erobari.jpg エロティック・バリアフリー・ムービー、略して「エロバリ」。いわゆるピンク映画に副音声と日本語字幕をつけて、視覚や聴覚に障害をもった人も健常者と一緒に映画を楽しめるよう作られた作品のことだ。2010年8月、ポレポレ東中野で『ナース夏子の熱い夏』と『私の調教日記』(共に、監督・東ヨーイチ)が同時上映された。

 エロバリの最大の特徴は、副音声だ。映画の登場人物とは別のもう一人が、のぞき見をしているように情景描写を語る。たとえば『ナース夏子の熱い夏』のベッドシーンでは、「けっこう前戯の長いお二人さん」とか、「ずいぶん派手な声。でも、待ちかねてたんですものね」とか、「あらまぁ...見事な。この人やっぱり、急がないところがいいわね」という風に、かなり個人的な視点からの語り口になっている。そのため、ピンク映画ならではのストーリー性や、ベッドシーンの興奮に加えて、副音声が次に何を言うのかが、エロバリの楽しさとも言える。また、女性目線で語られているため、女性にとってもそれほど抵抗なく観ることができる。実際、ポレポレ東中野での上映時には、観客の4分の1が女性だった。

■ 性をオープンに語り合える社会に

erobari2.jpg ピンク映画などの「エロ」は一般的に、人目につかないようにこっそり楽しむものだ。それをあえて、わざわざ映画館という場に人を集めて、みんなで「エロ」を共有しようとするのはなぜか。そこには、「性をオープンに語り合える社会にしたい」という思いが込められている。エロバリを企画した映画制作会社シグロの代表取締役・山上徹二郎さんは、エロバリに込めた思いを、

「視覚障害者だけがヘッドフォンをつけて副音声を聞くのではなく、字幕も副音声も入ったものを、みんなで一緒にみる映画をつくりたかった。また、性の話をもっとオープンに語る必要があるという思いもあった。だから、バリアフリーの『バリア』には、障害者にとっての障壁だけでなく、私たちの中にあるエロスに対する偏見という意味も込められている」

と話す。山上さんは、エロバリをきっかけにして目指すものを次のように語った。

「SEXは生きていくためにとても大事なことなのに、そのことを大らかに語れないのは変な世の中。映画館での上映も、モーニングショーにしたり女性シートを作ったりして、みんなで明るく観られるよう工夫した。恋人や夫婦で一緒に観て、そのあと性について一緒に語り合う、そういう環境をつくりたい」

■ 障害ゆえに「ひっそり」ができない

erobari3.jpg 障害をもつ人にとって、エロバリは助け舟となるのか。東京大学先端科学技術研究センターの特任研究員で、自身が視覚障害者の大河内直之さんは、エロバリの意義を肯定しながらも、障害者のエロス事情には「もう一歩手前にも問題がある」という。

「映画館にアクセスできない人が多い。一人では行けないし、かといって家族や介助者にも言いづらい。また、みんなでオープンに語り合うのは大切だけど、一人でひっそり楽しみたいエロもある。その『ひっそり』が、障害があるゆえにできない。まずはそこを克服しない限りは、オープンに語り合うのは難しい」

■ ネットでつながれる

 障害をもつ人にとっては、アダルトビデオをレンタルするのも、エロ本を買うのも隠すのも、難しい。そういった物理的なアクセスの問題が、ひっそりとエロを楽しむ壁となっていた。しかし今、インターネットがそれを克服しつつある。たとえば、視覚障害者向け電子図書館の人気図書ランキング上位は常に官能小説が占めている。また、ネット上のアダルト動画をみることもできる。視覚障害者が一人でエロを楽しめるようになってきた今、大河内さんは次のステップとして、障害を越えた「横のつながり」が生まれることを期待する。

「今や障害をもつ人も、健常者と同じようにネットでエロスを楽しんでいる。今後は、障害をもつ人と健常者がネット上で交わり、横につながっていくことを期待したい。障害を越えて、『エロ』という共通のニーズとしてくくれたらいい。その起爆剤としてエロバリがある」

【関連サイト】
エロバリ「私の調教日記」「ナース夏子の熱い夏」 予告編 動画 公式サイト
エロバリ「私の調教日記」「ナース夏子の熱い夏」 公式サイト
@ero_bari チーム・エロバリ公式Twitterアカウント

(村井七緒子)

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