8月9日、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の3社が排出ガス抜き取り検査についての調査結果を国土交通省へ提出した。

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 これを受けて、各メディアは一斉に「不正」として報道した。しかしその報道内容を見ると、多くが不親切で、何が起きているのかが分かりにくい。ただ「不正」という印象だけが一人歩きしている。

 そこに問題が何もなかったわけではない。問題はあった。しかし、その実態は本当のところ何なのか、できる限りフラットにフェアに書いてみたい。

 しかしながら最初に断り書きをしておかなくてはならない。どうもこの問題、続報が出そうな気配を感じる。筆者は個人的に「あそこはまだ全部出し切れていない」と思っている会社があるが、この段階で証拠もなしに言うわけにはいかない。そんなわけで今後出てくる事実によっては、結論そのものが覆る可能性も否定できない。

 しかし、現在知り得る情報の中で可能な限り真摯な解釈をしていきたいと思う。

●燃費不正問題

 話は2016年にさかのぼる。というのも、ここ最近の「検査がらみの不正」は大きく分けて「燃費不正」「完成検査」「抜き取り検査」の3種類あって、それぞれに意味が違う。その3つともが正しく理解されていないので、今回の件だけ抜き出して書くと、過去の件も一緒くたに扱われてしまう可能性がある。それはまた困る。なので三菱自動車の「燃費不正問題」から始めていきたい。

 燃費不正の問題は、クルマの性能届け出値についての不正である。監督官庁である国交省はもとより、ユーザーに提示される性能や仕様が現実と異なるものだという意味で、社会的影響が高い。

 三菱自動車が行なった燃費不正は、新型車の届け出燃費を改ざん・粉飾によって良く見せた不正だ。新型車はその性能や仕様について国交省に書類を提出して認可を得る。

 三菱自動車ではこの燃費測定テストの方法を日本の省庁が定める「惰行法」ではなく米国の方式「高速惰行法」で行い、かつ実測定データの分布の中からルールによって定められた数値の抜き出し方を逸脱し、粉飾を疑われるデータの選別を行なった。

 統計では、一般に最良データと最悪データは採用しないなどの考え方がある。そのため散らばった実測値から選択して良いデータについては国交省がルールを定めていた。にも関わらず、三菱自動車はこれを無視して都合の良いデータを選び出した。

 さらにそれらの平均値などを計算する過程でも恣意的な補正計算が行われた。さらに諸問題が発覚した後の再測定でも、国の指定する方法に従わず米国式の測定を行うなど、規範意識について疑わざるを得ないことが連続した。

 三菱自動車のケースはクルマの性能の届け出値、つまり性能が意図的に改ざん・粉飾されていたもので、これは黒と言わざるを得ない。

 同様の問題はスズキにもあった。スズキの場合、走行抵抗を測るテスト設備が海風の影響を受けやすいことから、実測値にばらつきが多く、それを回避するために机上数値計算で燃費を算出した。これも国指定の測定方法を勝手な創意工夫で他のやり方に置き換えたという点で大きな問題だ。

 ただし、三菱自動車の場合、補正値の組み込みなど数値を粉飾する意図があったのに対し、スズキの場合、のちに再測定して実測した数値は、机上シミュレーションによる届け出値より向上していた。算出法のルール破りが甘えであることには違いないが、数値そのものの粉飾や改ざんの意図はなかったと考えられる。

●完成検査問題

 完成検査とは、言ってみれば「ゼロ回目の車検」である。1951年(昭和26年)に制定された道路運送車両法で定められた検査をメーカーが行う。しかしながらこの検査の内容があまりに古めかしく非現実的だ。「車体の傾きと突起物の有無」「窓ガラスの透明度や歪み」など終戦直後の工業製品の品質ならともかく、今のクルマで起こり得ない項目がほとんどを占めている。形骸化した検査項目である。

 さらに言えば、現在国内のメーカーでは組み立てラインの全工程で、綿密な検査が行われている。高い能力を持つ量産ラインで、不良が出るようなやり方で生産を続ければ、あっと言う間に不良品の山になって会社がつぶれてしまう。昨年からのテスラのケースを見れば明らかなように、工程で品質が作り込めなければ、量産は覚束ない。計画通りに製品を作ることができない。だからメーカーの生命線として「品質は工程で作り込む」ことが当たり前になっており、完成時の検査に引っかかるような不良は事実上ない。そんなことがもし起きたら、工程の再設計になるからだ。

 日産自動車ではこの完成検査を無資格者が行い、有資格者の検査合格印を無資格者が捺印していたとして問題になった。悪法もまた法なので、それを破ったことがルール違反なのは事実である。

 ただし、この資格は「適正な技能を有する者にメーカーが資格を与える」という決まりになっていた。技能の部分に何ら法的規定がない。つまり全員に講習の1時間も受けさせて有資格者にしておけば問題は発生しなかったことになる。逆に言えばその程度の資格者で十分な検査であるとも言える。

 そういう意味では手順上の誤り、形式犯ではあるが、現実的に危険が発生するようなものではなかった。

 スバルの場合、もっとバカバカしい。スバルではこの検査員資格にわざわざインターン制度を設けた。十分に教育し、理解させた上で、実地で作業経験を積んでから資格が取れる仕組みにしていたのだ。当然このインターン期間の検査員候補が検査を行えば、検査員の印鑑を借りて捺印することになる。そしてスバルはそのやり方の丁寧さにむしろ全幅の信頼を置いていた。日産の問題を受け、国交省に自社のやり方を説明して、初めて「違法扱いになる」と認識したのだ。

●抜き取り検査問題

 ようやく直近の問題にたどり着いた。燃費不正問題の項で書いた通り、新型車は排ガスと燃費について国の定めるモードをテスト走行して届け出る。国交省がこの届け出データを審査して型式認定を発行し、それによってメーカーはクルマを実際に生産・販売することができる。

 監督官庁はそれら届け出データ通りのクルマが、継続して作られているかのチェックを行う。抜き取り検査とは、通常完成品のロットあたり何台と決めて試験官が任意で選んだ個体をテストし、届け出性能とかい離がないかを調べるものである。1回やって終わりのテストではなく、生産している間中ずっと続けなくてはならない。しかし国交省には人手がいない。そこでこの抜き取り検査を各メーカーに委託している。さぼっていい加減なものを作っていないかどうか本人に確認させるという制度なのである。

 すでに述べたように、自動車メーカーの生産ラインでは徹底した工程ごとの品質管理がされているので、抜き取り検査で公差を外れるほど出来が悪いクルマが出てくることはあり得ない。国交省もそれを分かっているから抜き取り検査をメーカー任せにしている。

 今回問題になっているのはこの抜き取り検査におけるモード燃費運転テストだ。このテストではモニターに表示される加減速要求をトレースしてクルマを加減速させる。われわれが学校の英語の授業で受けた「Repeat after me」というヤツだ。先生に従って同じセンテンスを発音するが、噛んでしまったり、間が空いてしまうことがある。国交省のテストなので、噛んだら最初からやり直し、何秒止まったら最初からやり直しというルールが決まっている。つまり問題の本質は抜き取り検査によって届け出数値に満たないものが発覚したと言うことではなく、テスト作業の失敗によるやり直し事例を、順調に終わったものとして処理してしまった点にある。ちなみに「テストの結果届け出数値に満たないケースがあるのか?」と言う質問に対して、マツダは「それはゼロです」と回答している。

 最初に発覚したのはスバルで、完成検査問題を機に、国交省がスバルに聞き取り調査を行った結果、抜き取り検査でのトレースエラーをやり直しにしていなかったことが発覚した。スバルでは第三者機関を設けて、法令逸脱が無いかを独自に調査していたが、その質問のしかたは「何か法令逸脱問題がないか?」というものだった。全網羅的に調べるのであればその聞き方は止むを得まい。ところが国交省の調査は違った。全網羅の必要はないので、個別の事例を挙げ「こういうことはないか?」と具体的に質問した。本人には法令逸脱の自覚がない問題に関して「そう聞かれてみると……」ということで完成検査の問題点が出てきた。そして、この問題の洗い出しに失敗した責任を取って、吉永社長更迭という事態に陥ったのである。スバルの問題を受けて国交省は自動車メーカー各社に通達を出し、同様の事例がないか調べさせた。

 その結果、マツダ、スズキ、ヤマハがそれぞれテストに失敗して、やり直しすべき失敗回を、合格に入れてしまったことが分かった。なぜそんなことが起きたのか? 加減速要求は上下にズレの許される合格ライン、つまり閾(しきい)値を持っていて、およそ20分のテストの中で連続して1秒、あるいは累計2秒まで閾値を外れることが許される。ところがこれが自動計測される仕組みではなく、テスターが自己申告する仕組みになっていた。

 20分のテストの中でコンマ数秒の外れを暗算で累積しながら、目前のRepeat after meもやらなくてはならない。それは人間技ではない。しかしテスターは社内で難関をクリアしてテスターになる。この累積のカウントに絶対の自信を持っていたのだ。ところが膨大な実験データーを精査してみると、失敗ケースが出てきた。モニター画面に表示される遅れ時間の見落としや、合計ミスが起きていたのだと考えられる。

 今回マツダ首脳陣が深く反省していたのはこれで、加減速要求をトレースしつつ、外れ時間をカウントするのが大変な作業だと思い至ってなかったのだと言う。正直なところ、筆者も「簡単に高精度に追従できて、むしろ外れることなどないのだろう」と思っていた。Repeat after meは当事者や関係者が思うよりはるかに難易度の高いテストだったのだ。

 当然「そんなテストはコンピュータかロボットでやれば良いじゃないか」という意見が出るだろう。しかし、アクセルペダルの遊びひとつをとっても全部が同じではない。エンジンの部品一つ一つだって公差はある。だから個体ごとのクセを即時につかんで人間が細かく調整してやらないと、追従テストはできないらしい。職人芸の世界なのだ。

 現在マツダはこの逸脱時間のチェックをプログラム上でできるように測定器メーカーと調整に入っている。

●報道のあり方

 以上が、筆者が可能な限り真摯に書いた「不正問題」の現状である。ここまでで約5000文字を費やした。これを1000文字や2000文字で書けと言われたら、とてもではないが正確には書けない。紙媒体ならこんな文字数は紙幅の都合でもらえないし、WebならWebでコメント欄に「3行で」という人が頻発する。長い原稿を書いても短い原稿を書いても1本いくらの原稿料は変わらない。そういう中でこういう入り組んだ問題をちゃんと書くのは相当に面倒臭い。「不正発覚○○社は何千台」と書いてしまえば簡単だ。

 分かりやすさのために事を単純化した不誠実な原稿と、分かりにくいことを丁寧に書く誠実さ。インセンティブはむしろ前者に高く付く。

 それでも真面目に働いているメーカーの人たちが十把一絡げで不正扱いされるのはやはりおかしいと思うし、そんな報道だと誰にも信用されなくなる。今回の一件では、自動車メーカー以上に報道のあり方が問われているように思えてならない。

(池田直渡)

自動車メーカーの監督官庁である国土交通省(出典:Wikipedia)