【インタビュー#2】先を見据え他業種の人とも交流 「隣の芝が青く見えるんです」

 関西学院大学時代の2015年にキャプテンとして大学史上初となる単独四冠という偉業を成し遂げ、その後にJ2徳島ヴォルティスでプロキャリアをスタートさせたDF井筒陸也。今年2月に「敗北のスポーツ学」というブログを開始し、「結果が全てではない」「スポーツはジャンケンとは違う」など独自の視点から積極的に発信している。

 オフシーズンには業種を問わず魅力を感じる人と交流を深め、それをサッカー界に落とし込もうと思考を深めているという。プロサッカー選手でありながら、その口から飛び出す言葉の数々はまるでビジネスマンのようだ。広い視点でスポーツ界全体を見つめ、変えていきたいと語る。

 24歳。まだプロ3年目の彼はいち選手として日頃から何を考え、そして何を伝えようとしているのか。インタビュー第1回に続き、今回は引退後のセカンドキャリアに向けた考えを明かしてもらった。

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――井筒選手はオフを利用してビジネスマンなど様々な業界の方にお会いしているんですよね。ブログやSNSでの発信も含めて、これらはセカンドキャリアのことを見据えた上でのことなのでしょうか?

「セカンドキャリアを見越している部分がないと言うと、嘘になりますね。僕は『今、自分がやっていること』の価値を信じた状態で走りたいんです」

――以前のインタビューでは中学、高校、大学と節目節目に「サッカーを辞めるかどうか」の迷いがあったと話していました。常に先を見る意識は変わっていないんですね。

「本当に興味が散りやすいタイプではあるんです。隣の芝が青く見えるんですよ。最近だと、ビジネスの人と接する機会が多いからそう見えるというのもあるし、見えるから会いに行っているという両面があります。

 興味があるところに行くというのは、要するに『移籍』みたいな感覚ですよね。『移籍』っていい言葉だなと思います。サッカーであればJ1のチームにステップアップしたいとか、地元のチームでやってみたいとか、カテゴリーを落として経験を積みたいというようないろいろな選択が『移籍』という形である。それと同じように、生かせるスキルさえ見つかれば、他のところ(業界)に行ってみたいなという感覚は常にあります。なので、仮に選手を辞めるということがあっても、それは単なる転職であって、そう大層な話ではないと思っています」

――これはサッカー選手に限らずですが、何かを「辞める」という選択は積み上げてきたものを全て崩して“ゼロにすること”だと、抵抗を感じる人も多いと思います。

「為末大さん(元陸上競技選手)が以前『やめることのすすめ』というのをツイッターに投稿していました。そこで出てきた、辞めることを意識することで今やっていることの大切さが見えてくるという考え方に、すごく共感したんです。それからは続けてきたからこそ価値があるのか、それとも今ここにいることに価値があるのかということをずっと考え続けています。

 サッカーを20年やってきたからこそ自分にとって価値がある、というように今自分のいるところだからという理由で価値を見出すのではなく、スポーツに普遍的な価値があるというふうにちゃんと自分の中で思えること。感情移入せずとも価値があるというふうに思える状態が一番いいと思います」


自分の仕事に「問いを立てる」

――自分のやっていることに感情移入しないというのはすごく難しいことですよね。

「そうですね。でも、突き詰めていくにあたっては、ある程度の距離は取らなければいけないと思います。当たり前ですけど僕、サッカー大好きなんですよ。もう20年やっていることですし。でも、他の人たちにも伝わるように言語化する時や、自分事として冷静に振り返らなきゃいけない時は俯瞰して見つめ直します。

 スポーツ選手の価値といっても、世間的には『根性がある』とかそんな話に終始してしまいがちです。だからこそ、実際にスポーツに携わっている僕らが離れたところからスポーツをちゃんと見つめてあげて、外に向けて発信するという作業が大事だなと思います」

――そうして引いたところから見つめ直すと、良いところも悪いところも見えてくる、と。

「自分のやっている仕事を、自分の人生や社会にとって100%素晴らしいと感じながらやりたいと思った時こそ、そこに疑問を投げかけることがすごく自然な行為だと思っているんです。問いを立てないと結局、井の中の蛙になってしまいますから」

――面白いですね。“問いを立てる”とは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

「例えば『自分はサッカーをやらないほうがいい』という仮説を立てます。そして、それに関するエビデンスを取りにいくことによって、『自分がサッカーをやらないといけない』という説が強化されていく感覚があります。魅力的な人に会うと揺さぶられることもあるんです。サッカーよりも楽しそうなこと、やっているな、とか。

 だからこそ、反証を取りにいくということは本当に強く意識しています。サッカーは素晴らしい、スポーツは素晴らしいという話は集めようと思えばいくらでも集められるんですよ。でも、それは確証バイアスであって、自分に都合のいい情報ばかりあっても視野が広がりません。

 サッカー選手は給料だっていいし、チヤホヤもされるし、影響力もある。そんなことは重々承知なんですけど、さらに価値を高めて、サッカーの世界を外に発信していくためには逆説も探して検証していく必要があると思います。『サッカーは本当に素晴らしいものか?』『スポーツっていいものなんだろうか?』という問いが全ての起点になっているのかなと思います」


サッカーを“一生辞めない”方法を探している

――井筒選手は大学時代の就職活動で自分と向き合い、思考が深まったと話していました。高卒でプロになる人も多い世界ですが、やはりどこかで立ち止まって自分と対話する時間は必要だと思われますか?

「これに関して言えば、走りながらでも考えられると思いますよ。『走りながら考える』っていいフレーズだなと思って最近は勝手に使ってるんですけど、夢中になりながら考えを言語化したり、抽象化したりすることが本質的だと思いますね。僕のように大学へ行って立ち止まる時間が、必ず必要だということはないです。僕はむしろサッカー選手は高卒でなるのが一番いいと思っているくらいです。プロになって走りながら考えればいいと思います」

――あらためてですが、サッカー選手のセカンドキャリアについてはどのように考えていますか?

「10年以上、人によってはもっとだと思いますが、それだけサッカーをやってきた人生と新たな社会に出ていった後の人生が、全く分断されてしまうなんて辛いじゃないですか。僕もサッカーしかやってこなかったし、今すぐ社会に出なくちゃいけないとなったら、同世代から3年も遅れています。次のステージに進むことも一つの自分の人生なので、もしもサッカー選手を辞めることになっても、ネガティブに捉えるのではなく、単なる転職というふうに考えられる準備をしたいです。

 誰だって、20年間やってきたサッカーを辞めるなんて一大決心するのは心苦しいですよ。悲しいです。できることなら一生辞めたくないですよ。だからこそ、現役生活に限りがあるなかで、サッカーを一生辞めない方法を開発しているという感じです。一生(関わることを)辞めないために、今後につながることを考えています。そうすればより頑張れますし、より突き詰めようとも思える。その感覚です」

――サッカー選手を辞めると、それまで当たり前にあった「Jリーガー」という肩書きが外れます。また部活動で残した実績も、社会に出ればそれ自体には大きな意味がありません。サッカー選手が何者でもなくなった時のために、準備をしているか、していないかは大きな差になりますよね。

「ほとんどの人がプロになれないし、日本代表にもなれない。『スラムダンク勝利学』を書いた辻秀一先生の言葉じゃないですけど、結果を出さなかったから意味がなかったという話になってしまうと、あまりにも残念です。何万人とチャレンジしても10人しか認められないということではなく、スポーツというのは絶対に普遍的な価値がある。そうなったら(プロに)なれていない人がどう幸せになるかのほうが、絶対に重要だと思うんですよ。

 ということは、そこに対して与えるソリューションのほうが社会的価値は高い。僕はそういうことを教えられる立場にいると思っているし、そういう役割に魅力を感じています。同業のサッカー選手、J2やJ3の選手はもちろん、プロになれなかった大学生やスポーツに携わってきた人たちに向けて何かを伝えていきたい。日本代表に選ばれるような選手たちに対して影響力は持っていないけど、彼らには彼らに見えている世界があるように、それぞれに価値のある世界がある。その人たちが僕らに与えてくれるものもある。役割ですね」


肩書きが外れた時、自分を何で語るか?

――これからは自分を肩書きで語るのではなく、何をやったかで語る時代とも言われています。

「僕らプロスポーツ選手も、いつかは絶対に肩書きが外れる時がきます。どこかでその現実と向き合わないと厳しい。逆に言えば、そこと向き合っているということがスポーツ選手の普遍的な価値なんですよ。いつかラベルが剥がれる状況で、それでも突き詰めないといけないという難しい状況でやってきたというのは、自負していいと思っています」

――それを聞くと、やはり個人が“ブランド”を築き上げるということが大事なのかなと感じます。

「最近読んだ本で、アメリカの新聞『ニューヨーク・タイムズ』では世間で話題の記事を載せるのではなく、『ニューヨーク・タイムズ』自体が必要だと判断した記事を載せると書いてありました。要するに大衆の意見で何かが決められているわけではないということです。

 これには100%ではないにしろ、かなり同意できる部分がありました。僕自身もみんなが必要としているものと、自分が見たいもの、伝えていきたいと思っているものは違うなという意識はある。そこの部分は大切にしてやっていきたいです」

<Profile>
井筒陸也(いづつ・りくや)
19942月10日生(24歳)。関西学院大学の4年時にキャプテンとして全日本大学選手権、総理大臣杯、関西学生リーグ、関西学生選手権全てで優勝し、史上初の単独四冠を達成。2016年にJ2徳島ヴォルティスに加入した。プレーだけでなく、自身のSNSなどで積極的に情報発信を行う。ブログ「敗北のスポーツ学(https://note.mu/izz_izm)」がビジネスマンなど幅広い層に受けて注目を浴びている。


(石川 遼 / Ryo Ishikawa)

徳島ヴォルティスDF井筒陸也【写真:TOKUSHIMA VORTIS】