好きな人には、好きな人がいる。だから好きじゃない人と、付き合っているフリをする――ゆがんだ片思いと執着が入り乱れる横槍メンゴ先生の漫画『クズの本懐』の最終9巻が、2018年7月に発売されました。

【画像】『クズの本懐』ラスボス

 理想の高校生カップルに見える安楽岡花火と粟屋麦。しかし2人はとある“約束”をしていました。この恋は、本当の思い人と結ばれるまでの“身代わり”の関係。「お互いを好きにならないこと」「どちらかの恋が成就したら関係を終えること」「お互いの身体的欲求はどんなときでも受け入れること」を条件に、ゆがんだ関係を結んでいたのです。

 花火の思い人である鐘井鳴海、親友の絵鳩早苗、そして物語の“ラスボス”とも称された麦の思い人皆川茜も巻き込み、人間関係はねじれにねじれていきます。決してきれいではない、むしろ「クズ」な恋愛の果てに、何が待っていたのか――。

 本作は2017年にアニメ化。本編とアニメは同時に完結し、大きな話題になりました。さらに2017年末から番外編「クズの本懐 decor(デコール)」が連載スタート。2018年7月に番外編を収録した最終9巻が発売され、ついにグランドフィナーレを迎えました。

 ねとらぼでは、『クズの本懐』を生み出した横槍メンゴ先生にインタビュー。学生時代から同人活動をしていたメンゴ先生の創作論や「同人と商業の違い」、番外編「デコール」の裏話などなどを、メンゴ先生がキービジュアルを担当する「Project ANIMA」の宣伝プロデューサーで、メンゴ先生の大ファンである有田Pとともに聞きました。

●同人と、商業と、コミュニケーションと

――メンゴ先生は、さまざまなバックボーンがある漫画家さんだという印象があります。学生時代からやっていた同人活動、デビューした成人向け漫画ジャンル、それから『クズの本懐』をはじめとする少年漫画ジャンル。そうしたいろいろなエッセンスが反映されて、独自の作風になっているように思います。

横槍メンゴ(以下、メンゴ): 私は二次創作に出会って「こんなに自由な書き方があるんだ!」と驚いたんです。延々とキャラの心情だけ掘ってもいいし、モノローグも続けていい。その二次創作的描き方にものすごく可能性を感じて、そこで漫画の描き方を学んだように思います。

 だから初めて商業誌に原稿が載ったとき、「同人っぽい」と言われることもありました。同人的な漫画の描き方を商業に持ち込んではいけない――という考えがありますよね。商業の枠組みでは、いわゆる「商業的な漫画」を求めている人が少なくない。でも、二次創作の同人で感動した気持ちそのものは、一次創作(オリジナル)で感動した気持ちと引けを取りません。同人の良さを取り入れながら、商業の良さも損ないたくないと思ったんです。

――「商業的な漫画」とはどういうものなんでしょうか。

メンゴ: 「親切感」……でしょうか。商業は同人と違って、作品やキャラに対する“共通認識”がありません。だからまず分かってもらうための土台を作らなければいけない。ある程度の説明をきちんとして、最低限楽しめるラインを守りつつ、深掘りすることが必要かなと。“描きたいもの”じゃなくて、人が“読みたいもの”を描いて、読者とコミュニケーションするのが商業だと私は思ってます。「このお話を読者は読みたいのか?」というラインは意識していますね。もちろん、描きたいものをとことん描いて、読者を引っ張っていく神もいるのですが……。

――読者とコミュニケーション。

メンゴ: 例えば……SFだと分かりやすいかもしれませんね。特にハイファンタジーのSFは、いわば“設定厨”の才能がないとできないと思うんです。でも、それはストーリーの才能とは相反しがち。「自分の設定を語りたい」だけではなかなかヒットにつながらなくて、「自分の考えた設定を分かりやすく伝える」筋力も必要だと思うんです。

有田P(以下、有田): 設定もストーリーも、作りこめば作りこむほどいいものになります。でも、どこまで出すか、どうやって出すかが力量ですよね。うまい作家さんは「もったいない精神」がない印象があります。出し惜しみせず根っこのアイデアを作りこんだ上で、おいしいところだけを読者に差し出している。

メンゴ: もちろん例外はあって、強制的に強いマイワールドを見せてたくさんの人を引き付けることができる人もいるんですが(笑)。

有田: メンゴ先生の言っていることって、「サービス精神」だと思うんですよ……! 「Project ANIMA」で選考に関わっていても、いいものは“作者からこちらに差し出されている感じ”があるように思います。作者だけの目線ではなく、「いったん反対から見たらどうなるかな?」というステップを踏んでいる。自分以外の誰かの視点を考えているかどうかは、ちょっとした言葉の使い方ひとつでも明確に分かりますね。

――なるほど。そうした「読者との対話」の意識は、以前からありましたか?

メンゴ: 同人時代は、「漫画を描きたい」という気持ちは強かったですが、「たくさんの人に読んでもらうためにはどうすればいいか」は考えていなかったかもしれません。いわゆる「大手」になるような規模の活動はしたことがなかったし、自分でもならないだろうと思いながら描いていました。デザインや装丁にはほとんどこだわりがなくて、サイズも「軽くて読みやすいでしょ」と思って、個人誌とかはいつも表紙もモノクロのA5判でした。

 サービス精神が生まれたのは、商業で描くようになってからですね。特に、「サービス精神で成り立っている」と言っても過言ではないエロ漫画の世界からキャリアが始まった影響は大きいです。

有田: メンゴ先生は、コミュニケーション能力が強いタイプの作家さんだと思っています。人のことをすごく考えていて、共感力が強いですよね。

メンゴ: 「好きなものだけ描いて売れたい」と思っている商業志望の方もいると思いますが、それができるのは相当の天才だけです! そういう好きなものを力づくで読ませてしまう天才型のクリエイターさんには、正直「カッコいい……」と憧れますし、嫉妬で狂いそうになります(笑)。でも、裏を返せば好きなものの幅を広げて、1つ1つ本気で好きになれば好きなものを描いていることになりますよね。その努力を惜しんではいけないと思っています。そして、天才型でない限りは、「自分のお店を見ていってください」という“営業”をしなければいけない。

 その営業が「こういうものを読者は読みたいんじゃないか」「こういう風に描けば伝わるんじゃないか」というサービス精神であり、コミュニケーション。私は漫画を描いている瞬間はすごく入り込んで集中しているんですが、その瞬間は自分と読者とないまぜになった状況で描いているような気がします。

●アニメ化で分かった「自分の作品の魅力」

有田: 『クズの本懐』のすごさと新しさって、「青年漫画だけど青年漫画じゃない」「少女漫画だけど少女漫画じゃない」ところ。どちらからも半歩ずつ外れているんですよね。だからこそ男女ともに人気がある。

メンゴ: 変な漫画だなって、自分でも思います(笑)。「ストーリーがないじゃん」と言う読者さんもいました。

有田: 分かりやすいライバルが出てくるわけじゃないし、大きな事件が起こるわけでもない。ただ、ものすごく近いカメラで、高出力で感情を描いているんですよね。そして女の子がものすごくかわいい。

メンゴ: 私はりぼんとなかよしを愛読している「なかよし&りぼんっ子」だったんです。子どもの頃から「この世で一番かわいい絵を描きたい」と思っていました。そこは今でも変わっていないかもしれません。

有田: メンゴ先生の絵って、“主観的なかわいさ”なんですよ! 「好きな子ってこう見えるよな~」というかわいさ。花火がキラキラかわいく見えるのは、えっちゃんが花火を好きだからなんです!(熱弁) よくグラビアのカメラマンさんは「撮影相手に恋をして撮る」というような話を聞きますが、そういう「恋をしている視線」でキャラを見ている絵ですよね。「どうだ、俺の彼女はかわいいだろ?」という気持ちがバリバリ伝わってきます。

メンゴ: 女の子がみんなかわいく見えるんですよね。特に「かわいくなろう!」と思ってがんばっている女の子がかわいい。あと、男の子に興奮している女の子を見るのも好きですね。逆に男の子キャラは、女の子に比べて興味がないかもしれない……。でも今思うと、「一番かわいい絵」ってものすごく難しくてライバルが多いんですよ。そこをデビューしてから気付いたのは運がよかったです。デビュー前に気づいていたら、挫折していたかもしれません(笑)。

――そこはメンゴ先生の「やりたいこと」と「読者が求めているもの」が完全一致している部分ですね……! 女の子のかわいさやストーリーの毒っぽさのほかにも、作品に流れている「空気感」が支持されているように思います。

メンゴ: 空気感については、実は自分では全然感じられなくて……。そもそもできあがった作品を客観的に読めないので、分からなかったんですよ。でもアニメを見て「これか!」と、みなさんが言ってくださっている意味が初めてちょっと分かりました。

有田: アニメは、空気感や光の感じが、まさにメンゴ先生の作品そのもので、ファンとして非常にびっくりしました。特報の時点で「すごい!」と思いましたが、1話全部がそうでしたよね。

メンゴ: 本当に不満が1個もないアニメ化でした。最初は「自分の脳内の世界を、他人がくんでくれるはずがない」と思っていたところもありましたし、私の絵はアニメの絵にしにくいのでは……と心配していたのですが、いざ企画が進んでいったら、「(そんなことを思って)すみませんでした……!」と謝るくらいのものが作っていただきました。

 たぶん、監督と感性が近かったんだと思うんです。大好きな『HUNTER×HUNTER』で例えさせてもらうと、ゴンとキルアがすごい能力者をオーラで分かるじゃないですか。それと同じで、心から好きなものは言葉で何が好きなのか言えないけれど、創作物に流れる空気で分かりあえるのだと思います。まとっているオーラというか、念というか(笑)。そこが通じ合っているからこそ、目に見えない部分を吸い上げて落とし込んでいただけたと思っています。自分の漫画を読むよりも自分の作品を客観視できるような、すごく不思議な感じでした。

●寸前まで悩んでいた「デコール」最終回

――完結を迎えた「デコール」は、『クズの本懐』本編最終回のあとの登場人物たちを描いたお話でした。麦に片思いをしていたモカや、花火に恋をしていた早苗など、花火と麦以外のキャラクターの掘り下げもありましたね。

メンゴ: それこそ、番外編で目指したものは「サービス」でした。本編でつらい思いをしても、それでも『クズの本懐』を好きでいてくれたファンの方が楽しんでくれるように……という“お返し”ですね。

――つらい思い……(笑)。確かに本編クライマックスの展開は、見ようによってはバッドエンドとも捉えられるラストだったかもしれません。

有田: ファンとしては本編ラストは、バッドエンドではなくて希望があるなと思いました。『クズの本懐』だけではなくて、『めがはーと』などもそうなんですが、メンゴ先生は暗いだけの話、鬱なだけの話を書かない。すごくエンタメだと思います。

メンゴ: 尊敬するルネサンス吉田先生の信条を継いで、「最後は絶対『嫌な気持ちになって終わる』だけにはしない」とするようにしています! 本編はアニメと同時進行で、「とにかくちゃんと終わらせないと」というプレッシャーがすごかったですね。ただ自分でもすごく気に入っている終わり方で、「やりきった」という達成感でいっぱいでした。

――デコール最終話は、麦と花火のお話でした。本編最終回であの決断をした2人の“その後”が描かれていて、ずっと追いかけてきたファンは心を動かされたのでは。

メンゴ: 本当ですか? よかったー! ラストはずっと迷っていて、2カ月くらい前は麦と花火がどうなるかは自分でも分からなかったんです。締め切りギリギリまでも実は違う展開で、「これしかないのかな」ともやもやしていたんです。でも「あれ、こうすれば……」と思って直したら、結果的にすごくよくなったと思います。

――本編ラストがあったからこその、新しいラストだったと思います! 最後に‥‥…『クズの本懐』がグランドフィナーレを迎えたばかりでこれを伺っていいのか分かりませんが、ズバリ次回作のご予定はありますか?

メンゴ: まだ何も言える段階ではないですが、新連載を考えてはいます! これまでは『レトルトパウチ!』のような明るいエロの“A面”と、『クズの本懐』のように素の状態に近い“B面”を両方やってきました。双方をやってみた上で、今描きたいと思っているものを描けたらと。今なら、一番描きたいものが、みなさんの読みたいものと重なっている気がしています。

ついにグランドフィナーレを迎えた『クズの本懐』。横槍メンゴ先生にインタビューしてきました