自衛隊車両は一般道を走ることもありますが、時折かなりの車列を形成している様子が見られることもあります。多数の車両をどのようにとりまとめているのでしょうか。

長大車列の背後には綿密な計画と移動のためのコツがある

陸上自衛隊は全国どこにでも安全に移動できるように、「長距離移動訓練」や「転地訓練」という名目でクルマなどによる移動訓練を行っています。

多数のクルマが一度に移動するには、事前に様々なルールが決められます。行進順序、休止点(休憩地点)、移動速度などがそれに当たります。また、これらの部隊移動を指揮する人もいます。

陸自では、一般道で見られるような縦に長く形成されたクルマの車列のことを「梯隊(ていたい)」と呼びます。これは、縦長の行進隊形のことで、横に並ぶクルマがおらず、車間距離も取っているため、万が一の敵の砲弾による攻撃を受けたとしても、被害を最低限に抑えることができます。そのため、陸自ではこの隊形をいつでも保持できるように、様々な場所で訓練しているのです。それは一般道での走行時にも安全確保で役に立つ、陸自ではポピュラーな隊形なのです。

部隊によっても差がありますが、梯隊は通常2~10両程度をひとつのグループとしてまとめます。この梯隊をまとめる人を「梯隊長」と呼びます。

梯隊長は、このグループ内での一番立場の高い者が指定され、梯隊内での行動に全ての責任を持ちます。そのため梯隊長は、万が一の事故の際に迅速に対応することができるように、梯隊の最後尾から追従していく場合がほとんどです。なぜならば、梯隊の先頭を進んだ場合、後ろで何か事故が起きても、すぐに気が付くことができず、対応に遅れが出てしまう場合があるからです。ただし、場所やその時の状況によっては、先頭を走る場合もあります。

多数のクルマを取りまとめる梯隊長ですが、いったいどのように指揮を執るのでしょうか。

梯隊長は、出発前にクルマの操縦手や車長を集めます。ここでいう「車長」とは、各クルマに乗っている最上級者(先任者)のことです。多くの場合、車長だけ集められますので、10台のクルマがあれば10人の車長が集まることになります。

ここで梯隊長は、集まった車長たちに様々なことを伝えます。そのおもな内容は、目的地、移動経路、休止点、行進順序、そして「行進隊形」です。

スムーズな移動のために伝達することは…?

まずは目的地です。目的地は分かりやすく、集まりやすい場所に設定されます。陸自の場合、「〇〇演習場の△△地点」といった具合に、具体的な場所を示します。そうすることによって、もし後続のクルマが迷っても、間違いなく同じ場所に到着することができます。

次に移動経路です。経路は、国道や県道などの分かりやすく、道幅が広い道路を選定することによって、道迷いや、狭小道路に入り込んで身動きが取れなくなることを防ぎます。

休止点は、移動途中で離れてしまったクルマと合流するため、そして、乗員の休息のために設定されます。高速道路の場合は大きなサービスエリアや、逆に駐車する一般車両が少ないパーキングエリアを選ぶなどしています。いずれにせよ、梯隊の規模や時間によって、なるべく混雑していない休憩場所を事前に選びます。一般道の場合は、道の駅やトラックセンターなどが休止点に選ばれることが多いです。

そして行進順序です。行進順序を決める上で重要なのが、先頭と最後尾です。先ほど延べましたが、その梯隊の長が最後尾を務める場合が多いです。では先頭は誰なのかというと、梯隊の副長となるナンバー2の者が先頭を進む場合がほとんどです。

この先頭を走るクルマの操縦手(運転手)も、実はある基準を持って選定されています。それが運転技術です。

当然のことながら、クルマを運転する上で、各種の法令を遵守して走行するのは全ての操縦手に求められることですが、先頭を走る操縦手にはほかの要素も求められます。それが事前の経路確認です。

キレイな車間距離を保つのにもコツがある

多くのクルマを率いる梯隊では、道を迷うことは致命傷になる場合があります。そのため、先頭を走るクルマの操縦手は、事前に経路を勉強しておく必要があります。しっかりと経路を確認して、万が一の迂回経路を予習しておくのも、大切な要素のひとつです。

そして、全車に共通しているのが、助手席に座る車長との連携です。操縦手は安全運転に専念する必要があるため、細かい時間管理や経路の確認などは隣に座る車長の仕事になります。また、クルマの左側は操縦手からすると死角になるため、車長が目視で確認するなど、安全運転に万全を期します。

梯隊の中間に位置するクルマは誰が運転しているのでしょう。それは、比較的運転経験の無い操縦手が配置されることになります。そうすることによって、先行するクルマの後を付いて行けば目的地に到着できるようにするのです。ただし、信号などでどうしても先行車と離れてしまう場合があります。その時のために、助手席には経験豊富な車長を乗せて、操縦手が慌てることなく運転できるようにフォローするのです。

また、多くのクルマを一度に移動させる陸自特有の梯隊の組み方があります。それが「SM=〇」です。

ここでいうSとはスピードのことを言います。そしてMとはメートルを指します。〇の部分には1~3の数字が入ります。簡単に解説すると、「SM=1」の場合、40km/hで走行するなら、車間距離は40m、「SM=2」の場合、50km/hで走行するなら、車間距離は100m取りなさい。ということになります。

この数字を事前に示すことによって、車間距離が近すぎたり、遠すぎたりすることなく、均等な車間距離で移動し続けることができます。

このように様々な要素が詰まっている陸上自衛隊の車両行進ですが、夏の行楽シーズンに向けて、しっかりと目的地、経路、休止点、そして、先行車との適度な車間距離を保ち、安全快適に移動するなど、一般のドライバーもならうところはあるかもしれません。

【写真】サイドミラーなどを装着した16式機動戦闘車

呉市内を走行する陸自車両(矢作真弓撮影)