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 およそ24万台のサーバーを、世界130カ国以上のインターネットに分散展開している「Akamai Intelligent Platform(AIP)」。アカマイ・テクノロジーズでは、このグローバルなプラットフォームを用いて「Webパフォーマンス」「メディアデリバリー」「クラウドセキュリティ」という“ビジネスの3本柱”を育ててきた。さらに近年では、第4の柱となる「クラウドネットワーキング」事業にも注力している。

 そのアカマイが、次なる第5、第6の柱の候補としてIoTやブロックチェーン領域のソリューション開発に取り組んでいる。そしてこれらも、AIPというアカマイ独自のグローバルプラットフォームを活用した、他社にまねのできないものになるという。

 今回はアカマイ プレジデントでWeb事業部門担当GMを務めるリック・マコーネル氏に、IoTやブロックチェーンといった新しい事業領域における取り組みの現状、さらに事業領域拡大に対するアカマイのスタンスについて聞いた。

IoT領域:メーカーとデバイスを双方向でつなぐ新サービスを今年中に提供開始

 まずはIoT市場におけるアカマイの取り組みから聞いてみた。

 アカマイでは昨年(2017年)から、IoTソリューションの第一弾として「OTA Updates」を提供開始している。これは自動車メーカー向けのソリューションで、具体的には市中を走るコネクテッドカーに対して、無線通信経由(OTA:Over The Air)でソフトウェアアップデートを配信するためのサービスだ。

 「自動車市場ではコネクテッドカーの割合が高まっており、ソフトウェアアップデートも頻繁に行われる。コネクテッドカーに対し、セキュアかつ迅速、確実にアップデートを配信できる仕組みが必要であり、OTA Updatesがそれを実現する」

 アカマイのAIPは世界中のインターネットエッジにサーバーを配置しており、「地球上の大多数のユーザーから20ミリ秒以下の遅延距離にいる」(マコーネル氏)。これまではその優位性を生かしてWebコンテンツやストリーミングビデオの配信を支援してきたが、それをIoT分野にも拡張しようというわけだ。OTA Updatesは、単に迅速な配信ができるだけでなく、暗号化によるセキュリティ確保、デジタル証明書によるデバイス(自動車)の認証と配信状況の一元管理などの機能も提供している。

 そして、IoTソリューションの第二弾もすでに計画されている。この新しいソリューション「IoT Edge Connect」は現在ベータ版を提供中であり、「今年末までに正式版サービスをリリースする」とマコーネル氏は明かした。

 OTA Updatesは“一方向”のデータ通信だったが、IoT Edge Connectでは“双方向”の通信が可能になる。つまりメーカー側(サーバー側)からだけでなく、デバイス側からもデータを送信できるようになる。具体的には、IoTの主要プロトコルである「MQTT」に対応し、デバイスとメーカーとの間の通信を仲介するサービスだという。DNS設定を変更して、デバイスの接続先をオリジンサーバーからAIPのエッジサーバーに切り替えるだけなので、デバイス側の設計変更は必要ない。

 マコーネル氏は、アカマイのIoTソリューションは「すべてのIoTデバイスに必要なわけではない」と語る。これまでのWebソリューションと同様に、トラフィックにグローバルな規模とパフォーマンス(スピード)、高いセキュリティ性を必要とする領域のデバイス向けのソリューション、という位置付けだ。現在のベータ版サービスには、自動車のほか飛行機エンジン、MRI装置、情報家電などのメーカーが参加しているという。

 さらにマコーネル氏は、IoT市場におけるアカマイの戦略的な立ち位置は「Web市場で展開しているビジネスと同様」だと強調した。つまり「グローバルな規模」と「スピード」「セキュリティ」といった強みを持つAIPの強みを生かして、メーカーとIoTデバイスの通信を仲介し、手助けするのがアカマイの役割だというポジショニングだ。

 同時に「IoT市場でストレージやデータ処理のサービスを提供したいわけではない」とマコーネル氏は明言する。つまり、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどがすでに展開を進めるクラウドIoTプラットフォーム市場に参入するつもりはなく、IoT市場においても他社には真似のできない独自の立ち位置を確立する狙いがある。

ブロックチェーン:秒間100万件を処理、決済ネットワークのサービス化目指す

 もうひとつのブロックチェーンについてはどのような取り組みを進めているのか。

 アカマイでは今年5月、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と共同で「新型ブロックチェーン」の開発プロジェクトに取り組んでいることを発表している。発表によると、決済処理速度が「2秒以下」、取引処理性能が「毎秒100万件超」という超高速なブロックチェーンがAIP上で実現できることを実証したという。さらには「機能拡張により毎秒1000万件超への展望も可能」と述べている。

 この決済向けブロックチェーンを実現する分散ノード、および低遅延/高速なノード間通信を実現するプラットフォームをAIPで提供するのがアカマイの役割だ。

 「世界中の優秀な研究者たちが長年研究してきたビットコインですら、秒間10トランザクション程度のパフォーマンスにとどまる。それを秒間100万件、1000万件規模に引き上げるためには、たくさんのイノベーションが必要だった」

 マコーネル氏は、ブロックチェーンも「AIPのパーフェクトな適用領域」だと語る。決済トランザクションにはスピード、規模、セキュリティが欠かせず、AIPはそれらを満たす特徴を持つプラットフォームだからだ。ちなみにアカマイは、以前から三菱UFJニコスのカード決済システム「J-Mups」の取り組みなどを通じてMUFGとの長い関係がある。

 「アカマイでは以前から、ブロックチェーンがAIPの有効な適用領域のひとつになると考えていた。一方でMUFGも、大規模で低コストな決済処理手法を探していた。そのため、このプロジェクトは自然発生的に発生したと考えている」

 アカマイとMUFGでは、このプロジェクトを通じて完成するブロックチェーン基盤を、多様な決済サービスの取引基盤としてサービス提供していくことを検討している。従来の決済基盤ではコスト面で難しかったマイクロペイメント(少額支払い)、IoTデバイスの使っただけ課金(時間単位課金)、シェアリングエコノミーにおける課金など、多様な決済シーンをサポートするオープンな基盤提供を目指すという。

 さらにマコーネル氏は、MUFGとの取り組みを発表した後に、さまざまな業界からブロックチェーン基盤に対する引き合いがあったことを明かした。ブロックチェーンを使ってサプライチェーンのトラッキングを可能にしたい製造業や食品加工業などから、ぜひとも一緒に取り組みたいというオファーがあったという。

 「まだ最終的な決定ではないが、いくつかの中規模な企業と(ブロックチェーンを活用した)サービスの共同開発に向けた話し合いを始めている」

アカマイにとって新たな顧客層への拡大につながる新事業

 IoT、ブロックチェーンという新領域への事業拡大は、顧客層の拡大ももたらすことになる。マコーネル氏もそれを認めている。

 「これまでアカマイの顧客層は、インターネットを中核とするビジネスを展開する企業だけだった。しかしこれからは、IoTが事業の核となる企業や、ビジネスにブロックチェーンを活用する企業にも拡大するだろう。われわれは、常に新しい顧客層を模索している」

 マコーネル氏は、アカマイにおける新事業の育成戦略について、これまで大きく成長させてきた事業を例に挙げて説明する。

 「たとえば数年前、クラウドセキュリティ事業の売上は数百万ドル、売上全体の6%程度しかなかった。しかし、現在は継続的に6億ドルを売り上げるまでに成長し、アカマイを支える“三本柱”の1つになっている。このように、他社との大きな差別化が見込める領域に絞りこんで大規模な投資を集中させる。これがアカマイの戦略だ」

 そして、そうした「大きな差別化が見込める領域」として現在明らかにできるのが、IoT、ブロックチェーン、さらにエンタープライズセキュリティの3領域だと語った。

 「アカマイがこれまで入り込んでいなかった新たな領域に入っていくことになる。とてもエキサイティングな時代だ」

アカマイ“第5の柱”はIoTか、ブロックチェーンか? 幹部に聞く