愛媛県では大雨により増水したダムから大量の放流をしたことが、下流にある肱川の氾濫につながった。行政側は「ダムがなければさらに被害は拡大していた」と説明するが、被災住民からは「事前の説明がない」と憤る声が上がる。情報周知に課題を残した。

 鹿野川ダムのある大洲市。ダムから約1.5キロ下流で料理店を営む岩田美保子さん(59)は7日午前7時ごろ、スピーカーから「放流します。川岸に近づかないで」と流れるのを聞いた。放流はいつものことで普段通り過ごしていたが、約1時間後に川からあふれた水が自宅に迫り、慌てて高台に逃げて助かった。「一気に何千トンも流す時はもっと分かるように言って」と憤る。

 さらに上流の西予市野村町には野村ダムがある。7日被災した同地区の男性(77)は「朝の時点では何も聞かなかった。いっぺんに放流するからこんな事態になる」。障害のあるおじが浸水した家に取り残されたという女性(53)は「警報を鳴らしても分からない人や聞こえない人がいることも考えて」と訴えた。

 何が起きていたのか。二つのダムを管理する国土交通省四国地方整備局によると、鹿野川ダムではこの日、放置すれば決壊する恐れもあったことから、流入量とほぼ同じ量を下流に流す緊急操作を午前7時35分に実施。最大で、安全基準の6倍を超える1秒間に約3700トンの水を放流した。

 野村ダムでも午前6時20分から同様の操作を行った。担当者は「放流量を増やすことで川の氾濫は予測できたが、避難を促すのは市の役割。洪水被害の直接の原因は想定外の豪雨だ」と話す。

 野村ダムを抱える西予市は午前5時すぎ、防災行政無線で住民に避難指示を発令。その後も複数回行い、避難誘導もしたという。担当者は「最大限の対応はした」と強調する。

 一方で、国交省が大洲市の住民向けに緊急速報メールで「河川氾濫の恐れ」と配信したのは、大量放流開始後の午前8時40分だった。

 愛媛大防災情報研究センターの矢田部龍一教授は「ダム放流による洪水災害は、住民が自分のことだと認識しているかが問題。流域の学校での防災教育など積極的な取り組みが必要だ。的確な情報発信や伝達に関し、いま一度検討する必要がある」と語った。 

〔写真説明〕豪雨による大量の水が流入し、安全基準の6倍超を放流した鹿野川ダム=11日午前、愛媛県大洲市

〔写真説明〕鹿野川ダムの放流による肱川の増水危険を伝える看板。後方には豪雨による増水の衝撃で崩落した青い橋が見える=11日、愛媛県大洲市

豪雨による大量の水が流入し、安全基準の6倍超を放流した鹿野川ダム=11日午前、愛媛県大洲市