現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」で、徳川幕府最後の将軍・徳川慶喜を演じている俳優・松田翔太。幕末の混乱期、名将、愚将と見方によっては大きく評価の変わる慶喜という将軍をどのように解釈し、演じているのだろうか。

 松田は、2008年に放送された大河ドラマ「篤姫」で慶喜の一つ前の将軍・徳川家茂を演じた。当時、松田は慶喜に対して「嫌なイメージがあった」と語っていたが、本作で慶喜のオファーを受けたときは「今度は慶喜をやるのか!」と不思議な感覚になったという。その一方で「家茂がなくなったあとの世界をどう見ているのか興味があった」と前向きに役柄に向き合おうと思ったという。

 今回の慶喜について、松田は事前のリサーチでしっかりとした策略家というイメージを持ったというが、台本を読むと「乱暴なお殿様で完全な悪役なんだなという印象を持ちました」と明かす。

 松田はいつもキャラクターに向き合う際、役の筋を見つけることを大切にしているというが、今回は大河ドラマならではのアプローチ方法を行っているという。

 「大河ドラマって長い期間、役として生きているので筋にこだわると混乱してしまう。特に幕末のように混沌とした時代だと、その人の考え方も変わっていくと思うので、あえてあまり決め込まず、現場で相手と向き合うことで、どんな気持ちになり、どんな行動をとるのかを楽しもうと思いました」。

 こうしたアプローチ方法では、対峙する相手との空気感や信頼関係が重要になる。特に慶喜と西郷吉之助とのやり取りは、物語の大きな核となる部分だ。主人公・吉之助を演じる鈴木亮平とは鈴木の出演作(「レガッタ 君といた永遠」)に松田が出演しているという関係性だという。

 「当時食事にも行ったりしていたので、十何年ぶりで共演できたことはうれしかったです。鈴木くんはすごく柔軟な方で、現場の中心で懐の深さを見せてくれる。僕としてはとてもやりやすく温かみを感じます。対立シーンでも愛情を感じるので、完全に敵という感じがしないのが、作品の魅力にもなっているのかなと思います」。

 物語序盤、慶喜は「ヒー様」として吉之助らと交流を持つシーンが幾度となく描かれた。こうしたシーンがあるからこそ、後の対立や過酷な運命がよりドラマチックに展開する。

 「あのシーンがなかったら、もっと楽だったと思うんです。昔の吉之助を知っているからこそ、相手に性格も把握されているし、こちらも躊躇(ちゅうちょ)してしまう部分が出てくる。吉之助はのし上がってきたタイプで、以前は完全なる格下の存在だったのが、立場的に追いつかれ、逆に追われる立場になる。その部分もプレッシャーに感じていたと思います」。

 「西郷どん」というタイトルだけに、幕府側の総大将である慶喜は「完全なるヒール」と語った松田。一方で「僕はヒール役ってすごく好きですね(笑)」と笑顔を見せると「幕末って見方によっては、誰もが正義なんですよね。自分の正しさを信じていた奴が勝ちみたいなところがある。慶喜自体も賛否両論ある人物ですが、80歳近くまで生きている。生きることが正義なら、彼は正しいんです」と幕末という時代の特異性を考慮しつつ、キャラクターに向き合う姿を垣間見せた。(取材・文:磯部正和)

「西郷どん」で徳川慶喜役 - 松田翔太 - (C)NHK