#09

しまや
カレーショップ

神奈川/川崎市
住所:神奈川県川崎市川崎区南町1-12
電話:044-222-5165
営業時間:[平日〜土曜日]11:00〜17:00
[日曜日]11:00〜19:00
休:不定休


しぶしぶ塩で食べたとんかつの美味さに衝撃!
カツカレーなのに、カツにカレーがかかっていない。

大阪のカレー文化が東京、いや日本全国のそれと大きく異なる独自性を持っていることは、以前本連載でもご報告している。その独特な世界を支えているのが「ヤドカリ」なるシステムである。

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プロの料理人ではないけれど、カレーを作るのが好きで得意。友人に振る舞っても美味しいと言われるので、より多くの人に自分のカレーを味わってほしい。できれば生業にしたい。でも、いきなりちゃんとお店を構えるのはハードルが高過ぎる……。なので、夜のみ営業しているバーやスナックなどの昼間の空いている時間帯を借りて試してみる。

初期投資は低くて済むし、評判になればその内独立して自分のお店を出せる。このゆる〜いシステムが「ヤドカリ」。今の大阪のカレームーブメントを支えている。腕に覚えがあるのなら即試せるということで、必然その層も厚くなる。次々とスパイスカレーのヤドカリ店が出現。最近では難波の『バンバン』が白眉だ。

大阪では「ヤドカリ」から名店へと成長を遂げた店も少なくないのだか、何故かこの営業スタイルは東京ではほとんど見ない。

恵比寿に『明日の箱』というヤドカリカレーが出現したが(現在閉業)、店主は大阪の老舗カレー店『タンダパニー』で修行した方。スタイルごと大阪から東京にやってきたと言ってもいい。

何故東京には定着しないのかなぁ、と思っていたら、今度は川崎に現れた。川崎駅にほど近い、いわゆる夜の街。本来はスナックであるそのお店の昼の空き時間に現れるカレー屋『しまや』。店頭には「国産豚バラ煮込みカレー」なる大型のPOPが目立つ。曰く、国産豚バラ肉、鶏、野菜、フルーツ、30種類のスパイスでじっくり煮込んだものだそうだ。

そう言われると豚バラ煮込みカレーを頼みたくもなるのだが、ここで食べるべきはひとつ。カツカレーだ。カウンターにソースが置かれていない。福神漬けやキャベツのピクルスなどの付け合わせと塩、醤油くらいしかない。カツがメニューにあるのに。

やがて注文したカツカレーが目の前に運ばれてくる。「先ずは真ん中を塩で食べて見てください」という店主の言葉を添えて。

僕はとんかつを塩で食べない。最近のとんかつ業界の流行りなのか、高級な肉を使う店は必ずそれを言う、「まず塩で食べてください」。だけど、まず従うことはない。とんかつには絶対ソースだ。が、この店にはそれがない。しぶしぶ真ん中の一切れに卓上の塩を振ってみる。そして一口。衝撃が走る。美味い。

確かにソースではこの豚肉の実力を隠してしまう。強い旨味と柔らかい肉質。なんだこの繊細なとんかつは。「なかなか市場に出てこない良い肉なんですよ」とのこと。そうだろう、パン粉は極々薄く塗られ、余熱を使いじっくりゆっくり揚げられるこのカツだからこそ、塩で魅力を発揮する。

そもそもカツカレーなのに、カツにカレーが全くかかっていないじゃないか。最初から塩で食べるべく供されている。カツを味わい、欧風の王道とも言える濃厚なカレーをまぶしたライスを頬張る。至福。

初老の店主は一体今までどこで何をやっていたんだろう。何故こんなクオリティの肉を入手するルートを持ち得るのだろう。そもそもなんでこの場所なんだろう。謎が謎を呼び、またカツの味を深くする。東京にもヤドカリカレーの繁殖期が来るのだろうか。ただ『しまや』は川崎だけど……。

梶原由景(かじわらよしかげ):幅広い業界にクライアントを持つクリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。デジタルメディア『Ring of Colour』などでオリジナルな情報を発信中。

※『デジモノステーション』2018年9月号より抜粋。

text梶原由景
(d.365)
掲載:M-ON! Press