昨夏の勇姿を記憶に留めている人も多いだろう。藤井聡太七段(15)の史上最多連勝記録を「29」で止めた佐々木勇気六段(23)である。事前に藤井七段の対局の敵状視察に赴いた姿も、勝利後に語った「重圧はありましたが、私たちの世代の意地を見せたいと思っていました」という言葉も、今もなお強い印象を残したままだ。

 持ち時間各5分、1手指すごとに5秒が加算される「フィッシャールール」を採用した将棋の超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」が進行中だ。駒を指す互いの手が交錯するほどスピーティーな展開は、既存の「将棋対局」のイメージを覆す。真夏にふさわしい疾走感あふれるエンターテイメントである。


 7月15日から放送が始まる予選Cブロックに登場し、本戦トーナメントへの2枠を争うのは佐々木六段、阿久津主税八段(36)、永瀬拓矢七段(25)、高見泰地叡王(25)の4人。佐々木六段は永瀬七段と1回戦を戦う。小学生時代からライバルとして切磋琢磨を重ねて来た2人。宿敵が歳月を経て再び激突するのは、将棋界ならではの構図だ。少年の頃の両者を想像しながら勝負を見守るのも一興だろう。


 早指し棋戦では2013年の加古川青流戦(持ち時間各1時間)優勝の経験を持つ。各棋戦でも安定した活躍を続けるが、特筆すべきは昨年度の将棋大賞で優れた新手・新構想・新戦法に与えられる升田幸三賞を弱冠23歳にして受賞したことだ。佐々木六段が創案した「横歩取り勇気流」は瞬く間に棋界を席巻し、新定跡となって対策と改良が繰り返されている。本棋戦でも佐々木六段の先手で横歩取りの進行になり、玉が「6八」の地点に設置されたら「おお、これか!!」と高揚していただきたい。


 爽やかなルックスで最新流行型に精通した独創家でありながら、どこか天然かつ昭和的な横顔を併せ持っている。昨年の「将棋年鑑」のアンケート欄で「一生お金に困らないとしたら」との質問事項に対し「100万円分の花束を買う」と答えたロマンティスト。将棋連盟フットサル部では、棋風とも重なる攻撃的なプレースタイルで、ゴールするために前線に居座り続け、渡辺明棋王から「(佐々木のブルーのユニフォームを指し)青いの!」と注意された逸話もある。


 同じCブロックの高見叡王は同門の石田門下で同世代。盟友が一気に頂点へと駆け上がり、タイトルホルダーになったことは「刺激」という2文字で語るには軽すぎる何かを佐々木六段に与えている。そのような背景もあるせいか、本棋戦に臨む23歳の表情は正直怖い。瞳の中では炎が揺れている。彼は燃えているのだ。オレもいるんだ、と叫ぶために。


◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。

(C)AbemaTV

▶7/15(日)20:00~ AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 予選Cブロック-1