持って働ける」――といった項目が導入前から上昇し、充実度がうかがえる結果が得られているという。

●悩みながら一歩ずつ進む

 ただ、パフォーマンスが出せない社員も一定数存在するほか、アンケートでは賃金や労働条件に対する満足度が下がるなどの課題も出ている。「早期から導入した反動で、(定年の延長に対する)特別感がなくなってしまったのかもしれない」という。

 課題の解消に向けて、今後はインセンティブを設けるなど処遇を改善して活躍を引き出す案も検討中。定年前の社員が50歳以降のキャリアプランを人事と共に考え、強みや志向を再確認する機会も増やしていくという。

 「会社ではなく、仕事そのものにロイヤリティー(忠誠心)を持ってもらい、より多くの人にいい仕事をしてもらうのが人事の仕事。今後も悩みながら一歩ずつ進んでいきたい」と直井氏は力を込めた。

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