ヶ関に突如現れた塗り広告。その企画意図は?

ケンリックラマーのセンセーショナルな広告が、突如東京メトロ国会議事堂前駅ヶ関に出現した。

的文書のようなに書かれた文字く塗りつぶし、その上にはケンリックラマーの最新アルバムタイトルである『DAMN.』の文字、そしてケンリックサインが記されている。

日本に住む私たちには見覚えのある塗り文書。広告は全部で8種類あるが、塗りつぶされた文面をよくよく見ると、森友・加計問題を巡って自治体表した文書、そしてパワハラ告発に対してレスリング協会が出した見解文書をパロディーしているようだ。

これまでも自身の音楽を通して、社会的・政治的なメッセージを発信してきたケンリックラマー。不都合なものを隠す塗りの文書の上に「DAMN.(クソが!)」の文字が重ねられたこの広告にはどんなねらいがあるのだろうか。

広告企画者はCINRA.NETの取材に対して次のように明かす。

ケンリックラマーは世界で初めてラッパーとして『ピュリツァー賞』を受賞したことからもわかるように、今日世界において、音楽という観点のみならず政治的・社会的にも重要なメッセージを発信し続けている人物です。彼の現在世界における重要さを日本の皆様に理解してもらうために、政治的・社会的に重要な問題へのアプローチ広告にしました」

現在日本社会を大きく揺るがしている、いわゆる『塗り文書』などに関する文書のパロディーグラフィック製作し、その塗り部分に彼の代表作である『DAMN.』(クソが!)の文字を重ねる企画になっています」。

また「塗り」を採用したことについては「本来は何かを暴くため、抵抗するため、を挙げるためのである『』のが、何かを隠蔽するため、抑圧するため、を押し殺すために使われる日本社会への皮メッセージになればいいと考えました」。

■最新アルバムDAMN.』でヒップホップアーティスト初の『ピュリツァー賞』

2017年に発表された『DAMN.』は、昨年アメリカで年間売上チャート1位を獲得した、ケンリックラマーの4枚スタジオアルバム

今年発表された『グラミー賞』では5部門を受賞し、U2のボノ、The Edgeコメディアンのデイヴ・シャペルをフィーチャーした授賞式での圧巻のパフォーマンスも記憶に新しい。

4月には『DAMN.』でヒップホップアーティスト初となる『ピュリツァー賞』を受賞。クラシックジャズミュージシャン以外が『ピュリツァー賞』音楽部門を受賞したのも、同部門が設立された1943年以来初という快挙だった。

ケンリックラマーは『DAMN.』について「(前作)『To Pimp a Butterfly』では世界を変える事や、物事に対してどう取り組み立ち向かっていくか、というアイディアを提案したんだ。今回『DAMN.』では、自分自身が変わらないと世界を変える事はできない、という考えを提示したんだ」と述べている。

社会的・政治的な問題意識が込められた作品群

犯罪率や貧困率の高く、アメリカで最も危険な地域とも言われるカリフォルニア州コンプトンで生まれ育ったケンリックラマー。自身の内面に抱える葛や、貧困人種差別、マイノリティーに対する社会理解への抵抗を音楽に込めてきた。

2012年メジャーデビューアルバムGood Kid M.a.a.D City』では、自身の体験をもとに、ギャングの抗争や暴力が蔓延し、貧困に苦しむコンプトンでの厳しい現実が表現されている。

続く、2015年アルバム『To Pimp a Butterfly』の収録曲“Alright”は、人警官による人の少年レイヴォン・マーティン射殺事件に端を発する「Black Lives Matter」のアンセムとも言われ、警察に対する抗議デモリリックがシュプレヒコールとして使われるなど、人に対する暴力差別に抵抗する人々の共感を集めた。

同作に収録された“How Much A Dollar Cost ft. James Fauntleroy and Ronald Isley”を2015年の「今年のベスト曲」として挙げた当時のバラク・オバマ大統領は、ホワイトハウスケンリックを招いている。オバマへのリスペクトを表明しているケンリックは、オバマと初対面した時のことを「まるで彼の本当の友達のような気分だった」と振り返っている。

またケンリックは最新作『DAMN.』のリリース後である今年2月社会とも言える話題を呼んだマーベル映画ブラックパンサー』のインスパイアアルバムBlack Panther: The Album』を発表。マーベル・スタジオ初のヒーロー作品を音楽サポートした。

まもなく『FUJI ROCK FESTIVAL』で来日

ケンリックラマーは今年『FUJI ROCK FESTIVAL』に5年ぶりに出演する。2日となる7月28日GREEN STAGEに登場し、ヘッドライナーを務める。

あと2週間となった来日を前にして、日本の権徴とも言える機関がひしめく国会議事堂前駅ヶ関に現れた塗り広告。掲出は本日7月13日から7月19日までの期間限定となる。

先の企画担当者は、「ブラックパワーを代表する極めて重要な人物が今、存在していること、そしてもうすぐ来日することを認知してほしい。そして、彼の生き様や音楽、言葉を通じて、社会に対して何かをあげる、く塗りつぶされたものにきちんとを向ける、そんな精性が少しでもこのに広がるきっかけになるといいと考えます」とる。

ヶ関に通勤する人々にこのメッセージはどう映るのだろうか。そしてアメリカに負けず劣らず政権の疑惑や不祥事、様々な差別など多くの社会問題を抱える日本ケンリックはどのようなステージを見せてくれるのか。心してに焼き付けたい。

最後にケンリック音楽を追ってきた音楽ライター渡辺志保氏、慶應義塾大学教授も務める大和田俊之氏の言葉を紹介する。

渡辺志保のコメント
個人の環境やストラグル(葛)をラップに乗せて表現してきたアーティストケンリックラマーは、それと同じくらい、現代社会における問題提議や人種問題に基づく思想についても、ビートに乗せ伝えてきた。今や彼は現代のブラックパワー徴であり、世界中の若者を惹きつけ鼓舞するカリスマでもある。ケンリック2017年に発表したアルバムDAMN.』でジャーナリズムにおける最も権威ある賞、ピューリッツァー賞を獲得したということは、社会的にもそのパワーを見過ごせなくなったということであろう。自分の言葉で、自分の内面を表現すること。社会と個人を切り離さず、より良い環境を作り上げていくには何が必要なのかということ。冷静に現代社会を見つめ、批判を恐れないこと。今回を機会に、一人のラッパーが紡ぐ思いやを感じ取ってもらうとともに、こんなアーティストがいるのだ、ということも知ってもらいたい。

大和田俊之のコメント
ケンリックラマーは、現代アメリカにおけるもっとも重要な<>である。その畳み掛けるようなフローから繰り出される「ことば」は、奴隷制からハーレムルネサンスを経てブラックライヴズ・マターにいたるアフリカアメリカ人の歴史を体現し、変幻自在にペルソナを変えてられるポリフニックな(多的な)ストーリーにはフィリス・ホイートリーからラルフエリスン、トニ・モリスンへと連なる文学のレトリックを聴き取ることができる。 ヒップホップという技芸の可性を最大限に引き出すケンリックラマーのラップは排外義が強まる世界において、ますますめられるようになるだろう。 なぜなら、詩人が常にそうであるように、そのリリックアメリカのマイノリティーの言葉を引き継ぐと同時に、未来世界をふちどる「予言」でもあるからだ。

国会議事堂前駅、霞ヶ関駅に掲出されたケンドリック・ラマーの広告