ニコニコニュース(オリジナル)

 「『行動しない人間は何も言うな』という意見が、私は一番嫌いなんです」。コラムニストの小田嶋隆さんだ。福島第一原発の事故後、ネット上で流布する"過激な脱原発の言説"に対して、苦言を呈する。奇しくも、ツイッターなどのSNSの登場と時期が重なり、政府や専門家らに対する不信から「御用学者」といった言葉が生まれた。日増しに攻撃的になり、収拾がつかない。このような流れに対して、脱原発派を自認する小田嶋さんは、違和感を覚えているのだ。脱原発・反原発をとりまく状況について、眼鏡の向こうのすべてを見通すような目で語り始めた。

・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu

■熱狂的なレッズサポーターとの類似点

 小田嶋さんは、浦和レッズの古くからのファンだという。浦和レッズと言えば、Jリーグでも熱狂的なサポーターがいることで知られている。小田嶋さんによると、さいたまスタジアムのゴール裏には、特に熱狂的なレッズサポーターが詰めかけているそうだ。脱原発・反原発をとりまく状況を語るにあたって、まず小田嶋さんは、この"最も熱狂的なサポーター"を引き合いに出した。

「彼らは、いつも怒っています。(浦和レッズのユニフォームカラーの)赤い服を着ていないファンを『サポーターじゃない』とか。また、客席で座っているだけで、立って応援するわけでもなければ、拍手もしない、チャント(掛け声)もしない、ただ見ているだけというファンを"地蔵"と呼んでいる。ファンの掲示板なんかでは、『地蔵は帰ってくれ』という書き込みがよくある。しかし、一歩離れて考えると、地蔵であれ、テレビで応援している人であれ、青い服を着て応援しているファンであれ、レッズを応援していることには変わりないはずです」
「最も熱狂的なサポーターたちは、何かを犠牲に捧げていたり、身をやつしていたり、生活に支障をきたしてない人を認めないのです。たしかにスタジアムに行けば、『俺は会社まで辞めた』とか、『収入の何%はレッズのために使っている』という人が結構いるんですが、ファン全体から見れば2%くらいです。多くの浦和ファンは、『時間ができたからサッカーでも見に行こうか』とか『今日試合だったのにうっかり見逃した』のように、ゆるいのです」
「私はゆるい浦和ファンだから、たまにしかスタジアムに行かないし、選手の名前も、ときどき間違えます。知識も浅ければ、負けても泣くこともない。浦和レッズが自分の生活の何%かと言うと2%かそこらです。だから、『ちょっとした有名人で、かつ浦和レッズファンを名乗っているのに、お前は田中達也の"達"の字を間違えたじゃねえか』『ファンだったら犯すはずのない間違いだから、絶対許せない』と批判されます」

 この最も熱狂的なサポーターと、脱原発を過激に主張する人々との類似点を指摘する。

「最も熱狂的なサポーターと過激な原発反対派は、よく似ています。原発の運動に命を賭けたり、生活を削ったり、デモに毎週参加したりという人はいてもかまいません。ツイッター上などで過激な『脱原発』を主張する人々の中には、まるで原発推進派がいるかのように、仮想の敵を作って攻撃する人がいます。その結果、脱原発派の中で、再稼働に理解を示している人々を、『こんな奴は推進派の手先だ』と仕立て上げることになっている。本当は自分たちの味方を結果的に敵に回すという、一番まずい展開をしているような気がしています」

■「ツイッターは偏見固定装置のように働く」

 福島第一原発の事故が起き、専門家らの説明に対する不信感が募ると、ネット上では「御用◯◯」という言葉が魔女狩りの如く使われ始めた。ある学者が原子力関係者にとって都合の良い発言をしていると"認定"されると「御用学者」と呼ばれた。つまり、"レッテル貼り"だ。ゆるい脱原発派と公言して憚(はばか)らない小田嶋さんも、苦笑いをしながら「私もいわゆる御用コラムニスト認定されている」と話す。

「御用学者などとレッテルを貼られる人の中には、本物の"御用"もいると思います。一方で、『必ずしもそうは言えないと思いますよ』『直ちに◯◯とは言えません』という言葉遣いは、すごく誤魔化しっぽく聞こえるけど、科学者は、彼らの独特の物の言い方のために、断定的なことを言わず、言葉に留保を残すわけです」
「『あなたは完全に間違っています』と攻撃する方が、往々にして立派に聞こえるということがある。竹を割ったような言葉は、どうしても格好良く見えるので、人々を惹きつけるのです」

 ツイッターが登場し、普及するにつれて、"ゆるいかたち"で人を集めることができるようになった。一方で、ツイッターは基本的に、自分がフォローしている人のつぶやきだけがタイムラインに挙がる仕様だ。さらに、リムーブとブロックという、自分が見たくない意見を簡単に排除できる機能がある。

「ツイッターは"偏見固定装置"のように働くときがあります。意見が違う奴はすぐに排除できてしまう。『◯◯が嫌いな奴、集まれ』みたいにね。自分と変わらない意見の人たちが集まった、近所の駄目なスナックなわけです。だから、自分で選んでいる人間で構成されたタイムラインだということを、確認しないといけないなと自戒しています」

■「ゆるいムーブメントである間は、デモは力を持っている」

 小田嶋さんによると、「世論を総合すれば、脱原発という国民的合意がほぼ得られたと推論できる」という。「『我こそは原発推進派なり』という著名人や組織は、ほとんどいません。いたとしても声を挙げていない。東京電力の中にすら、もう推進派はいないかもしれない。彼らでさえ、『もう少しだけ原発を稼働させたい』、あるいは『今ある原発を有効に活用したい』くらいではないか」

「だから、この先は、脱原発の手順をどうするかを問題とするべきです。再稼働を許すか否か、許さないとしたら代替エネルギーをどうするのか、再稼働を許すのだとしたら、どういう順番でいくつ程度までやるのかという手続きについての議論を徹底的にやるべきです」

 一方で小田嶋さんは、毎週金曜日に首相官邸前デモを行なっている主催者(首都圏反原発連合)を評価している。

「あまり変な旗を立てないようにしていて、少し偉いと思う。今みたいに、なんとなく脱原発くらいの人がいる"ゆるいムーブメント"である間は、力を持っていると思う。多くの人は『選挙の時に、脱原発の候補者に投票しようか』とか、『世論調査のような機会があれば、原発に反対と答えよう』くらいのところにいるわけです。そういう人たちが増えることが、結果的には日本から原発をなくしていく正しいやり方だと思う。もちろん、筋金入りの運動家しか参加しなくなると、ただのカルトになる可能性を大きく孕んでいます」

■小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年生まれ。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社し、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経て、テクニカルライターとなり、現在はコラムニストとして活動。主な著書に、「人はなぜ学歴にこだわるのか」(光文社知恵の森文庫)、「イン・ヒズ・オウン・サイト」(朝日新聞社)、「小田嶋隆のコラム道」(ミシマ社)などがある。

◇関連サイト
・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu

(聞き手・編集:猪谷千香、山下真史)

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