夏真っ盛り!『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』『インクレディブル・ファミリー』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』と、夏休みに向けた本物のエンタメ大作が出揃った映画界で、いまもっとも注目される“アツアツポイント”とは?それはズバリ、映画『カメラを止めるな!』。製作費約300万円で撮影期間8日間、これが長編監督デビュー作となる上田慎一郎が脚本・編集を手掛け、無名の俳優ばかりを起用したこの映画は、6月23日に都内2館で公開スタート。満席につぐ満席を記録して上映館は拡大し続け、8月3日時点で150館に迫る勢いなのです。え、なんで?なにが起きてる!?まずは都内のシネコン、平日午後3時スタートの上映に潜入しました!

『カメラを止めるな!』©ENBUゼミナール

『カメラを止めるな!』
(配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール)

●監督・脚本・編集/上田慎一郎 ●出演/濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、浅森咲希奈、吉田美紀、合田純奈、秋山ゆずき

●TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー

平日昼間、高い年齢層の観客でほぼ満席

上映開始30分前に映画館へ到着、まっすぐチケットカウンターへ向かいます。15時開始の回の空席を確認すると……え~、もうほとんどない!?マジか!慌ててチケットを購入して、ロビーで待ちます。夏休みだというのに、この映画を観ようする人たちのなかに10代の姿はほとんどありません。中心となるのは30~50代くらいのやや高い年齢層で、そのなかにちらほらと20~30代のカップルの姿が見えるくらい。その他リタイヤ組らしい単独男性や50~60代の「SNSってなに?」みたいなおばちゃんらもかなりいます。なにを思っていまこの映画館に、この映画を観に来たの? 一人ひとりに理由を聞きたくなりました。

8月某日、都内シネコンに潜入。ここで写メを撮る人多数。

繰り返しますが映画『カメラを止めるな!』は新人監督が、(いまのところ)無名の俳優を起用して撮ったインディーズ映画です。そもそも監督&俳優養成スクール「ENBUゼミナール」の第7弾「シネマプロジェクト」として制作されました。監督自らワークショップをやり、参加者から12人の役者を選び、役者本人の個性を反映させてすべての役柄をアテ書きしたそうです。なるほど確かに――ああ内容について超書きたい!微に入り細に入り、「最初のうち、このへんまではこう思ったんだけど、このあとにさあ……でも振り返ると、あのときこうだったよね!」といろいろ検証したい。「あそこ笑えたよね!」と感想を分かち合いたい。でも止めておきます。この映画に関しては内容に触れず、「とにかく観て!面白いから!」とできるだけ多くの人に薦めたくなるのです。それは映画を観ながらある時点で登場人物に深く感情移入してしまい、おおざっぱな言葉でいうと彼らの“映画愛”のようなものに伝染し、なるべくこの映画のためになるような形で応援したくなるからなのです。

観た人間の心にそうした感情をかきたてることを、上田監督は最初からわかっていたようです。出演者によると「これはみんなで一生懸命にがんばって宣伝するのが似合う作品だから」と役者を含む関係者全員を宣伝に巻き込んでいきました。チラシをつくって置き所を交渉するというアナログな活動だけでなく、(一人を除く)出演者全員にTwitterをやらせます。つくり手の本気から放たれるツイートはやがて映画界のインフルエンサーへ伝播。「指原莉乃さん(220万フォロワー)がTwitterでめっちゃ絶賛してた」とか「マキシマムザホルモン(58万フォロワー)も」「伊集院光がラジオで褒めてた」と、映画の評判は一瞬でネット上を駆け巡ります。更に「斎藤工がブログで絶賛した」「山田優が『カメ止め』を観に行った映画館で、友人でモデルの西山茉希とバッタリ遭遇」と“この映画が有名人の間で評判が高いらしいこと”自体がまたニュースとしてネットで広がっていったのです。上田監督の父親のFacebookもまた、息子を想う親の気持ちにかなりグッとくる内容で、息子による渾身の一作の背中を具体的に後押ししました。

確かにゾンビ映画ではある、けど内容はヒミツ。

SNS→テレビに伝播

もはや社会現象となった『カメ止め』を、テレビ番組も当然放っておきません。『ZIP!』『めざましテレビ』『スッキリ!』『グッド!モーニング』そしてNHK『ニュースチェック11』までもが取り上げます。さらに役所広司、犬童一心、本広克行、水道橋博士、吉田大八、品川ヒロシ、長澤雅彦、乙一、水野美紀、松江哲明、ライムスター宇多丸、町山智浩――役者や人気芸人、一流の映画監督、ベストセラー作家、そして辛口がウリの映画評論家までがもろ手を挙げて絶賛します。ここまでくるとこの映画は極端な映画好きや流行に敏感な若者らによる知る人ぞ知る傑作ではなく、「情報源はいまだにテレビと新聞」みたいなお茶の間のおじちゃんおばちゃんにまで広がるはずです。冒頭で書いたように、高い年齢層の観客が集まっていたのも全然不思議なことではありません。その展開はまるで2016年のアニメーション映画『この世界の片隅に』のようです。あの映画もまた、公開後数か月経った映画館には、高い年齢層の観客が集まっていました。ふだん滅多に映画館に足を運ばないと思われる層を集められたからこそ、映画は記録的なヒットとなったのです。

『カメ止め』の質の高さは「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で観客賞を受賞、イタリアの「ウディネ・ファーイースト映画祭」で観客賞2位となり、今後もイギリス、スペイン、そしてアメリカの3つの映画祭での上映が決定していることからも明らかです。それに加えて監督も出演者も、あくまでもいまのところですが、名前を聞いてパッと顔が浮かばないし、すでに鑑賞した人は激賞することはあってもなかなか具体的にその内容を教えてくれません。それでいて「事前に情報を一切入れないで観た方がいいよ!」「でもマジで絶対に面白から!」と前のめりで言われると、え~どんな映画なのよ!?と怖いもの見たさ(?)と言いますか、単純に興味が沸くのも事実です。しかも一度観るともう一度観たくなるという構造になっていて(上田監督は意図していなかったようですが)、リピーター続出!というオマケ付きでもありました。

映画をヒットさせるのに、スターなんていらないのでしょうか?満足感でいっぱいの帰り道、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のトム・クルーズが写ったでっかい看板を横目にしばしの物思いにふけりました。

右側は映画監督役の濱津隆之。観ているうちに大泉洋を思い出す……全然似てないけど!

文・浅見祥子

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