ネットや新聞でさかんに拡散されている写真がある。7月5日夜に東京・赤坂の議員宿舎で行われた自民党議員の宴会「赤坂自民亭」の写真である。西村康稔官房副長官らがツイッターでアップした。安倍晋三首相、岸田文雄党政調会長、小野寺五典防衛相ら自民党議員が仲むつまじく杯を上げているのだが、この時は既に西日本で豪雨災害の危険が高まっていた。いったいこの時に何が起きていて、何が問題になっているのか――。

■「獺祭」と「賀茂鶴」を飲み比べ

まず「自民亭」の模様を再現してみよう。赤坂にある衆院議員宿舎の宴会ができる部屋。自民党議員がそれぞれ郷土料理や地酒を持ち寄って酒盛りを行った。自民党内の懇親が狙いで毎年行ってる。例年は中堅、若手議員が中心だが、今回は午後8時半ごろ安倍晋三首相が姿を現したこともあり、いつもより多い50人程度の議員が集まった。「自民亭」はこれまで30回近く開いているが現職首相の出席は初めてだったという。

出席者の話によると、それぞれが持ち込んだ酒を飲み比べながらお国自慢をし、安倍首相とツーショットの写真を撮り……といった具合で誰が何を話しているか聞き取れないほどの盛り上がりだった。

安倍首相の地元・山口の獺祭、大規模火災で被災しながら復活した新潟県糸魚川市の名酒・加賀の井、広島の酒・賀茂鶴などが振る舞われたが獺祭を飲めば「安倍支持」、賀茂鶴なら「岸田支持」など9月に迫った自民党総裁選を題材にしたジョークが飛び交った。ちなみに出席議員の大半は結局、獺祭と賀茂鶴の両方を飲む羽目になったという。

■未曾有の水害の最中に、与党首脳がこぞって酒盛り

乾杯のあいさつは竹下亘総務会長が務め、「自民亭の女将」でもある上川陽子法相の発声で「万歳」をした。

党が一枚岩となって盛り上がるのは大いに結構なのだが、タイミングが悪すぎた。5日は近畿、四国、北陸地方などで記録的な降雨を記録。6日以降の豪雨の被害のすさまじさはここで書くまでもない。

まさに未曽有の水害が起き始めている時に首相、被災者救出や災害復旧に前面に立つ防衛相ら政府与党の首脳がこぞって酒盛りをしていたのだ。首相官邸で関係省庁の情報を集めて指示を飛ばすべき役割の西村康稔官房副長官に至っては午後10時すぎ、宴会の写真をツイッターに添付し、「和気あいあいの中、若手議員も気さくな写真を取り放題!まさに自由民主党」などとのんきなつぶやきをしている。批判が集まるのは当然のことだ。

■「A級戦犯」は西村康稔・官房副長官

5日の段階では、まだそれほど被害は広がっていなかったので、目くじらをたてる話ではない、という声もある。確かに5日に起きた出来事を伝える6日の新聞朝刊をチェックすると、私立大学支援事業を巡り文部科学省の局長が逮捕された事件の続報や、W杯サッカーで健闘したサッカー日本代表が帰国したニュースが1面を飾り、大雨のニュースは社会面などで小さく報じられているだけだ。

しかし5日午後には午後には気象庁が会見を開き「非常に激しい雨が数日間降り続き記録的な大雨となるおそれ」があると警告を発していた。雨の警戒のために気象庁が会見するのは異例中の異例のこと。政府は今後、大変なことが起きうることは十分把握できいたはずだ。

「自民亭」を中止したからといって西日本豪雨の被害を食い止めることができたかどうかは分からない。ただ、巧みな危機管理対応を売り物にする安倍政権としては、初動対応で決定的に誤ったのは間違いない。与党・公明党の井上義久幹事長も13日の記者会見で「軽率のそしりを免れない。会合自体を踏みとどまるべきだった」と厳しい口調で批判している。

■緊張感がないと言われてもしかたない

安倍首相は8日、午前9時から首相官邸で開いた非常災害対策本部の会議で「今なお安否不明の方が多数いる。孤立して、救助を求めている方もおり、時間との闘いだ」と声を張り上げた。だが3日前の夜、彼らが何をしていたのかを考えると「時間との闘い」と言われても素直に受け入れがたい。安倍首相の発言も、ネットでは格好の批判材料となっている。

この件で「A級戦犯」とされているのは「自民亭」のもようをツイッターで世界に発信した西村氏だ。11日、「週末の大雨による災害発生時に会合を開いているかのような誤解を与え、不愉快な思いを抱かせたことをお詫び申し上げます」とツイートしたが、その表現にも「5日夜は災害発生していなかったのか」「誤解とは、だれが、どう誤解したということか」と、新たな批判を招いている。

「自民亭」出席者で、他に批判を受けているのは上川陽子法相だ。「自民亭」の翌6日、オウム真理教の麻原彰晃元代表ら7人の死刑が執行された。麻原元代表らの死刑執行は、「報復テロ」を誘発する可能性もある。政府をあげて万全を取らなければならない問題だ。にもかかわらず、その前夜に宴席に出ていたことになる。緊張感がないと言われてもしかたない。

■野党が今ひとつ歯切れ悪い理由

豪雨災害が予想されながら麻原元代表らに対する死刑執行を行ったことへの批判もある。6日、西日本の人々へ、豪雨への備えを幅広く呼び掛けるべき時に死刑を執行した。当然、テレビはオウム関連のニュースで特別報道態勢をとり、気象情報は極端に圧縮された。その結果、西日本の人々が、自分たちに身の危険が差し迫ってきていることに気づくのが遅れた、との指摘だ。

もう1人、自衛隊を指揮する立場でありながら「自民亭」に参加した小野寺氏は13日の会見で西村氏のツイートについては「気象庁が注意する呼びかけ、不安な気持ちを持たれている方々がおられる中で、あのような情報を発信することは適切ではなかったと思う」と批判した上で、自身の対応には問題がなかったと説明した。

「自民亭」に関し、野党側は反発している。ただ、今ひとつ歯切れが悪い印象だ。その理由として挙げられているのが、「自民亭」が開かれた5日夜、立憲民主党の手塚仁雄衆院議員のパーティーが開かれ、枝野幸男代表らが出席していることだ。

野党議員がパーティーを開くのと、災害対応の指揮を執らなければならない首相らが宴席に参加するのでは意味合いは違うが、やはり自分たちのことは脇に置いて政府を批判するのは気が引けるのかもしれない。

■総裁選を前に自民党は内向きに

安倍政権はこれまで北朝鮮の核・ミサイル対応も含め、危機管理対応を得意としてきた。災害が起きる度に、初動の遅れや対応のまずさを指摘されてきた民主党政権とは対照的だ。それなのに、今回はなぜ「自民亭」を中止にできなかったのか。

自民党取材の長いベテラン政治記者は、こう語る。

「自民党は今、自民党総裁選を前にして内向きになっている。国民の声に耳を傾けようという意識がなくなってきている」

■安倍首相が初めて顔を出した心理

自民党は9月下旬、自民党総裁選が行われる。事実上の首相を選ぶ重要な選挙だが、そこに参加できるのは党所属国会議員と約107万人の党員だけ。全有権者の約1%が選挙を左右する。言い換えれば「99%」は関係ない。だから自民党は国民の批判や怒りに鈍感になってきている。

今回の問題でも、数カ月前までなら、国民の目を意識して「自民亭」を中止しようということになったかもしれないし、少なくとも安倍首相の出席は見合わせようということにはなっただろう。しかし今は、99%の批判を受けてでも1%の党員や、党所属国会議員たちと会合を優先する。安倍首相が初めて顔を出したのも、総裁選をにらんで「中立票」を取り込もうという野心も少なからずあった。そんな心理が「自民亭」につながったのではないか。

そう考えると「自民亭」問題は、単に西日本豪雨の対応の拙さという問題だけでなく、これから9月に向け、安倍首相や自民党が世論に背を向けて内向きの権力闘争に突入していくサインともいえるのだ。

安倍晋三首相らが7月5日夜に参加した懇親会「赤坂自民亭」の集合写真。西村康稔官房副長官のツイッターより