「Fate/Grand Order」(FGO)というスマートフォンゲームが、開発元のディライトワークス、発売元のアニプレックスに莫大な利益をもたらしています。FGOは2015年に日本国内で配信がスタートし、18年7月現在、1300万ダウンロードを突破するほどのヒット作に成長。ディライトワークスの16年8月~17年7月の純利益は45億9000万円(前年比3倍)、アニプレックスの17年4月~18年3月の純利益は345億円(同2倍)と大幅な増益でした。

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 筆者の私も、FGOを楽しんでいるマスター(プレイヤー)の1人。自分が“割った”聖晶石(課金アイテムを使用)が、この数字の一部になっているのだと思うと、感慨深いものがありますね、ええ……。FGOでは、希少なキャラクターを入手するために有料ガチャを利用する必要がありますが、それは他のスマホゲームでも同じはず。なぜ、FGOのガチャは多くのマスターを魅了しているのでしょうか。

 新規事業やサービスの立ち上げを経験してきた筆者が、マスターの1人としてFGOのガチャはなぜ“よく回る”のかを考察します。

●無料で十分楽しめるのに“よく回る”FGOのガチャ

 FGOは、ゲームブランド「TYPE-MOON」の作品「Fate/stay night」(2004年発売)を基にしたスマホゲームです。プレイヤーは、歴史上の偉人や神話の登場人物といった「英霊」をサーヴァントとして従え、世界を旅します。そんな200種類以上いるサーヴァントの中には、有料ガチャでしか入手できないキャラもいます。

 ガチャというと「プレイヤーの射幸心を煽る」というイメージを抱きますが、FGOの場合は、多少の演出などはあるものの、そこまで強烈ではありません。

 具体的には(1)ランキング制やギルド戦のように、他のプレイヤーと競い合う機会がさほどなく、昔ながらのRPGのように基本的には1人で一本道のストーリーを進めていくゲーム設計になっている、(2)聖晶石を購入すれば、希少なサーヴァントを入手したり、待ち時間を短縮したりできるが、そこまで影響が大きいわけではなく、無料の「配布サーヴァント」や、多少の待ち時間を我慢すれば楽しめる――といった点が挙げられます。

 これらには、Fateシリーズの生みの親で、FGOのシナリオを担当している奈須きのこ氏がリリース当初に掲げていた、「100万人に届くFate」という開発コンセプトが反映されているのかもしれません。

 それなのに、言ってしまえば“イラスト”欲しさにガチャを回すプレイヤーが(全体の比率は少なくとも)絶対数としてたくさんいるのはなぜでしょうか。

●“安室奈美恵”も“安室透”もしのぐ? サーヴァントの魔力

 FGOに登場するサーヴァントは、TYPE-MOONの代表である武内崇氏をはじめとしたイラストレーターが生み出すかわいい(もしくは格好いい)イラストや、人気声優によるキャラクターボイスといった要素が魅力です。しかし、それだけではガチャを積極的に回す動機にはならない気がします。

 なぜなら、レッドオーシャンと化したスマホゲーム業界では、それだけでは差別要因とはなりづらいためです。では、FGOならではの魅力とは何なのか。もちろんさまざまな要素が絡んでくるとは思いますが、今回はキャラへの愛着という視点で、下記の理由を挙げてみました。

(1)骨太で魅力的なストーリーに裏打ちされたキャラクター

 ご存じの方も多いと思いますが、FGOのベースになったFate/stay nightは、成人向けゲームでした。にもかかわらず、後にネット上で“Fateは文学”という言葉が生まれるほど、作り込まれた物語やキャラの魅力は、当時から熱狂的なファンを生み出していました。TYPE-MOONは、Fateシリーズ以外にも「空の境界」や「月姫」といった作品でファンの支持を獲得しており、長年培われた物語を構築するノウハウは、FGOでも存分に発揮されています。

 最近はやりの攻略手順を定めない「オープンワールド」のゲームとは違う、昔ながらの一本道のゲームは丁寧に構築できれば、受け手の個別キャラクターへの思い入れを大きくできる魅力があります。例えば「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」の花嫁選びに真剣に悩んだり、「ファイナルファンタジーIV」のパロムとポロムの石化に胸を熱くした人も多いのではないでしょうか。そうしたキャラへの熱量が、ガチャに注がれる感覚です。

(2)相性バトルによるインフレ防止、時間のかかる育成で思い入れが増大

 Fateの作品設定の面白い点に、召喚に応じるサーヴァントがセイバー(剣)やアーチャー(弓)、ランサー(槍)といったクラスに分かれて戦うということがあります。各クラス自体に強弱はなく、例えば、剣は槍に強いが弓に弱い、弓は剣に強いが槍に弱い、槍は弓に強いが剣に弱い――といった相性が存在します。これにより、バトルをメインにしたゲームにありがちな、「後から登場するキャラは強くなければならない」という“インフレ”がある程度解消され、ユーザーの“課金疲れ”を軽減しています。

 例えるなら、最初に入手した“グー”は後から出た“グー”より弱いところもあるけれど、強い“チョキ”よりはいつまでも強いので投資を無駄に感じない――というところでしょうか。加えて、ゲーム内イベントによっては、初期のサーヴァントを使うと有利になったり、新しいクラスが追加されたりと、チーム編成を工夫できる戦略性が、満足感の継続に貢献しているといえます。

 また、他のスマホゲーム同様、FGOでも入手したサーヴァントは基本的に育成(能力をアップさせること)が必要になります。しかし平均的なゲームと比べると、育成に必要なアイテムを集めるには、ある程度、敵を倒し続けなければいけないなど、手間がかかることが多いのです。そのため「手間のかかるサーヴァントほどかわいい」という愛着を生み出すことに成功しているように思います。

(3)緩いソーシャル性を活用したガチャのプロモーション

 ランキング制やギルド戦がなく、さほど他プレイヤーを意識しない設計になっているFGOですが、唯一他プレイヤーと接触する機会が「サポート枠」を使うときです。FGOのバトルは、原則としてサーヴァント6体のチームを編成して戦いますが、そのうち1体はサポート枠として他プレイヤーから借りることができます。その際、能力が優れたサーヴァントを借りることが多く、必然的に他プレイヤーが有料ガチャで入手したであろうサーヴァントを“疑似使用”することになります。

 そうした経験を繰り返していく中で、特定のキャラを入手できる確率が高くなる期間限定のガチャ「召喚ピックアップ」があると、「もしかしたら、いつもは借りているあのキャラが手に入るかもしれない」と考え、積極的にガチャを回すユーザーもいるでしょう。

 歌手の安室奈美恵さんが引退を発表した17年9月20日。この衝撃的なニュースを抑え、Twitterのトレンドでトップに君臨し続けた“謎の人物”「マーリン」が話題を呼びました。このマーリンは、FGOに登場する強力なサーヴァントの1人。当日はマーリンの召喚ピックアップが行われていました。“遠くのヒロイン”安室奈美恵さんよりも、“身近なヒーロー”マーリンが自分のところにも来るかもしれない……ということでしょうか。熱量を感じるエピソードかと思います。

 18年6月中旬から開催されたゲーム内イベント「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」では、「沖田総司(オルタ)」や「岡田以蔵」といった新キャラクターが有料ガチャに登場。FGOは、App Storeの売上ランキングでも上位を獲得していました。

 いまやスマホゲームの月間売上首位ともなると、100億円にも達します。人気キャラ「安室透」を擁し、「名探偵コナン」シリーズでは過去最高の興行収入を記録した映画「名探偵コナン ゼロの執行人」(18年4月公開)の目標が100億円だったことを考えると、そのインパクトのすごさが分かります。

●絶好調のFGOに“抑止力”は必要?

 キャラへの愛着という観点でFGOのガチャを考察してみましたが、もちろん、FGOのマスコットキャラ「ぐだ子」のように、単純にガチャを回すことが好きな人もいるでしょう。結局、ガチャを回す理由は人それぞれだとは思います。私は子どものころ、数千円~1万円もするファミコンやスーパーファミコンのゲームソフトを、必死にお小遣いをためて買っていた世代です。FGOの場合は「これだけ長時間遊ばせてもらっては悪い」と思い、チップ感覚で少額のアイテムを購入することもあります。

 一方、これだけすさまじい利益を上げているとなると、ガチャの回数に制限がなく、一定の金額を支払っても、お目当てのキャラが手に入らない場合がある(ネット上では青天井と呼ばれる)ことなどに対し、批判の声が上がるのも当然とは思います。

 しかし未成年のユーザーを対象にした規制などは必要だとしても、「大人の娯楽は自己責任ではないのか?」「“イラスト”を購入する上限額が10万円だったら、皆が納得するのか?」といった意見もあるでしょうし、判断が難しいところです。私は、喉から手が出るほど欲しいマーリンが仮に「最高●●万円を払えば手に入る」となれば、それはそれでつまらないのです。いや、欲しいんですけど、切実に(笑)

 ただ、ビジネスの視点で考えても、単純にキャッシュイン(売上など資金の流入)を絞るよりは、ゲーム運営を支えるサーバや人員などのリソースの強化を含め、好調な間にしっかりと再投資できるかが重要だと思います。その点は、ユーザーへの還元として、運営側に努力していただいて、FGOがより長く深く楽しめるコンテンツに育っていくことを願っています。

《著者紹介》

平野健児。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの「SiteStock」や無料家計簿アプリ「ReceReco」他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業し「NOKIZAL」を運営中。

「Fate/Grand Order」公式サイトより(c)TYPE-MOON/FGO PROJECT