この7月期にスタートした、加藤シゲアキ主演のドラマ『ゼロ 一獲千金ゲーム』(日本テレビ系)のタイトルや予告CMを見て、「何か『カイジ』っぽいなあ…」と思ったら、原作は本当に福本伸行氏の漫画『賭博覇王伝 零』だったり、つい先日、今秋放送予定の岸谷五朗主演『天 天和通りの快男児』(テレビ東京系、BSジャパン、Paravi予定)で、赤木シゲル(アカギ)役を吉田栄作が演じることが報じられるなど、何かと「ざわ‥ざわ‥」している福本伸行漫画。地上波や劇場作品としてギャンブル作品は、敬遠されがちな傾向があるが、福本作品だけがなぜ立て続けに映像化されるのだろうか?

【比較写真】これぞ実写化! 岸谷五朗が演じる『天 天和通りの快男児』がそっくり過ぎる

■ギャンブルもの=Vシネマという図式を崩した大ヒット映画『カイジ』の功績

 福本作品は、2015年7月期の本郷奏多主演『アカギ』(BSスカパー!)、2017年1月期の池松壮亮主演『銀と金』(テレビ東京系)、現在放送中の『ゼロ 一獲千金ゲーム』、今秋放送予定の『天 天和通りの快男児』と、まさに“福本ラッシュ”の様相。さらに6月末には、『アカギ』が中国で『動物世界』というタイトルで実写映画化されると興行収入が1億元(約17億円)を突破するなど、好調な滑り出しを見せているというのだから、もはや福本作品は“ワールドワイド”と言ってもいいだろう。

 福本作品における“実写化”のルーツは、2009年、2011年と藤原竜也主演で映画化された『カイジ 人生逆転ゲーム』にあることは間違いない。内容自体は、借金&ギャンブルまみれの主人公が様々な特殊なギャンブルに挑戦し、金を借りた先の帝愛グループと戦っていくというもので、いわゆる“ダメ男”臭がプンプンする作品だ。

 しかし、ここで藤原竜也は、絶叫しながらのたうち回るなど、クールなイメージを覆す演技を連発、ドロドロすぎる人間関係とジェットコースター的なストーリー展開も相まって大いにウケ、大ヒットを記録したのである。実写版『カイジ』のヒットによって、それまでのギャンブルもの=Vシネマという図式は崩れたと言っても過言ではないだろう。

 もちろん、これまでにもギャンブルを扱った漫画原作としては、2007年、2010年と実写ドラマ化、2010年には映画化された『LIAR GAME』が戸田恵梨香と松田翔太主演で大ヒットを記録。続いて、麻雀漫画『咲-Saki-』も浜辺美波で実写化、2017年10月期にも同じく浜辺主演で実写化された『賭ケグルイ』なども好評を得た。どの作品にも、福本漫画同様に、名言や、決めゼリフなどがあり、それが好評を得た要因の一つであることは間違いない。しかし、福本漫画には他の作品とは異なる独特な“味わい”がある。その“味わい”こそが実写化でも活きる福本漫画の要因なのだろう。

■ まさに“福本節” 実写化した際に見事にハマる“名ゼリフ”

 数多くのヒットの原作となった福本作品だが、漫画の主人公のルックスはと言えば、アゴと鼻が極端に尖っていたりして、実はあまりカッコよくはない。『アカギ』や『天』の麻雀モノの主人公は“無頼派”のイメージだが、カイジにしろ『最強伝説黒沢』の黒沢にしろ、相当のダメ人間だったりする。ギャンブルものでもあるし、女性キャラもほとんど出てこず、生死を伴う凄惨なシーンも多数。福本氏本人も絵に関しては、2016年10月放送の『ナカイの窓』(日本テレビ系)に出演した際に、「こういう人は目指しちゃいけないだろうっていうくらい(絵は)ヘタでした」と語っているほど。このように一見マイナスに働きそうな要素をも補って余りある演出表現が福本漫画には存在する。その一つが心にグサリと刺さる“名ゼリフ”の数々だ。

 「面白い…狂気の沙汰ほど面白い…!」(『アカギ』のアカギ)。「どんなに真面目に働いても 金を持たなければ罪人!」(『銀と金』の森田)。「金は命より重い…!」(『賭博黙示録カイジ』の利根川)等々、文字にするだけでも刺激的な言葉は、もはや名言として独立。まさに“福本節”とも呼べ、このような名ゼリフは実写化した際に際立ち、視聴者に大きなインパクトを与えている。『カイジ』の「(ビールが)キンッキンに冷えてやがる…!カァー…うめええええぇぇぇ…!このうまさ…悪魔的だアァァァァァ…ッ!」は、映画版の藤原竜也の演技とモノマネ芸人・Gたかしのモノマネの影響もあって、あまりにも有名である。また、セリフではないが、擬音「ざわ…ざわ…」も彩りの一つと言えよう。

 そして意外なところでズシンとくるのが、飲食物に関する描写。『最強伝説黒沢』の冒頭で、さえない肉体労働者の黒沢がチェーン店系居酒屋「白本屋」で食べた「なんこつ揚げライス」(なんこつ揚げをライスにかけたもの)は、主人公の悲哀ぶりを最高に感じさせたB級グルメだった。そんな福本作品の“裏名場面”でもあるグルメ描写は、スピンオフ漫画『1日外出録ハンチョウ』という形の“グルメ漫画”になるほど。スピンオフと言えば、『カイジ』の利根川も『中間管理録トネガワ』という漫画になり、『このマンガがすごい!』(宝島社)の2017年度の男性部門1位に輝いている。(福本氏は「協力」で原作・漫画は別)

■“中毒性”が高い!? 徹底した心理描写と特殊なギャンブル

 登場人物たちの心の声、つまり心理描写が作品の核となっており、相手との心理的駆け引きも醍醐味。ゆえに、ギャンブルのことがよくわからなくても、クローズアップされる人間ドラマだけで十分楽しめるし、主人公のカッコわるさや人間臭さは読者、視聴者側の“ダメ”な部分をも抉ってくる。そこが福本作品の最大の魅力でもあり、実写化される理由でもあるのだろう。

 一方で、「限定ジャンケン」、「鉄骨渡り」、「Eカード」、「チンチロ」、「パチンコ台の“沼”」といった特殊なルールを持った面白いギャンブルを福本漫画では多数生み出しており、人間ドラマのみならず、視聴者もそのゲームを一緒に体験しているかのような一体感を味わうことが出来るのである。

 福本氏は自身の作品の人気について、「“カイジ的”に苦しんでいる若者たちが昔に比べると増えてきたというのもあるのかもしれない。『カイジ』も『アカギ』も10年を越える連載で、読者からすると昔からいる友達みたいになっているわけですよ」(2009年11月17日掲載livedoorNEWSより引用)と分析している。また、「絵はヘタクソだけど、ストーリーでは負けない」(AERA、2月21日号の「現代の肖像」より引用)、座右の銘は「負けてもともと」「継続は力なり」といった強い意思や哲学が、福本漫画が支持されている理由なのではないか。

 さらに福本作品の勢いは、実写バラエティー『人生逆転バトル カイジ』(TBS系)で漫画がバラエティー番組にリメイクされるという、業界初の事態を引き起こすまでに至っている。今後も福本作品は、その独特の“味わい”で読む者をギャンブル以上に中毒化させ、実写化によって多くの人を“悪魔的”な“沼”に引きずり込んでいくのかもしれない。
加藤シゲアキ主演で実写ドラマ化した『賭博覇王伝 零』(福本伸行 / 講談社)