前回に予告した「Systems of Systems化することで、こんな便利な仕掛けができる」という事例。それが、5月に壱岐空港を拠点として飛行試験を実施した、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)・ガーディアンである。

参考 : 国内初、大型遠隔操縦無人機のデモフライト終了--壱岐空港を拠点に15日間

なお、壱岐空港で実施した飛行試験や、一般公開イベントが行われたときの模様を撮影した写真が、 GA-ASI社のWebサイトに掲載されている。
○ガーディアンとは

ガーディアンUAVというとなじみが薄いかもしれないが(いや、それをいうならUAV全般に一般のなじみは薄いか)、アメリカ空軍などで運用しているMQ-9リーパーとは兄弟関係にある。

GA-ASI社は、「ナット750」(Gnat 750)から発展した「プレデター」に続いて、機体の規模を大幅に拡大するとともに、エンジンをガソリン・エンジンからターボプロップ・エンジンに変更した「プレデターB」を開発した。

その「プレデターB」に、米空軍が求める内容のセンサー機材を載せたのがMQ-9リーパー。一方、洋上監視任務に合わせたセンサー機材を載せたのがガーディアン、という関係である。

そういう事情から、日本では海上保安庁が売り込みの対象になっているようだ。海上保安庁はレーダーや電子光学センサーを搭載した固定翼機を捜索・監視・救難といった用途に充てているが、その捜索・監視にガーディアンはどうですか、というわけだ。

すでにアメリカでは、国土安全保障省(DHS : Department of Homeland Security)の下部組織である税関・国境警備局(CBP : Customs and Border Protection)が、ガーディアンを使った洋上哨戒を実施している。メキシコ湾では麻薬密輸や密航という問題があるが、それを経済的かつ効率的に監視する手段だ。
○ガーディアンのセンサー機材

ガーディアンは、軍ではなく、海洋法執行機関など民間部門での運用を想定している。だからMQ-9リーパーと違って非武装である。では、搭載している主なセンサー機材はどんな陣容なのか。

まず、レイセオン製の電子光学/赤外線センサー・MTS-B(Multi-Spectral Targeting Systems Model B)。MQ-9リーパーが搭載する電子光学/赤外線センサーもMTS-Bというが、同じモデルかどうかは分からない。ただ、MQ-9のMTS-Bは秘匿度が高く、輸出規制も厳しい。一方で、ガーディアンは軍ではなく民間向けの製品だから、同じMTS-Bでも両者は別物であろう。

それはそれとして。MTS-Bは、機首下面に突出した球形ターレットの中に、可視光線映像を撮影するためのテレビカメラと、赤外線映像を撮影するための中波長赤外線センサーを組み込んである。ターレット自体が旋回・俯仰できるので、機体の姿勢や進行方向と関係なく、下方の任意の方向にカメラを向けて、動画による実況中継を行える。

後部胴体下面の大きな張り出しには、レイセオン製のSeaVueマルチモード・レーダーが収まっている。半径200kmの範囲で、最大5,000の水上目標を同時に捕捉・追跡できるという。詳しい機能については後述する。

もう1つ、いかにも海洋監視機らしいのが、船舶自動識別システム(AIS : Automated Identification System)の受信機。AISとは、一定の条件[※]に該当する船舶に搭載が義務付けられている機器で、航行中は船名、所属、位置、針路、速力、目的地といった情報をVHF無線で放送している。

※ 国際航海を行う場合には300総トン以上。国内航海を行う場合には500総トン以上、そして国際航海を行うすべての客船に搭載義務がある

○センサー機材の相互連携

ガーディアンのキモは、これらのセンサー機材がそれぞれ単独で機能するのではなく、互いに連携するところにある。

例えば、SeaVueレーダーは単に洋上の移動目標を探知できるだけでなく、連続して捕捉・追尾することで、どの探知目標がどちらに向けて、どれぐらいの速度で航行しているかを知ることができる。地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)のレーダー画面では、探知目標を示す「○」に、針路と速力を示す「ヒゲ」が生えた形で表示される。

そこで、2隻のフネが徐々に接近してきて、並んだところで停止したとする。すると、北朝鮮がらみで最近、問題になっている「瀬取り」を行っている可能性が疑われるかも知れない。

そこでGCSのコンソールについているセンサー担当のオペレーターが、レーダー画面で当該目標を選択して「映像の表示」を指示する。すると、機首の下面に取り付けられたMTS-Bのターレットが旋回・俯仰して、当該目標を指向する。そしてライブ映像の撮影が始まる。

レーダーで、自機から探知目標を見る時の方位と距離の情報が得られるから、その情報をMTS-Bに渡せば、MTS-Bは「どちらを向けばいいか」を即座に知ることができる。だから迷ったり手間取ったりすることなく、迅速に捕捉できる。

空を見上げていて、「飛行機が飛んできた」といって望遠レンズ付きのカメラを指向するときのことを考えてみてほしい。望遠レンズは画角が狭いから、狙った被写体をパッととらえるのは意外と難しい。それと同じ問題を、レーダーとの連携によって解決している。

また、不審な動きをしている船舶を見つけた時に、正体を知りたければ、GCSのコンソールについているセンサー担当のオペレーターが、レーダー画面で当該目標を選択して「AIS情報の表示」を指示する。すると、AIS受信機がデータを表示してくれる。

レーダーから得られた位置情報とAISの送信データに含まれる位置情報を照合すれば、受信が可能な周辺海域にいる多数の船舶による膨大なAISデータの中から、狙った探知目標のものを拾い出せる。もしもAIS送信機に細工をして位置情報を偽っていれば、「いるはずのフネがいない」という矛盾が生じるから「怪しい」と分かる。

AISデータには船舶のサイズに関する情報が含まれているが、それを偽っていても見破る手段がある。SeaVueレーダーの逆合成開口レーダー(ISAR : Inverse Synthetic Aperture Radar)機能を使ってサイズを調べるのだ。ISARのデータやMTS-Bのセンサー映像で「大型の貨物船」だと分かっているのに、AISデータが「小さな漁船」となっていたら、それこそ不審船である。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。
(井上孝司)

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