心身ともに不調が表れる夏バテ。涼しくなるまでの辛抱……と我慢してしまいがちだが、放置したがため、命に関わる大病を患うこともある。そんな“キラー夏バテ”のメカニズムとは!?

◆夏バテで自律神経に異常が発生。脳卒中や心筋梗塞の危険が増大

 連日猛暑が続いている今夏。すでにすっかり夏バテ気味という人も多いのではないだろうか? そんな夏バテも毎年のこととなれば「涼しくなれば大丈夫」と気楽に構えがちだが、たかが夏バテと侮ることなかれ。実際に熱中症と夏バテの合わせ技で倒れてしまい、死にかけたという報告もある。休日のバイクツーリングが趣味だという生方大輔さん(仮名・42歳・映像制作)の例を見てみよう。

「友人と軽く酒を飲んでいたら、店を出た途端に倒れてしまったんです。声をかけられても、返事することすらできませんでした。救急車を呼んでもらい、精密検査をすると、結果は軽度の脳卒中。普段は内勤なのでほとんど日光に当たらないのですが、その日は昼間バイクに乗っていたんです。いつの間にかダメージが蓄積していて、そこに酒が加わって倒れました」

 営業の外回りなど、長時間日に当たることが多いサラリーマンにとっては他人事ではない話だ。軽い疲れだからと放置しておくと、手遅れにもなりかねない。

 東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏は、「夏バテを放っておくと、心筋梗塞や脳卒中、突然死などのリスクを高めることになりかねません」と説明する。そのメカニズムは次のとおりだ。

「夏バテは医学的に定義づけされているものではありませんが、一般的には夏場に疲労が蓄積した状態。暑さ、寒暖差、紫外線が原因で自律神経が正常に働かなくなる状態が夏バテです」

◆自律神経の機能低下が夏バテを引き起こす

 自律神経は体温や血圧のコントロールから心肺機能、消化機能まで体のあらゆる働きを司るいわば司令塔。夏になるとその自律神経が働きすぎて疲れてしまい、体の怠さ・食欲の減退などの夏バテ症状が出るというわけだ。

「現代社会は寒いぐらいにエアコンの効いた室内と、35℃以上の屋外を盛んに出入りするなど、自然界では考えられない状態が多く、人の体はこうした状況に対応するようにできていない。過酷な状況に自律神経が疲れてしまうんです」

 自律神経の機能低下はヤル気の減退も引き起こすが、これも実は危険な徴候なんだとか。

「意欲が高まると活発に活動してしまい、結果として自律神経を酷使する。それを避けるために意欲が減退する仕組みです。実際には意欲減退の前に“飽きやすい”という症状が出る。飽きは疲れのファーストサイン。好きなことにも集中できなくなったら夏バテの兆候だと思うべきでしょうね」

 ただ、ヤル気の減退程度で済めばまだマシ。夏バテ状態を解消せずに放っておけば、より悲惨な状況も招きかねない。

「自律神経で対処できなくなると、体は内分泌系の機能に頼ります。するとステロイドホルモンを分泌するんですが、これがくせもので糖尿病リスクを高めてしまう。放置すると生活習慣病のリスクも高まりますし、脳卒中や心筋梗塞の可能性も高くなってしまいます」

 大病にもつながりかねない夏バテだが、梶本氏はこの季節に急増する熱中症も「自律神経の不調が原因のひとつ」と語る。昨年の5~9月、熱中症で救急搬送された人数は5万2984人。この数字は一昨年と比べると2572人増えている。さらに、熱中症=高齢者というイメージもあるが、18歳以上65歳未満の成人も約35.6%とかなり多い。熱中症に詳しい横浜国立大学の田中英登教授は、「働き盛りだからと安心していては非常に危ない」と語る。

「ひとくちに熱中症と言っても、原因や症状で熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます。熱失神は一過性の血圧低下、熱けいれんは塩分不足、熱疲労は高体温や水分不足が原因。これらが組み合わさって熱射病になれば、命の危険もあります。軽い熱中症でも夏バテと組み合わさると危険な状況になることもあるので、この季節は特に注意すべきですね」

◆現役世代でも高い熱中症や夏バテのリスク

 蓄積された夏バテと熱中症、そして酒の組み合わせで死の淵に……。前出の生方さんなどは“キラー夏バテ”を地でいく例だが、こうした症状を防ぐためにはどうすればいいのだろうか?

「熱中症で言えば、体への熱負荷がポイント。日射が非常に強い屋外はもちろん、閉め切った屋内でエアコンを使っていない状況でも起きやすい。気温だけでなく湿度も重要で、湿度が10%高くなれば気温2℃上昇と同じ程度の熱負荷がかかります」(前出・田中氏)

 となれば、当然有効なのはエアコンだ。いまだに「エアコンをつけて寝るのはNG」という風潮もあるが、前出の梶本氏は「100%間違い」と断言する。

「エアコンをつけずに寝て夜中に暑さで寝汗をかいて目が覚める。これは最悪です。本来、睡眠を取ることで自律神経を休めますが、寝汗をかくということは自律神経が全然休めていない。自律神経の機能が回復せず、夏バテの症状を加速させてしまうんです」

 しかし、そんな便利なエアコンも使い方を誤るとリスクも生まれる。田中氏は次のように話す。

「冷えすぎはやはりよくないですし、気流を直接肌に浴び続けると脱水症状になる可能性も。お酒を飲んだ夜などは特に危険です。扇風機などで間接気流をつくり、エアコンが苦手な人はタイマーも活用を。また、冷感スプレーは体温を下げずに涼しさを感じさせてくれますが、外出前に使うと体温調整機能を失い非常に危険。使用は外から戻ったときにしましょう」

 また、トレーニングをして体力づくりをするのも夏バテ対策には有効。ジムやサウナなどで汗をかきやすい体質にすることが自律神経の働きにも効果的なのだ。

「ただ、オーバーワークには注意してください。翌日にも疲れが残るようだとそれはやりすぎ。ヤル気の減退などは体からの“休め”というサインですから、夏バテを感じたら素直に休むことが一番効果的なんです」(梶本氏)

 夏は仕事だけでなく休日も活動的という人は多い。だが、疲れを押しての活動は夏バテの加速につながる。梶本氏は「自律神経の機能は年齢とともに低下し、40代は10代の半分以下」と話す。

 若い頃と同じ感覚で夏をエンジョイしていては自律神経の疲れが抜けず、“キラー夏バテ”のリスクが増してしまうというわけだ。

《キラー夏バテの危険サイン!》

1 ヤル気が出ず、飽きっぽくなる
 普段好きなゲームで遊んでも、なぜかすぐに飽きてしまう……。そんな“飽きやすさ”は疲労、そして夏バテの兆候のひとつ。何をする気も起きなくなれば、いよいよ本格的な夏バテだ。早めに休養を

2 寝汗が止まらず、暑さで目が覚める
 睡眠中は自律神経を休ませる貴重な時間。にもかかわらず、暑くて寝汗をかいていては休むどころか自律神経は活発に活動中だ。自律神経が睡眠によって休んで回復しなければ、夏バテは加速する一方

3 寝つくためにお酒を飲んでしまう
 アルコールは自律神経を麻痺させる効果を持つ。一時的には眠くなるが、分解されるとむしろ目覚めやすくなり、熟睡ができないどころかかえって疲れが溜まるだけになるので夏の寝酒は避けるべし

4 エアコンの風を肌に当ててしまう
 冷気を肌に直接当てると低体温の原因に。さらに脱水症状も招きかねない。エアコンを付けて寝る際は、風が直接肌に当たらないように気をつけて、室内に風が回るように配慮する工夫が必要だ

5 外出する前に冷感スプレーを使う
冷感スプレーでは実際の体温は下がらない。暑い屋外への外出前に使うと“体温は上がるが体感温度は低いので体の体温調整機能が働かない”という事態を招き、熱中症のリスクを高めてしまう

【梶本修身氏】
大阪市立大学医学部疲労医学講座特任教授、東京疲労・睡眠クリニック院長。『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)など著書多数。メディアでも活躍中

【田中英登氏】
横浜国立大学教育学部教授。体温調節機構や熱中症予防などの専門家。主な著書に『知って防ごう熱中症』(少年写真新聞社)、『熱中症』(汐文社)など

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