― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆「夢を見ること」を描いた新作音楽劇と60歳の誕生日

 8月11日から新作音楽劇『ローリング・ソング』の公演が始まりました。

 3世代の男達、20代の中山優馬さん、40代の松岡充さん、60代の中村雅俊さんが、歌い、ぶつかる物語です。

 松岡充さん演じる山脇雅生は、昔、ロッカーでしたが売れず、夢を諦めて、家業である納豆会社を継ぎました。ある日、雅生の所に一人の青年、中山優馬さんが演じる篠崎良雅がやってきます。そして、「私はあなたの子供だ」と言うのです。

 自分の母親は若いころ、ロッカーだったあなたの熱烈なファンだった。

 母親はずっと父親の名前を言わなかったけれど、死んだ後日記を見たらあなたの名前が書いてあった。

 けれど、そう言われた雅生は、「やったのかなあ。やんなかったのかなあ。なにせ、ロッカーはそういうところ、ルーズだからなあ」と答えるのです。

 息子と名乗る良雅は憤慨します。母親は、父親は有名なロッカーだと言ったのに、今のあなたはなんだ? 納豆を売っているただのくたびれた中年じゃないかと。

 一方、中村雅俊さん演じる小笠原慎一郎は、夢を売る結婚詐欺師で、雅生の母親、久野綾希子さん演じる山脇久美子をだまそうとします。

 また、雅生は離婚していますが、娘がいます。その娘、森田涼花さん演じる原口綾奈は、ライブハウスで出会った良雅に兄であるとは知らず、恋をしてしまうのです。「そんな失敗した韓流ドラマみたいな展開なの!?」と父親である雅生は驚きます。でも、好きになっちゃったもんはしょうがないのです。

 雅生は会社が傾き、母親に借金を申し込みます。けれど、母親は結婚詐欺師の口車にのり、嘘のチャリティー・ミュージカルに出資しようとしています。

 若者は、売れないままバンドを解散し、途方に暮れています。恋する娘は、なんとか応援しようとします。

 5人が、それぞれに「自分にとって一番大切なことはなにか?」を考え、あがきます。「夢を見ることのしんどさと素晴らしさ」がテーマの音楽劇です。
◆世間的には還暦。脳内年齢は33歳

 なんだか、楽しいです。全部で7曲、歌うのですが、自分で言いますが、どの曲も素敵で、おもわず口ずさんでしまいます。

 音楽劇にしたのは、ミュージカルの楽しさとセリフ劇の情報量の両方が欲しいと思ったからです。ミュージカルとセリフ劇の両方のいいとこ取りですが、絶妙なバランスになったと思います。

 中村雅俊さんは永遠の青春スターで、稽古場をとにかく明るく楽しくしてくれます。雅俊さんが微笑むだけで稽古場の体温が上がります。

 松岡充さんには、今回、「俳優・松岡充」を徹底してもらうように頼みました。歌が上手いのは誰もが知っているので、俳優としてさらに爆発してもらおうとしています。

 中山優馬さんは、若いのにじつに達者です。こんなに上手いとは思いませんでした。すごい集中力で、ちょっと感動しています。

 ミュージカルスターだった久野綾希子さんは、見事なコメディエンヌで、こんなに笑いが上手い人だとは思いませんでした。

 元アイドルの森田涼花さんもまた関西人の血が騒ぐのか、笑いに対してじつに敏感で、上手いです。

 全員がじつに歌が上手いのです。

 この稽古をしている間に、なんと、60歳の誕生日を迎えてしまいました。あっと言う間でした。自分が60年も生きているなんて信じられません。世間的には還暦ですが、脳内ではまだ33歳ぐらいです。

 夜、稽古が終わった後、雅俊さんと一緒の取材がある、とマネージャーに言われてレストランに行くと、出演者全員(アンサンブルも4人出ます)と森雪之丞さんで、サプライズ・パーティーをしてくれました。人生初でした。部屋に入った途端、クラッカーが鳴って、ハッピーバースデーの歌声が迎えてくれました。

 Tシャツとパーカー、靴、スーツケース、キャップ、ちゃんちゃんこをプレゼントしてくれました。全部、真っ赤でした。ちゃんちゃんこ以外を身につけて記念写真を撮りました。
 60歳の記念の日に、中村雅俊さんをはじめとして、先達の人達と仕事ができていることは、本当に幸せだと思いました。

「ローリング・ソング」公式ツイッター@RollingSong2018より