活況が続くインバウンド市場。訪日客数は過去最高を更新し続け、2018年には3000万人を突破すると予想されている。一方、この業界では以前から懸念されている問題がある。大地震や豪雨などの災害発生時、膨大な数の外国人をどう守るかだ。

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 日本語にも地理にも明るくない訪日客は災害時、日本人以上に混乱する可能性が高い。調査会社のサーベイリサーチセンター(東京都荒川区)が、大阪府北部地震が発生した6月18日に近畿圏にいた訪日外国人客約150人に行ったアンケート調査では23.7%が「言葉が分からずどこに行けばいいか分からなかった」と回答した。

 外国人を標的にしたデマも問題に。7月に西日本を襲った豪雨では、「被災地に外国人とみられる泥棒が入った」などといった悪質なうわさがSNS上で流れた。災害に加えて言葉の壁やデマにも苦しめられる訪日客をどうやって守るのか。

 今回、この問題について話を聞いたのは海外旅行のガイド本「地球の歩き方」を出版しているダイヤモンド・ビック(東京都中央区)の弓削貴久さん。同社の訪日客向けフリーマガジン「GOOD LUCK TRIP」を運営しているほか、訪日客向けメディアの業界団体「日本インバウンド・メディア・コンソーシアム」の理事長も務める。インバウンドの情報発信に長年取り組んできた弓削さんに、被災時の訪日客の守り方を語ってもらった。

●「日本語のアナウンスやテロップだけ」

――大阪府北部地震では駅や空港で立ち往生したり困惑する訪日客の姿が報道されました。サーベイリサーチセンターの調査でも、訪日客の23%が「交通機関の情報などが分からなかった」と回答しています

弓削: 今回の大阪の地震では、駅で既に新幹線が運転を再開しているのに気付かない外国人が長時間待ちぼうけになったそうです。駅員がまずボードに英語で書かれた遅延のお知らせを貼ったようですが、その後の復旧のアナウンスが日本語の音声だけだったのが良くなかったようです。

 駅の近くには観光案内所があって外国語の分かるスタッフがいたようですが、そこに訪日客は行かなかった。駅員や近くの日本人が「自分は外国語が分からないから、あそこに行って聞いて」と言えれば良かったのですが……。

 大地震の直後はWi-Fiがつながらなくなったり、電話も使えなくなることがある。日本語を使えない訪日客はどこに行けばいいか分からず、誰にも連絡が取れないため駅に殺到する可能性が高いと思います。

――同調査では、訪日客の約半数が「日本のテレビ・ラジオ」を使って避難や旅行日程の情報を得たと回答しています。一方で21.1%が「テレビなどでの地震の放送が理解できなかった」とも答えています

弓削: 大阪府北部地震の速報を報じたテレビのテロップも基本的に日本語だけでした。最低でも英語は加えるべきでしょう。テレビの災害の一斉放送も多言語でやれると良い。多言語で災害情報が表示されるサイネージも、訪日客向けに重要になってくる。

●訪日客の27%が保険に入らず入国

――言語の壁は災害時により深刻になりそうです

弓削:被災時、ツアーの団体客なら添乗員がサポートしますが個人旅行客が民泊を利用して旅行している場合、周囲は日本語しか分からない日本人だけ。それはつらい。

 そういった訪日客には事前の備えが必要です。例えば、外国人旅行者向けに観光庁の監修で作られた情報通知アプリ「Safety tips」。多言語対応で、地震や津波の速報、噴火など(災害関係で)必要そうな情報を網羅している。周囲の日本人と情報のやりとりをするための「コミュニケーションカード」機能もあります。しかし、まだまだ認知されていないので(訪日客に)知ってもらうことが必要です。

 また、旅行保険に入らずに入国する訪日客は多い。観光庁が17年12月~18年1月に空港で訪日客に行った調査では、27%が医療費をカバーする旅行保険に入っていないことが判明しています。日本は安全で大丈夫と思う人が多いからかもしれませんが、日本と訪日客の住む国の双方で加入率を上げる対策をとるべきです。

 ――今回の地震・豪雨では外国人を標的にした悪質なデマがSNS上で流れました。豪雨の被害の大きかった地域の名前を挙げ、「泥棒に入っている。日本人ではないみたい」などと書き込まれた内容がTwitter上で物議をかもしました

弓削: 1906年に米サンフランシスコを襲った大地震の際には、井戸に日本人が毒を入れたり、家に入って泥棒をしたりしたというデマが流れたそうです。日本の関東大震災の時(デマのせいで朝鮮人が日本人に虐殺された事件)と同じです。大災害が起きたとき、他国の人に対して疑心暗鬼になることは昔からあるのです。

 デマは怖く悩ましい問題です。悪ふざけ感覚で流す人もいる。単に外国人がコンビニで何か買って出てきただけなのに、目の錯覚で強盗に見えてしまうこともあり得る。心無い人は日本人にも外国人にもいます。デマが流れてしまうことはある意味、人間の真理なのかもしれない。しかし、SNSで誰が発信したかも分からない情報はやはり安易に信じてはいけないのです。

 これまでのインバウンドの取り組みは誘客促進ばかりでした。災害時の訪日客対策についても必ず行政などがすべきです。地震や豪雨は今後も必ず起きる。「日本は100%安全」とは(訪日客には)言えない。一方で災害を警戒して訪日客が減れば、困るのは私たち日本人なのです。

訪日客に人気の街、大阪。関西では地震や豪雨が相次いだ