歌手でタレントのアグネス・チャン(57)が9日、都内・シネマート新宿で映画『魔女と呼ばれた少女』(監督:キム・グエン/配給:彩プロ)公開初日を記念したトークイベントを行った。

 アフリカの児童兵士問題に衝撃を受けたカナダの映画監督キム・グエンが、いまだに紛争の絶えないコンゴ民主共和国で実際に児童兵士を取材し、いくつかの実話を編集した作品。監督自らストリートで発掘したラシェル・ムワンザが、“魔女”と呼ばれた主人公の14歳の児童兵士を演じている。

 本年度の米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートし、2012年ベルリン国際映画祭で銀熊主演女優賞を受賞。2012年トライベッカ映画祭で作品賞、主演女優賞をダブル受賞している話題作だ。

 歌手、タレント活動と並行して世界中でボランティア活動、文化活動を行い、98年には日本ユニセフ協会大使に就任し、飢餓地帯や紛争地域で視察を続けているアグネスは、「かなり衝撃的な内容だった。自分もアフリカのスーダンやダルフールで児童兵士に会ってきたので、思い出してしまいました」と、同映画の感想を語る。

 内容については「映像も迫力があって、主演の女優さんは自然な演技が凄く感動的だった。アジアとかアフリカの児童兵士の現状を凝縮して、一人の少女に託して物語を作ったと思う」と称賛したが、「改めてショックを受けて、やっぱり児童兵士はいけない、子供たちを絶対戦場に出さないようにいろんな国にこれからも呼びかけていきたいという気持ちになりました。やっぱり平和は大切だなと思いました」と、児童兵士反対の姿勢を貫く。
 アグネスが初めて児童兵士の問題を知ったのは99年で、激戦中の南スーダンを訪れたといい、そのときアグネスの通訳を務めた男性についてコメント。その通訳は元児童兵士で、危険な川を渡り、1ヶ月近くかけてエチオピアに辿り着いたが、「球場にみんなを集めて、2人の子供を前に出すんです。『一人の子供は物を盗りました。もう一人の子供は上司の言うことを聞きませんでした。さあ、この2人はどうなるでしょう?』と言って、その場で2人の子供が撃たれて殺されたんです」と、兵士の過酷な現実を明かした。

 さらにアグネスは「彼は地雷をばらす役目で、地面に腹ばいになって地雷をばらしていくから、失敗すると顔が吹っ飛ぶんです。彼の親友が失明したので、『絶対に戦場に戻りたくない』と言って、彼は英語を勉強して通訳になりました」と、その男性が通訳になった経緯を説明。

 そして、アグネスはスーダンで取材した12歳のサンティーノ君について、「かなり背が高い子だけど、12歳で下半身不自由で元兵士なんです。6歳でお父さんが政府軍に殺されて、11歳で撃たれて、下半身不自由になったんです」と紹介し、「撮影中にサンティーノ君が『私たちの裸の姿を撮って、笑うでしょ!? 私たちのこの貧しい姿を見て、日本の人は笑うでしょ!?』って怒り出したんです。貧しくて、ろくに服も着ていないから」という出来事を告白した。

 アグネスは「そんなことない。日本の皆さんが心配しているから、絶対笑わない!」と言い返し、泣き出してしまい、その日の撮影はこれ以上は危険ということで中断に。翌日、サンティーノ君は「ごめんなさい。昨日おばちゃんを泣かしたのはわざとじゃないんだ」と謝り、アグネスに「一つだけお願いしていいか? ウチの母はどこかで生きていると思うんだ。お母さんのところに戻りたいから探してくれないか?」と、泣きながら懇願したという。

 アグネスはサンティーノ君を抱きしめたが、「私がちょっと動くだけで、ぶたれるんじゃないかって怖がるんですよ。手を上げただけで振り向いたり」と、戦争の傷跡の深さを物語るエピソードを語った。

 また、スーダン西部のダルフール地方で、反政府軍の小さい子供に「学校へ行こう」と誘われ、「泥で固めた壁だけ残っていて、『おばちゃんこの穴とシミ見える? これ脳みその跡だよ』って言うんです。『ジャンジャウィード(馬やラクダに乗った民兵組織)が学校の男の子をここに並べて殺したんだよ』って。私は背筋が寒くなって、号泣しました」と、現地の凄惨さを語ったところで、アグネスの目にも涙が。スタッフが用意したティッシュで涙を拭くアグネスの姿に、場内も静まり返っていた。

 昨年、ユニセフ協会大使としてブータンを視察したアグネスは、4月にナイジェリアを訪問する予定。「いろんな国で戦争している子供たちが、直面している問題がいっぱい入ってます。日本でそんなことは起きてないけど、ぜひ忘れないでほしい。児童兵士の数がゼロになる日を夢見て、活動を続けていきます」と、同映画を通じてメッセージを送った。

 9日よりシネマート新宿ほか全国順次公開。
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児童兵士の現実に涙するアグネス