想像してみて欲しい。もしも、電車の優先座席でマタニティマークをつけた男性が普通に座っていたり、男子トイレで赤ちゃんのオムツを替えたり男性用の授乳室があることが当たり前の世の中になったら…。1月11日に発売された『ヒヤマケンタロウの妊娠』(坂井恵理/講談社)は、そんなふうに男性も妊娠するようになり、10年ほど経った世界を描いた作品だ。

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 電車や飛行機、お店といった公共の場で泣く赤ちゃんやベビーカーの扱いが議論を呼ぶなど、日本では妊婦や小さい子ども連れに対する風当たりは何かと厳しい。とくに、男性の理解を得るのは大変だ。でも、『ヒヤマケンタロウの妊娠』で描かれる世界のように、すべての男性が女性と同じように妊娠する可能性がある時代が来たら、そんな現状も少しは変わるのかもしれない。

 主人公でエリートサラリーマンの桧山健太郎は、「生むのは女の仕事だろ!!」なんて思っていたが、妊娠が分かってからは急に満員電車が怖くなり、妊婦の不安を実感する。それからはつわりで遅刻した女性を気遣ったり、自分と同じ妊夫が堂々と胸を張れるように妊夫やイクメンのためのレストランをつくるようにもなるのだ。

 また、ひとり目の子どもは奥さんが、2人目の子どもを旦那さんが妊娠した宮地夫婦も登場するのだが、奥さんの紀子が妊娠している時はどんなに体調が悪くても彼女が家事をこなしていた。旦那さんが「…なんか今日の夕飯手抜きだな」と文句を言っても何も言わず、初めての出産に対する不安にも耐えた。しかし、いざ旦那さんが妊娠するとつわりがきつくて眠いからと会社を休んでばかり。家にいるのに家事だってせず、ごろごろしているだけ。代わりに、紀子が家事もしながらパートに出ることになってイライラしていた。ただ、一方の旦那さんだって不安でどうしたらいいかわからず、悩んでいたのだ。でもこんなふうに、お互いの立場が逆転することで見えてきたり、気遣える部分も出てくる。

 さらに、避妊せずにセックスしてしまい、中絶した男子高校生も出てくるのだが、彼は自分が妊娠するまでその可能性にも、彼女が「妊娠しちゃうんじゃないか」と怖がっていたことにも気づかなかった。今までは、避妊せずにセックスをして怖い思いをするのは女性ばかりだったが、男性も自分が妊娠したり、妊娠の可能性があると分かって初めてその怖さを実感できるのだ。

 それに、中には奥さんに婦人科系の持病がある夫婦もいる。でも、男性も妊娠できれば2人の子どもを生むことだってできる。それは、とっても喜ばしいことなのでは?

 男も妊娠するなんて男性からしたらとんでもないことだと思うかもしれないが、男性も妊娠・出産できるようになればセックスや妊娠、出産、育児に関する理解が深まるのは間違いない。マンガや映画、お話の中だけのものと思っていた男の妊娠だが、2012年にはオーストラリアで人工子宮を使った男性の妊娠に成功したというニュースまで流れたのだ。こんな未来が来るのも、案外遠くないのかもしれない。

(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

『ヒヤマケンタロウの妊娠』(坂井恵理/講談社)