『聞き書 ふるさとの家庭料理 第5巻もち 雑煮』(農文協:編、農山漁村文化協会:編、奥村彪生:解説/農山漁村文化協会)
ダ・ヴィンチニュース

 お正月にかかせないものといえば、お雑煮。新年を祝う日本の伝統食だが、「焼いた角餅入りのすまし汁」「丸餅入りの白味噌仕立て」と、地域で大きな違いがあることはよく知られている。しかし、さらに細かく見ていくと、雑煮のバリエーションは目を見張るほど多岐にわたるのだ。

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 その違いについてよくわかるのが、『聞き書 ふるさとの家庭料理 第5巻もち 雑煮』(農文協:編、農山漁村文化協会:編、奥村彪生:解説/農山漁村文化協会)だ。全国のお年寄りにふるさとの料理について聞き取りした本書は、各地のバラエティ豊かな雑煮を写真とともに掲載。たとえば、有名どころでは岩手の「くるみ雑煮」。こちらは甘いくるみダレが一緒についてきて、雑煮の餅にはこのタレをたっぷりくぐらせて食するのだ。ちなみに、岩手の沿岸地方では、おいしさを表現する言葉に「くるみ味がする」という言い方があるらしい。脂がのった魚など「こっくりとした味のものを食べたようなときに」使うのだとか。また、奈良も同じように雑煮の餅を、砂糖を混ぜたきな粉をつけて食べるのが一般的。違う味を2度も楽しめる、うれしい一杯だ。

 見た目のインパクト大なのは、宮城の雑煮。なんとお椀の上には、焼いたハゼがどーんと1匹! ハゼは松島湾の名産品。同じく名産である鮭の卵「はらこ」ものせた、豪勢な1品だ。

 海の幸が入った雑煮なら、広島の「かき雑煮」というものもある。こちらはすまし仕立ての家庭もあれば、かき養殖をしている人たちの家庭では味噌仕立てでいただくことも。牡蠣は、“福をかき寄せる”縁起のよい食べものと言われているそうだ。ところ変わって福岡は、ブリやさわら、鯛といった魚をふんだんに使った1杯。タモリも大好きだという、干しトビウオからとる「あごだし」が福岡の味のポイントだ。

 他方、「うどん県」の名称も板についた香川の一部の地域では、干したふぐで出汁をとるらしい。なんとも上品な味に違いないが、そのほか香川では白味噌仕立ての汁に、まさかのあんこ餅を投入する地域も存在。このように雑煮に甘みを足す地域はほかにもあり、本書によれば福井県や愛知県の一部の地域でも、雑煮の上に黒砂糖をトッピングすることがあるらしい。甘い物好きなら、一度は食べてみたいかも? 

 地方によってこんなにも違う雑煮。それもそのはず、雑煮は「幸をもたらしてくれる年神様を迎えるためにその年の地場の産物をお供えする」ためのものだからだ。雑煮の誕生は室町時代だが、正月に雑煮を供するようになったのは戦国時代。食文化圏の異なる北海道と琉球を除いた各地で雑煮祝いが定着したのは、元禄以降だという。じつはこのころから餅のかたちや味付けに東西の差が出ていて、すまし汁文化圏が圧倒的多数派。味噌仕立て派は白味噌の近畿、赤味噌の越前、四国の香川や徳島などで、少数派にあたるそう。そんななかでも特異なのが、出雲地方の小豆汁仕立ての雑煮。本書では、韓国で正月に食べられている小豆のお餅「シルトック」の影響も示唆しているが、ほかにも滋賀県の彦根市が白味噌文化圏にもかかわらずすまし汁なのは「藩主の井伊家は遠州出身」だったからと解説。雑煮から文化の歴史が透けて見えてくるとは、なんともおもしろいではないか。

 しかし、いまは就職や結婚、転勤などの移動によって、昔の雑煮の姿が捉えにくくなっているそう。さらに、「婚姻による変容は夫と妻の力関係によっても異なる」とある。当然のように口にしているあなたの家の雑煮も、もしかすると家族の関係性や移動の歴史が色濃く反映されてできあがったものかも。新年、雑煮を食べるときは、家族に話を聞き、そのルーツを辿るのも楽しいはずだ。

(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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