高速バスは複数事業者による「共同運行」が一般的でしたが、最近、共同運行会社以外のバス事業者、それも貸切バス事業者の車両が高速バスの運行に入ることがあります。乗務員不足のなか、「バスの強み」を活かす新しい運行形態が始まっているのです。

高速バスを支えた「共同運行」制度が変化

わが国の高速バスでは、以前から「共同運行」という形態が一般的です。起点側と終点側それぞれで地域の路線バスを運行する乗合バス事業者どうしがタッグを組んで、ひとつの路線をまるで1社のごとく運行するもので、乗客は、運行ダイヤによっていずれかの会社のバスに乗車することになります。しかし最近、共同運行会社以外のバス事業者の車両や乗務員が運行に加わる例が生まれています。どのような背景や目的があるのでしょうか。

共同運行制度は、1980年代半ばに生まれました。それまでは当時の国鉄バスなど限られた事業者しか高速バスへの参入が認められなかったのですが、この制度が生まれたことで、地域の路線バスを運行している事業者が自ら高速バスに参入できるようになりました。

この制度には様々なメリットがありました。営業面では、「地元の名士企業」である乗合バス事業者が高速バスに参入したことで、地方部において、高速バスの認知が一気に高まりました。運行面では、共同運行会社どうしで営業所(車庫)を相互に利用することでコストを下げることができました。また、片道4時間程度までの路線では、地元を午前に出発し夜までに戻ってくる「日勤」ダイヤを両者が担当することで、乗務員が余計な宿泊勤務をすることなく、終日まんべんなく等間隔で運行することもできるようになったのです。

2000(平成14)年には「管理の受委託」という制度が生まれました。この制度の使い方は大きくふたつに分かれます。ひとつは、長距離の夜行路線などにおいて、路線を半分に分け、中間地点で共同運行先の乗務員どうしが乗り継ぎを行うものです。これによりツーマン運行(交替運転手が乗車)が必要な長距離路線でもワンマン運行が可能になります。もうひとつが、運行コストの低い子会社などの乗務員が、親会社の路線、車両に乗務するものです。いずれも、トータルでのコスト削減をおもな目的としています。

乗務員による運転業務を別の会社に委託するということは、それを受ける会社では乗務員の運行管理(拘束時間や運転時間の管理のほか、異常気象時の迂回指示など)も受託することになるので「管理の受委託」と呼ばれるのです。ただしこの場合、受託者が乗務する車両は委託者のものでカラーリングなどに変化はありませんし、当時は共同運行会社や資本関係のある会社にのみ委託されていたので、乗客が意識することはほとんどなかったはずです。

「新高速乗合バス」の目玉、「貸切バス型管理の受委託」とは

しかし近年、委託者と資本関係のない貸切バス事業者の車両と乗務員が高速バスの運行に入るケースが生まれています。たとえば西日本ジェイアールバスの大阪~徳島線、横浜線などでは、繁忙日の続行便(需要に応じ増車される2号車以降)を日本交通(大阪府)や帝産観光バス(大阪支店など)が担当する日があります。車両は貸切バスそのものです。自社の高速バス路線を多く持つ日本交通はともかく、貸切バス「専業者」の代表格である帝産のオレンジ色の車両が、JRバスの2号車を担当するのを見ると驚きます。

これは、2012(平成24)年から始まった「新高速乗合バス」の目玉のひとつ、「貸切バス型管理の受委託」制度を活用したものです(それにともない、従来の管理の受委託は「乗合バス型管理の受委託」に改称)。

年末年始の帰省ラッシュなど高速バスの繁忙日は、貸切バスにとっては閑散日というケースがあります。需要量に応じて輸送力を増減させられるという高速バスの強みを、その日に余裕がある貸切バスを利用することで最大化すること目的に作られたのが「貸切バス型管理の受委託」制度です。委託者としては、慢性的な乗務員不足が続くなかでも繁忙日の需要に十分に応えられ、受託者(貸切バス事業者)としては閑散期にも安定して収益を確保でき、乗務員の収入(乗務手当など)にもつながります。

同様に、ウィラーの場合は帝産観光バス、ケイエム観光バス、東京ヤサカ観光バス(いずれも東京都)、そして奈良交通の貸切部門などに繁忙日の続行便を委託しますが、高速バス専用車両を使用する「WILLER EXPRESS」とはブランドを分けて、「STAR EXPRESS」という名称で予約を受け付けています。

余談ですが、2011(平成23)年、東日本大震災により東北新幹線が長期不通となった際、仙台市など東北各地と首都圏を結ぶ高速バスに需要が集中しました。その需要に対応するため、正式スタート前の同制度を国土交通省が特例として適用し、京成グループや富士急行グループの各事業者が成田空港交通や京王バス東の続行便を担当したことがあります。

「京王」の便に「アルピコ」の車両が来る現象も

「貸切バス型管理の受委託」制度の応用編として、続行便ではなく所定便(1号車)を委託する事例も現われています。

たとえば新宿~松本線は、京王(京王電鉄バス、京王バス東)とアルピコ(アルピコ交通、アルピコ交通東京)の共同運行路線です。長年、両者が同じ便数ずつ、それぞれの本拠地を午前に出て、午後に相手側から折り返すダイヤで運行してきました。しかし現在、時刻表をよく見ると、松本側を午前に出る便と、新宿側を午後に出る便の一部の運行会社が「京王」となっています。京王の車両と乗務員が「泊まり運用」しているのかと思えばそうではなく、ウェブサイト「ハイウェイバスドットコム」で予約する際には「委託元が京王で、実際に運行するのはアルピコ交通」である旨が表示されます。

大都市と地方都市を結ぶ高頻度運行の昼行路線は、「地方の人の都市への足」として定着しているので、地方側を午前、都市側を午後に出発する便に需要が集中します。共同運行会社双方が増便すると、需要が少ない都市側午前発の便まで増便されてしまうのです。しかし地方側午前発の便を地方側事業者だけが増便すると、共同運行会社間で運賃収入の不公平が起こります。そこで、地方側午前発の便を偶数の便数で増便し、運行間隔を詰めて利便性を上げ、増便分のうち半分は、時刻表上は都市側事業者の担当便としたうえで、実際の運行は地方側事業者に委託するのです。

都市側事業者の多くは、運行コストが高めであるうえに、営業所(車庫)の敷地などもいっぱいでこれ以上の増車、増便は困難です。一方、地方側事業者は、地元の人口減少により地域の路線バスの減便が進むなどしており、新しい収益源が必要です。都市側事業者に「花」を持たせ運賃収入を配分しつつ、その配分のなかから地方側事業者が運行委託費という「実」を得て、かつ利用者の多い時間帯に増便し利便性が向上するという、みなが得をする合理的な戦略です。

なお、委託できる範囲(車両数や路線の長さ)について上限があり、「丸投げ」は禁止されています。また、受託できる事業者の要件も決まっており、国による許可が必要です。特に「貸切バス型管理の受委託」の場合は、委託者と受託者が「安全運行協議会」を定期的に開催し安全運行に関する意識や手法を確認することや、委託者が定期的に受託者の営業所を実地に訪問し、安全運行や法令順守の状況を確認することが求められます。また、万一の事故などの際、被害者への対応や監督官庁への報告などは、委託者が行う(受託者はそれに協力する)ことになっており、安全運行の最終的な責任は、委託者にあると言えます。

繁忙日や繁忙時間帯に柔軟に増便、増車することで、通年での運行コストを下げつつ、いっときに集中する需要にこたえられることこそ、鉄道や航空と比較して高速バスの最大の強みです。乗務員不足が深刻化するなかで、複数のバス事業者がお互いの車両と乗務員を上手に活用し需要の変動に応えることが求められています。

【写真】バスタ新宿のレア便? 「京王」のはずが「アルピコ」の車両

西日本ジェイアールバス「青春ドリーム横浜号」として運行されることがある帝産観光バスの車両。高速乗合バスの規制に合わせ、前面、側面、後面に行先が表示される(成定竜一撮影)。