正体不明のグラフィティアーティスト、バンクシーと、その作品がもたらす影響力に迫るドキュメンタリー「バンクシーを盗んだ男」を手がけた新鋭マルコ・プロゼルピオ監督が、作品を製作した意図を語った。

世界から熱視線を浴びる覆面アーティストであるバンクシーの人物像のみならず、数千万円~1億円という超高額で取引される作品にまつわるドラマに迫った本作。舞台は、紛争地区に指定されているパレスチナ・ヨルダン西岸地区にあるベツレヘムの"分離壁"。その壁にバンクシーが「ロバと兵士」を描いたことからパレスチナで反感を呼び、怒った地元住民が壁面を切り取ってオークションへかけてしまう。音楽界のカリスマ、イギー・ポップがナレーションを務める。

プロゼルピオ監督は、「数年前にパレスチナに行って、街の状況を自分の目で見たときにアイデアが浮かんだ。まず1番に、問題を壁で囲えば解決したことになるような世界には住みたくない、と思ったことを覚えているよ。パレスチナにある何かを撮影したいと思った。撮りたいものは分からなかったけれど、パレスチナの人たちを犠牲者としてではなく、人間として撮りたい、というのは自分のなかで決まっていたんだ」と"発端"を語る。あくまでバンクシーではなく、パレスチナの人々を描くことを念頭においていたというから驚きだ。

そんなプロゼルピオ監督をバンクシーへと向かわせたのが、劇中にも登場するタクシー運転手ワリド・ザ・ビーストとの出会い。「ワリドに会ってすぐ、自分の頭のなかにあることを形にする最高のチャンスだと思った。彼は分離壁に描かれたバンクシーの作品を盗んだグループの一員であり、その中の1つをeBayに出品したんだ」とワリドの強烈なエピソードにひかれたプロゼルピオ監督は、作品の中心にバンクシーを据え、パレスチナの人々の姿を描くと共に、「壁に描かれた絵は誰のものなのか?」という深遠なテーマにも果敢に切り込んだ。

「このドキュメンタリー映画に最も関係しているのは、壁に作品を描くという行為だ。最近は、退屈で当たり障りのない、無意味な行為になってきていて、インテリアのカタログやファッションアイテムにも少し似ている。でも、僕がこのドキュメンタリーで取り上げたのはそういう種類のアートじゃない。周囲の人たちに自分の意志を表現するために、違法だけど壁に絵を描くという、ストリートアートの本来の欲求を撮影したかった。ストリートアートのルールを決めるのは、アーティストや学芸員、専門家たちだけど、そのルール自体は一般の人を含むすべての人のものだと思っている」。そう語ったプロゼルビオ監督は、「バンクシーは賢いと思う。彼のアートよりも行動や考え方、ホテルをパレスチナに建てる、など、バンクシーにしかできない"大胆な"ことを気に入っているよ」とバンクシーに称賛の言葉を贈る。

本作で長編映画監督デビューを果たしたプロゼルビオ監督は、最後に、観客に向かって「『パンクシーを盗んだ男』を見た後映画館を出るときに、僕らが住む世界のことを考えてみてほしい。この作品は、地球に存在する、異なる世界と考え方とを結びつけようとしているんだ!」と呼びかけた。

「バンクシーを盗んだ男」は、8月4日から全国で順次公開。

本作で長編映画監督デビュー