屍忌蛇(しいじゃ)という男をご存知だろうか? 高知県出身の52歳。日本のヘヴィメタル界を代表するギタリストのひとりなのだが、酒癖が悪くて舌禍が絶えず、業界屈指の問題児としても名を馳せているという。そんな彼に、恐る恐るインタビューを敢行。近所のコンビニでウイスキーのポケットボトルを2本購入した屍忌蛇は、そのうちの1本を記者に手渡し、もう1本の封を切ると、ボトルに口をつけて直飲みを始めた。「ストレートはやめた」という言葉は、完全に忘却の彼方のようだ。

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 屍忌蛇の部屋は飾り気がなく、ミュージシャン色も薄い。所有するギターは3本だけ。メイン機のフライングVは壁に吊るされているが、レスポールは部屋の隅っこに無造作に立てかけられており、アコギは押入れの中だという。食卓の座布団を兼ねる形で万年床が敷かれ、その上に安兵衛がちょこんと座っている。

――気取りのないキャラクターそのままの部屋ですね。

屍忌蛇 ここは大きな犬小屋みたいなもんだね。服が安兵衛の毛だらけになるから覚悟してね。

――エフェクター(ギターの音を変える機器)などの音楽機材が見当たらないですが。

屍忌蛇 エフェクターは、そもそもあまり使わないの。たくさんあると、ステージでコケるだけ。エフェクターは、ここ(心臓)にあるじゃないですか。僕自身がエフェクターなんですよ。

――いつもこの部屋でギターの練習をしているんですか?

屍忌蛇 いや、ほとんどしない。こんなこと言っちゃ悪いけど、ギターは半分仕事だと思ってて、普段はなるべく仕事とは距離を置きたいの。そもそもなんで僕がロックをやってるか知ってる? 古銭を買うためなんですよ。

――古銭?

屍忌蛇 ヘビメタって、冷たくて重いでしょ。古銭も同じ。小判には刻みがあって、そこに江戸時代の人々の垢が残ってる。そういうのにロマンを感じるんだよね。

――古銭はどこに置いてあるんですか?

屍忌蛇 そこのラックに入ってるけど、下手に出すと安兵衛に噛まれて傷だらけになっちゃうから、お見せできない。古銭はギターよりも大切な物だから。

――デパートの古銭売り場とかで買うんですか?

屍忌蛇 デパートの古銭屋はビギナー向け。ギターで言うとトムソンです。僕は「なんでも鑑定団」に出てもおかしくないような本格派だから、銀座、日本橋、中野などの専門店によく行きます。

――渋い趣味ですね。

屍忌蛇 仕事が派手だから、趣味は地味なほうがいいのよ。でね、ここからが本題というか、トカナの読者向けの話になってくるんだけど、僕は歴史やオカルトが大好きで、これまで不思議な体験を山ほどしてきたんですよ。

――たとえば、どんな体験を?

屍忌蛇 小3の時に台風が来て、荒れ狂う海を3、4人で自転車にまたがって見てる最中、ふと「亀が欲しいな」と思ったのよ。で、気配を感じて足元を見たら、上げたほうのペダルの下に亀がいたの。その不思議さを友達には伝えようがないから、黙ったまんま、亀を持ち帰ってポリバケツで飼い始めたんですよ。裏庭で。そしたら数ヶ月後にその亀がいなくなっちゃった。ま、ええかと思ってしばらく経ったある日、裏庭で兄貴と草野球をしてて、兄貴がホームランを打ったから僕がボールを田んぼまで拾いに行ったの。そしたら、ボールの真横にその亀がいたんです。

――同じ亀ですか?

屍忌蛇 うん。別の亀だとしても怖いけど、同じ亀。ほんだらまた数ヶ月後に脱走しちゃって。そんなある日、学校の図工の授業で、みんなで海に行って港町を写生してたら、漁師のおっちゃんが「亀が上がったぞ。いらないか?」と言うから、もしやと思って船に入ってみたら、その亀だった。川から流れて港にたどり着いたみたい。自宅から1キロほど離れてるから。

――すごい偶然ですね。

屍忌蛇 いや、この話にはまだ続きがあって、また亀がいなくなっちゃったの。今度は1年ぐらい音沙汰がなくて、亀のことは僕も親兄弟も忘れてたんだけど、隣町に住んでる親戚のおじさんから急に電話がかかってきて、「庭に亀がいた。昔、亀を飼ってただろ。もう興味ない?」と言われて、まさかと思って見に行ったら、やっぱりその亀だった。またある冬に脱走してそれっきりだけど、足掛け3年で計4回脱走して、3回も再会するって、すごくないですか?

――飼い方に問題があるとも言えそうですが、確かに不思議な話です。

屍忌蛇 お化けもたくさん見てるんだけど、中でも一番強烈なのは、10年近く前、若松河田に住んでた頃の話だね。ある女を連れ込んで、ふたりで寝てたの。そしたら地震のようにカタカタ音が鳴り始めて、目が覚めた。ベッドの前には、前の住人が残してくれた古くてでかいタンスがあって、それがまず視界に入ったの。次に、ザッザッザッという足音が聞こえてきて、ふと見たら、侍が3人いるわけよ。身長150センチぐらいで、ビショ濡れになった汚い落ち武者。「え? 何?」と声をかけたら、「それがし、なにがし」と言ってるけど、よく聞き取れない。僕は「とりあえず一緒に飲もう」と言って、ベッドから下りて、酒を作って、フローリングで車座になって飲んで、気付いたら寝てた。で、昼前ぐらいに目が覚めると、女の子が部屋を片付けてて、「きのうひとりで何ブツブツ言ってたの?」と聞いてくるわけ。

――そこで屍忌蛇さんは?

屍忌蛇 「侍に酒をふるまってたんだよ」と言ったら、「誰もいなかったわよ」と女の子は笑う。ところが部屋の蛍光灯をつけたら、フローリングの床に、ギザギザの膝当ての跡が3人分くっきり残ってて、おまけに赤い布の切れ端が散乱してるから、女の子も青ざめてた。その切れ端を辿って行くと、前の住人が残していったタンスのほうにつながってるんですよ。

――その古いタンスが、霊の通り道だったんですかね。

屍忌蛇 かもしれないね。で、この話にも続きがあって、月日が過ぎて家でテレビを見てたら、飼い犬の安兵衛が急に怖がって、玄関と室内を右往左往し始めたの。なんだろうと思って玄関を開けたら、侍が立ってた。今度はひとり。うっすら見えるとかじゃなく、普通にクッキリ見えるわけ。「まあ入んなよ」と招き入れて、また酒を作って。「お侍さん、名前は?」と聞いたら、「清岡道之助」だと言う。聞いたことない名前だったけど、あとでネットで調べたら、これが実在人物だったのよ(ウィキペディア参照)。幕末に奈半利川河原で23人処刑されたうちのリーダーで、生家が僕の実家のすぐ近く。ネット検索で画像も出てきて、「ああ、この人で間違いない」と。僕んちに来た時も片目がつぶれてたけど、実際の画像も片目がないから。

――彼は何をしに来たんだと思いますか?

屍忌蛇 昔の土佐弁だから何を言ってるのかはよくわからなかったけど、僕は奈半利町出身だし、歴史好きだし、教員免許も持ってる。だから僕に何かを伝えたかったんじゃないかな。ニュアンスとしては「無念だ」みたいなことを言ってたような気がするけど。

――今の家でのミステリー体験は?

屍忌蛇 これは別に怖い話じゃないし、引っ越したあとに気付いたことなんだけど、マンションの隣が飲食店で、その店の名前が「安兵衛」なんですよ(笑)。

――これまた、すごい偶然ですね。

屍忌蛇 10年前に自分の犬に安兵衛と名付けたのは、僕の名前に「やす」が入ってるし、堀部安兵衛っていう侍もいたから。僕は前の家を放り出されて、住めるならどこでもいいって感じで今の家に慌てて越してきた。だから、場所には全然こだわってなかったんだけど、このあたり(高田馬場)って実は、堀部安兵衛とゆかりが深い町らしいのよ。だからもしかしたらこの犬は、堀部安兵衛の元に戻りたかった的な感じで、この町に呼ばれたのかもしれないね。

――安兵衛もそのことを分かっていたのかもしれないですね。夜も遅いし近所迷惑になりそうなので、僕はそろそろ失礼しますね。

屍忌蛇 えっ、もう帰るつもり?(ボトルを差し出しながら)今からやぞ!

 結局そのあと1時間ほど飲んでから別れた。千鳥足でエントランスまで見送りに来てくれた屍忌蛇は、「今日はこんな僕のことを、いっぱいイジってくれてありがとー!」と嬉しそうに叫んだ。なんと無邪気で微笑ましい男なのだろう。しかし油断は禁物で、ある日突然、こちらに攻撃を仕掛けてくる可能性も否めないところが、屍忌蛇の厄介さであり面白さなのである。
(取材・文=岡林敬太)

※画像:ヘヴィメタル界の問題児・屍忌蛇。バンド「VOLCANO」リーダー

画像:ヘヴィメタル界の問題児・屍忌蛇。バンド「VOLCANO」リーダー