戦後73年。戦争体験者から“あの時代”を表現する新世代まで、それぞれの「歴史との向き合い方」とはどんなものでしょうか。ドラマ『この世界の片隅に』で主演を務める松本穂香さんが考える「戦争のことを、今演じる意味」とは。(全2回の2回目/#1から続く)

松坂桃李さんの広島弁がすごい

――舞台は広島県呉市です。呉ロケでの印象はいかがでしたか。

松本 呉では松坂桃李さん演じる夫の周作さんと橋の上で会話するシーンや、すずさんが呉の市街地に出るときに通りかかる「三ッ蔵」の前を歩くシーンなどを撮影しました。でも、ロケの後に西日本大豪雨の被害があって、心配しています……。あと、坂の印象が強いですね。けっこう急なんです。毎朝毎晩、この坂道を上り下りして周作さんたちは「偉いのう」って思いました。

――広島弁はだんだん板についてきましたか?

松本 そうですね、撮影の合間に自然と口をついて出るようになってきた気がします。松坂さんはすごくて、現場でずーっと広島弁なんです。なので、休憩中にお話ししていると、私も自然と「ほうですか」「ほんまじゃねえ」って(笑)。

――松本さんはご出身が大阪でしたよね。

松本 だから余計に広島弁が難しいんです。ちょっと似ているようで、イントネーションなんかがけっこう違う。むしろ関西人にとっては難しいと思いました。でも、すずさんは基本的にゆっくり喋るからありがたい(笑)。早口だったら、頭の中で整理できなくていつも失敗してたと思います。

戦争は、後から考えると「なんだったんだろう」がたくさんある

――呉はかつて軍港で、世界最大の戦艦「大和」が建造された場所でもあります。呉にある「大和ミュージアム」には行かれたんですか?

松本 行きました。戦艦「大和」って敵国にバレるといけないから隠しながら秘密で作っていたんですよね。そしてあれだけの技術とお金をつぎ込んだのに、結局沈んでしまった。後から考えると、の世界なんでしょうけど「なんだったんだろう」と思ってしまうことが、戦争によって起こされたものにはたくさんあるんだと思いました。

――ドラマの中でも、すずが周作と山の上から大和を眺めるシーンがありますね。

松本 あの場面、周作さんは興奮するんだけど、すずさんってちょっとポカーンとしてますよね。周作さんは海軍で軍法会議の記録係、録事さんを仕事にしていますし、田口トモロヲさん演じる周作さんのお父さんは海軍の技術者。だから家族の中でも男性二人は軍艦についてもああだこうだ、話ができるんですけど、女性はよく分からないから「そうなんだー」くらいなんですよね。

――どこかリアリティがないというか。

松本 関わっていないと、遠いんだと思います。戦時中を生きた人にも、戦争を遠く感じていた人がいたというか、実感が持てない人が確かにいたというか……。それは、竹槍訓練のシーンを撮影したときにも思ったことですね。

「いやこれ、相手が銃持ってたら意味ないよね」

――竹槍のシーンでですか。

松本 撮影しながら周りの子たちと「いやこれ、相手が銃持ってたら意味ないよね」「実際、敵来たら逃げるよね、まず」って話しました。でも、もしかしたら当時の人も「これ、意味あるのかな?」って、そういう気持ちを持っていたんじゃないかなって。想像でしかないですが……。

――遠い昔の感覚と、もしかしたら重なっていたのかもしれないと。

松本 今でこそ「あの戦争は何だったのか」って言いますけど、当時も「何なんだろう」という疑問はそれぞれの中にあったような気がしました。戦況が悪化するにつれ、それを表立って口にすることはできなくなるにしても。

笑っていた世界が、次の日に消えてしまう

――広島の原爆ドームや平和祈念館には行かれましたか?

松本 はい。被爆された方など、いろいろな方にお話を伺いました。ドームを目の前にすると「怖い」としか感じられなかったです。大きな建物が一瞬でこんな姿に変えられてしまうのかって。一体なんなんだろうって。

――一瞬で世界が変えられてしまう。

松本 昨日みんなと笑っていた世界が、次の日に消えてしまうのが戦争なんだって思いました。

――物語では、そうした状況下で「もしかしたら死ぬかもしれない」という思いを抱く人も登場します。たとえば海軍として出兵するにあたって、すずを訪ねてくる幼なじみの水原さん。

松本 切ないシーンでした。監督からは「水原はもう二度と会えないと思って来てる。すずの温かさとか、人の生をもっと求めるように表現してほしい。すずもそれを受けてほしい」という演出がありました。たしかにこういう「もしかしたら明日死ぬかもしれない」という状況が、戦争という時代なのかもしれません。でも、それって今も変わらないという気もするんです。

97年生まれの私が、2018年に「すずさん」を演じる意味

――今に繋がっている部分があるということですか?

松本 戦争に限らず、すごく悲しい出来事がたくさん起こっている世の中だと思うんです。自殺だってそうですよね。何かがきっかけで昨日とは全く違う世界に変わってしまうというのは、いつの時代だってありうること。だからこそ、命の大切さとか「人の生」というものを、演じることで伝えていきたいって思います。

――97年生まれの松本さんが、はるか遠い昔のことを2018年に演じる意味は何だと思いますか。

松本 私が言っても薄っぺらな言葉になっちゃうと思うんですけど、戦争を経験した人から聞く「命の重さ」みたいなものは、今まで感じたことがないくらいズシンと来たんです。その感覚は、私たち戦争を経験していない世代が普通に語ったところでなかなか伝わらないものかもしれません。でも、すずさんの身体を借りてなら、今を生きる人に、私たちと同世代の人たちに何かを伝えていけるかもしれない。演じるって、人に伝える仕事だと思うので。一生懸命すずさんを演じて、これからも伝えるということを考え続けていきたいと思っています。

まつもと・ほのか/1997年生まれ。大阪府堺市出身。主な出演作品に映画『青空エール』(16年)、『世界でいちばん長い写真』(18年)テレビドラマ『ひよっこ』『平成物語』など。9月13日に写真集『Negative Pop』が発売。10月5日には出演映画『あの頃、君を追いかけた』が公開。

写真=鈴木七絵/文藝春秋 

(「文春オンライン」編集部)

松本穂香さん