「私は今年の夏、富士山の登頂を目指しています。心配なのは高山病です。以前、2000m以上の山に登ったとき、頭が痛くなって吐き気がした経験があります。高山病を予防する薬があるそうですが、どんな薬ですか?」(通信・33歳)というご質問です。もうすぐ山の日、登山計画をたてている方もいるのではないでしょうか?早速、宇多川先生に聞いてみましょう!

血中酸素を増やす作用が“山酔い”にも効く

先日、エベレスト登頂を目指した登山家の栗城史多さんが亡くなられたニュースがありましたね。エベレストとはレベルが違いますが、高山病に備えることはよいことだと思います。

質問者さんのいう高山病の予防薬とは「ダイアモックス」という薬だと思いますが、これは「高山病の薬」というわけではありません。主に緑内障やてんかん、メニエル症候群、睡眠時無呼吸症候群などに適用されるお薬です。

「ダイアモックス」の主成分はアセタゾラミドといいますが、これは簡単に言うと、血中の酸素量を増やす作用をする薬です。一方、高山病は、高地で血中の酸素量が欠乏することによって、気持ち悪くなったり、ふらついたり、頭痛、吐き気などが生じるものです。高山病の対処法としては酸素ボンベで酸素吸入するか、下山するかですが、アセタゾラミドの血中酸素を増やす作用によって、高山病の症状を緩和する効果が期待できるのです。このようにダイアモックスは究極の対症療法薬であって、高山病を予防することはできません。

“酔い止め”的なプラセボ効果が期待できる

高山病は別名“山酔い”と言いますが、“クルマ酔い”にとても似ていると思います。クルマで酔う人もいれば、一度も酔ったことがないという人もいますよね。高山病も2000メートルでなる人もいれば、3000メートルまで大丈夫という人もいます。つまり個人差が大きい。

また心理的な影響も大きいと思います。一度でも酔った経験があると、次も酔ってしまうのではないかと心配になり、案の定、気持ち悪くなってしまう……。こういった経験、クルマ酔いのしやすい人には覚えがあるのではないでしょうか。かように人の心理はデリケートで、ちょっとしたストレスによって気分が左右されてしまうのです。

登山の場合も、質問者さんのように一度、高山病を経験すると、次に登るときもそうなったら……という心配がむくむくと頭をもたげてきてしまうのでしょうね。

以前登った山は2000メートルでそれでも気持ち悪くなってしまったのに、次は富士山、もっと高いのだから、やはり気持ち悪くなってしまうかもしれない、仲間に迷惑をかけてしまうかもしれない、途中下山しなければならなくなったらどうしよう……とか、もう数珠つなぎに不安が出て来てしまう。それだけで血管がキュウッと収縮して酸素が欠乏してしまいそうですよね。

その点、「いざとなったらダイアモックスがある」と思うだけで気持ちがラクになるかもしれませんね。不思議なもので、気持ちがラクな状態にあると、体調も少しよくなるような気がしませんか?これがプラセボ効果というもの。薬を持っているだけで不安が軽減できそうなら、お守りとして持っていく価値はあると思いますよ。

予防薬に健康保険は適用されない

ダイアモックスは市販していません。病院で診察を受けて、処方してもらう必要があります。この際、医師には「富士山に登るので高山病の薬がほしい」と受診前にはっきり申し伝えたほうがいいと思います。

せっかく受診するのですから、自分の体調や出やすい症状(めまい、頭痛、吐き気など)を医師に話してください。そのうえで、必要があると診断されれば、ダイアモックスのほかにも吐き気止め、痛み止めなどの薬がいっしょに処方されるかもしれません。

ただし、この場合の薬は保険適用されません。日本の健康保険制度においては、すでにある症状に出す薬にしか保険は適用されないのです。そのため、高山病用に処方される薬はすべて自費になります。

診察を受ける病院、クリニックによって診察料も薬代も異なります。ちなみに都内のあるクリニックでは、ダイアモックス10錠で約5,000円でした。お守りとしてならそれほど高いものではなさそうです。

楽しく登山をするためにも、体調管理には気を配りましょう。

賢人のまとめ

「高山病予防薬」という薬はありませんが、血中酸素を増やす薬で代用することはできます。不安な人はお守りに持っていると、それだけで安心感を得られることからプラセボ効果は期待できると思います。ただし薬の処方に健康保険は適用されず、自費になります。

プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)『それでも「コレステロール薬」を飲みますか?』(河出書房新社)など。LINEお友達限定で、絶対に知っておきたい薬のリスク情報配信中。

 
関連画像