『セックス依存症になりました。』作者対談シリーズ第三回目は、精神科医・和田秀樹氏。和田氏自身が監督を務めた映画『私は絶対許さない』をもとに、日本社会と依存症について語りつくす
『セックス依存症になりました。』作者対談シリーズ第三回目は、精神科医・和田秀樹氏。和田氏自身が監督を務めた映画『私は絶対許さない』をもとに、日本社会と依存症について語りつくす

現在『週プレNEWS』で連載中の漫画『セックス依存症になりました。』。本作がデビュー作となる漫画家・津島隆太氏が自身の実体験をベースに、性依存症の実態、そして克服への道のりを描く異色作が反響を呼んでいる。

本連載と並行して、週プレNEWSでは、さまざまな依存症や性問題の専門家×津島先生による対談企画を実施。第弾となる今回は、映画監督としても話題作を世に送り出している精神科医・和田秀樹氏との対談が実現。性被害者の壮絶な実話を基にした映画『私は絶対許さない』でメガホンを取った和田氏との対話で見えてくる、性問題と現代社会との関係性とは。

* * *

津島 和田先生の映画『私は絶対許さない』(雪村葉子氏による同名著書の映像化作品。雪村氏自身のレイプ被害体験を軸に、性被害者の"その後"を主観映像を多用して描く。2018年、第5回ノイダ国際映画祭・審査員特別賞受賞 ニース国際映画祭脚本賞受賞)拝見しました。この衝撃的な作品を映画化されたきっかけについて教えてください。

和田 性被害をテーマに扱った作品って、性被害者の描かれ方が画一的なんです。例えばレイプに遭った影響で男性不信に陥ったり、PTSDによるフラッシュバックに苦しめられたり、といったステレオタイプな表現が多いんですね。

もちろんそういったケースもゼロではないのですが、性犯罪における大きな問題は「被害者の(それまで構成してきた人格の)"時間の連続性"が断ち切られてしまう」ということ。女性の性被害者によく見られるのですが、レイプを受けたことで、これまでの自分が"汚された"と悲観してしまい、(映画の主人公である)雪村さんのように風俗業界やAV業界に飛び込むというケースがままある。そういった、性被害のほとんど知られていない側面を啓蒙(けいもう)するという意味も込めて撮ったのが本作です。

津島 冒頭部分のレイプシーンが主人公目線で撮影されていて、見るのが非常にツラかったです。というのも、私自身が性依存症だと気づく前は、合意の上とはいえさまざまな女性と過激な性行為を繰り返していたこともあり、「自分も相手女性から見たら"加害者"だったのではないか?」という自責の念が湧(わ)いてきたんです。

和田 なるほど。いろいろな要因があると思いますが、津島先生は性依存症になってしまった大きな要因として何があると考えられていますか?

津島 父親がアルコール依存症だったんです。それも、酔ってささいなことでも暴力を振るうタイプ。幼少の頃は、食事の際に箸を落としただけで殴られ、両手両足を縛られ押入れに何時間も閉じ込められたこともあります。といっても、それが「虐待」だと気づいたのはごく最近、性依存症の治療を受けてから。それまでは「あれぐらい、しつけの範疇(はんちゅう)なのかな」と感じていました。

和田 それはツラかったでしょうし、お父さんの行為の異常性に気がつけたことはよかったですね。虐待行為が、雪村さんのレイプのように"人格の連続性が断ち切られた"大きなポイントかもしれません。

津島 加えて、幼少期なので記憶がはっきりしていないのですが、父に風呂場で性的な暴行を受けていた覚えもあります(『セックス依存症になりました。』第11話)。ですから、レイプによって雪村さんの人生が歪(ゆが)んでいくさまは非常に共感しました。でも、私がそういった虐待から性依存症になったり、雪村さんがレイプ被害を受けたにもかかわらず性産業である風俗で働く、というのは、なかなか一般の人には理解されづらい行動だというのも一方でわかります。

和田 レイプによって"生きている時間の連続性が断たれた"結果、雪村さんのように性産業に自ら身を投じ、そのなかでしか生きられなくなってしまう人も多い。そして、"性犯罪により連続性が断たれるケースが存在する"ということが理解されていないと、「風俗嬢なんてやってるんだから、レイプされても当然だ」という誤った偏見が生まれてしまう。これも大きな問題ですよね。

似たようなところで、昨今話題の「AV強要問題」も根っこは共通しているパターンがあるのではないでしょうか。「AV強要といっても、その後何本もAVに出演しているじゃないか。本当に強要されたのか?」という意見がありますが、"最初のAV出演"がある意味レイプのようなモノだと考えれば、そこでその女性の人格の連続性が断たれてしまっているわけですから。

津島氏は、『セックス依存症になりました。』の連載内で、
津島氏は、『セックス依存症になりました。』の連載内で、

―性依存症患者の人が、いわゆる世間一般のイメージである"精力絶倫の色黒筋肉質男性"とはかけ離れているように、性被害に遭われた方のタイプや行動も千差万別なんですね。

和田 それを訴えたくて、今回主人公の主観映像をメインに映画を撮りました。「啓蒙」や「周知」が大きな目的であるところは、津島先生の漫画『セックス依存症になりました。』と共通するところがあるかもしれないですね。

―劇中、主人公はレイプそのものだけではなく、性被害を訴えられない閉鎖的な社会、あるいは性被害者が糾弾されるといった「セカンドレイプ」にも苦しめられています。現実の社会でも、とりわけネット上における性被害者へのバッシングは見るに堪えないものがありますが。

和田 日本という国は、本来、性に対して寛容な国民性だったはずなんです。それが明治維新の際、「性に対して大らかなのは先進国的ではない」という考えのもと、当時入ってきたキリスト教文化と融合して過度に性をタブー視する文化が出来上がってしまった。日本で性犯罪が起きると、「被害者にも落ち度があったんだろう」という意見が必ず見られますが、これも「性=悪」という凝り固まった思想の影響が大きい。

興味深いのは、本家キリスト教文化の欧米では、著名人が性依存症を告白したり、性被害に遭ったことを訴えて状況を改善しようとする流れが起こっている点。欧米でそういった風潮が起こっているのに、なぜ本来キリスト教文化ではない日本で性犯罪を公(おおやけ)に語ることができないのかといえば、それは日本の「性=悪」文化が本家ではない"輸入モノ"だからと私は考えています。

人間って、自分たちがイチからつくった文化の中だとフレキシブルに考えを変えられるんですが、あえて外から導入した"他人の考え方"を改めるという行為は意外と難しいんですよね。

津島 映画のラストでは、SM嬢と看護師を両立させながら力強く生きている雪村さんの姿が描かれています。この姿には希望をもらえましたし、同じような感想を抱く性被害者の方や性依存症患者の人も多いと思います。

和田 もちろん、現実の雪村さんの傷がすべて癒(い)えたとは思っていません。しかし、ラストに希望の光を描きたいなとは常々考えていました。とはいえ、大きな映画館で何ヵ月も全国ロードショーをやっているわけでもないし、"周知の難しさ"といった問題は切に感じますね。

***

7月18日(金)更新予定の後編では、依存症を告白しにくい日本社会について分析していきます。

『セックス依存症になりました。』全話公開中!!!

●和田秀樹氏おすすめの本

『感情的にならない気持ちの整理術 ハンディ版』 著者:和田秀樹 定価:1404円(税込)出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
『感情的にならない気持ちの整理術 ハンディ版』 著者:和田秀樹 定価:1404円(税込)出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

和田秀樹わだ・ひでき

1960年生まれ、大阪府出身。精神科医、受験アドバイザー、映画監督。東京大学医学部卒業。 国際医療福祉大学心理学科教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田塾MEDS塾長、和田秀樹こころと体のクリニック院長。映画監督作品に『私は絶対許さない』『受験のシンデレラ』『「わたし」の人生』。

津島隆太つしま・りゅうた

年齢、出身地ともに非公表。長く漫画アシスタントを務め、4月13日(金)より自らの経験を描いた『セックス依存症になりました。』で連載デビュー。

取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜

漫画『セックス依存症になりました。』作者対談3回目は、精神科医・和田秀樹さんと