営業で大切なことは何か。お客さんに商品やサービスを「買ってください」と伝えることではなく、いかに「買いたい」と思ってもらえるかどうかです。説得するのではなく、納得してもらわなければいけません。買ってくださいというスタンスはどうしても商品説明が長くなったり、説得する時間がかかり、場合によっては押し売り感も強く出てしまいます。

【その他の画像】

 人は説得されて買わされたと思うと、後で後悔したり、本当にこれでよかったのだろうかと疑ったりしますが、自分で最高の選択をしたと感じてもらえると、購買後も後悔や疑問は浮かびません。極端な話、こちらからの売り込みは一切なくても、お客さんが「頼むから売ってくれ!」と言ってもらえると最高ですね。これからの営業マンにはクロージングは不要となればベストなのです。

 クロージングが不要などと言うと現役の営業マンの方から「ノンクロージングなんて理想論だ!」と言う声が聞こえてきそうですね。実際に営業の場に立つと、お客さんを説得したり、少し強引にでもプッシュしたり、そんな場面があるのも理解はできます。それでも、私自身はノンクロージングは可能だと思いますし、事実それをやってきた事例も多数あります。

 そんなの理想論だと思う方は、セールスという概念を一度捨てて、自分はドクターになったとイメージしてみてください。ドクターとは医者。基本的に医者は営業をしませんし、商品を強引に売り込むこともしません。患者さんが自ら病院に来て、自ら悪いところを治すことを望み、お医者さんから提案された治療方法や薬を拒むことなく買います。

 言い方は悪いかもしれませんが営業マン=医者、お客さん=患者さんだと思い、営業の全体マップを説明すると分かりやすいかと思います。

●営業の全体マップの構成

 営業の全体マップは以下の3つで構成されています。

(1)問題発見

(2)よりよい未来の提示

(3)そこに至る解決策

 医者はまず、患者の悪いところをヒアリングしながら一緒に探します。問診票やレントゲン、あるいは触診などを通して。そして患者にいろいろと質問をします。生活習慣や、この症状が出るまでどらくらいの期間があったのか。自覚症状があったのかなかったのか、そして、これはどんな病気なのか、原因は何なのか、などを聞き出します。これが(1)の「問題発見」の段階です。

 そしてどうすれば治るのか、どれくらいで治るのか、手術が必要なのか、再発しないためにはどうすればいいのか、などを説明します。これが(2)の「よりよい未来の提案」の段階です。

 最後に実際に治療方法を提案したり、お薬を出したりします。これが(3)の「そこに至る解決策」です。

 あなたも一度は医者にかかったことがあると思うのでイメージしやすいとは思いますが、医者にはクロージングという概念はありません。また、少々時間やお金がかかったとしても、患者がこのままではダメだと感じ、よくなりたいと思えば、治療方法や薬を買わない選択はなくなります。というわけでセールスマンでなくドクターというイメージでお客さんに臨むことは非常に大切です。

 医者のようにノンクロージングで治療方法や薬を買ってもらうには、先述した営業マップ(1)の「問題発見」が最も大切です。お客さんと一緒に問題点や課題を掘り起こしていくことに最も時間を割いてください。この問題をお客さん自身が自覚していないと、なぜ自分にとってこの商品やサービスが必要だということが分かりません。そんな状態でお客さんが購買を決めることはないのです。

 先ほどの医者の例で言うと、患者の話を何も聞かずに、この薬が効きます、手術が必要です。と言われたのと同じことです。自分のことを知らない、何も症状を理解していない医者に出された薬を受け入れる患者はいません。お客さんの問題点を炙(あぶ)り出す質問をいろいろな角度でぶつけてください。なぜなら人がモノやサービスを購入するときは以下の2つのときだけだからです。

・現状の問題を解決したい

・問題はないがよりよくなりたい

●営業力とは質問力

 人が買いたいと強く思うときは、なにか問題を解決したいときか、さらによくなりたいと思うときだけ。問題を強く自覚していないのは現状に満足している状態で、よりよい未来とのギャップも生まれず購買につながらないのです。というこわけで、営業マップで(1)の問題発見が最も大切なのです。

 「あなたの悩みは何ですか?」や「御社の解決したい課題は何ですか?」など伝え方はさまざまですが、とにかく自分の話や商品の説明などは後回し。お客さんの問題を発見することに全力を注いでください。そのために質問を投げかけて先方の問題に全力で寄り添い、問題を相手に自覚してもらうのです。

 問題発見ができれば、(2)の「よりよい未来」の段階に移ります。

 「御社が目指す最高の状態は?」や「今は問題ないが将来的に起こる問題に対してどの様に手を打ちたいですか?」といった質問を投げかけて、それに答えてもらう。そして、本人によりよい未来の想像をしてもらいます。

 この段階において重要なのは、営業マンにとってこうなればよいですよね、という押し売り感が強くないかどうか。あくまで大切なのはお客さんにとって「よりよい未来のために」という気持ち。そのためにも(1)の段階でしっかりと先方に寄り添い、相手の問題発見に全力を尽くすこと、それを認識してもらうことが大切です。

 ここまでできればあとは(3)の「そこに至る解決策」の提示だけをすればノンクロージングで売れていきます。

 「いろいろとお聞きすると、あなたにピッタリな商品は◯◯です」や「このサービスを導入すると御社のコストが◯%下がるので業績も回復するかと思いますよ」など。

 ここまでにしっかりとヒアリングしており、なおかつ先方の問題を本当に解決したいと思っているマインドで接してきたなら、こちらの解決策を拒む理由がありませんよね。医者が完璧な治療方法や薬を提供するのと同じくノンクロージングで商品やサービスは売れていきます。

 ここまでの流れや営業マップを見ても分かるように、営業力とは自分が商品の説明や、お客さんにとってこの商品がいかによいのかを話すことではありません。徹底的にヒアリングして、問題発見をすることと、よりよい未来を想像するための質問をし、先方に話してもらうことが重要です。そうです、営業力とは質問力なのです。

●お客さんが最後に残る不安

 ここまでノンクロージング話法の戦略・戦術を伝えてきました。順番を守っていけば購入してくれる確率が高まりますが、それでも売れないときがあります。それは最後に残る不安があるからです。

 「本当にこの営業マンを信用していいのか?」

 この疑問が浮かぶと、どれだけいいものだと分かっていても、お客さんは購買をちゅうちょします。ここでの打ち手はテクニックではありません。あなたが仕事に賭ける想いを伝えてください。具体的には「なぜ今の仕事をしているのか」「誰のために、何のためにこの仕事をしているのか」ということです。この想いの質や本気さが相手の不安を打ち消すのです。

 例えば、単に営業職が好きだから保険屋さんで働いている営業マンより、「自分の父は町工場を営んでいたが、幼少のころに火災が起こり工場が全焼。父は何の保険にも入っておらず家族は苦しい生活に。私は父と同じような人間や自分みたいに苦しい生活をする人を増やしたくないので、いざというときに救いたいとい思いで保険業を仕事に選びました」と語れる営業マンのほうが信用できますよね。

 ここまでドラマチックではなくても、何かしらあなたにも仕事に対する想いがあるはずです。お客さんも最終的には、営業マンの人となりを知ることで不安が消え、ノンクロージングでも商品が売れていくのです。営業マンが唯一話していいのは、この仕事に賭ける想いだけなのです。

●著者プロフィール:井上敬一

 立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。その後オーナー業を経て、現在は人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演や、ホストクラブの接客術や人間関係の築き方を生かし、女性向けの恋愛の学校「恋愛・結婚アカデミー」を開講。数多くの悩める女性を恋愛や結婚の成功に導く。

 圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。主な著書に『シークレット婚活塾』(SBクリエイティブ)、『わかってくれない上司をうならせる神フレーズ50』(パブラボ)など。

営業マンにはクロージングは不要(写真提供:ゲッティイメージズ)